面手ぬぐいじゃなくても剣士
公園にやってきた。
俺らの地域には大小様々な公園があるが、ここは小さい方。砂場とかもう全然砂なくないかあれ。
それでも青いブランコ付近に小学生っぽいのが二人。黄色いジャングルジムにも二人いる。この小ささの割には人気ある感じだ。青い鉄棒はだれも使っていない。石造りの水飲み場も一応ある。
丸太を横に切ったような形をした薄だいだい色ベンチがふたつ。そのうちのひとつを俺たちが占領した。
自転車はスタンド掛けた。
そしてベンチに並んで座るということは、背筋ピシッな道城を見られるというわけで。道着着てなくても道城は道城だった。
「そういや道城って、普段休みの日は、どんなことしてんだ?」
素朴な疑問って、聞こうと思ったときには周りにいなくて、周りにいるときには聞くのを忘れてるもんだよな。
「友達と遊んでいる」
「
あいやいたって普通なことなんだが、道城なら黙々となにかに打ち込んでいるかと思っていた。
「夜は素振りをしているが」
「あ、おぅ」
俺の何倍やってんだろ。
「どんなことして遊んでるんだ?」
「マンガを読ませてもらったり、一緒にテレビを見たり、クッキー焼いたり」
(超インドア派じゃん)
しかもクッキーて! 女子か!!
(女子ですねすいません)
ほらだってこの眼差しっスよ?
「昨日は母さんと一緒にクッキーを焼いた。持ってきたのだが、食べるか?」
(!?)
うおぉっしゃああぁあーーーーー!!
「お願いします!!」
あ、つい剣道
「わかった」
ここで道城の膝の上に、ちっちゃいオレンジ色カバンの出番がやってきた。カバンの出番がやってきた。いやなんでもない。
カバンは脇に置かれ、出てきたのは包みし赤いバンダナ。日々の面手ぬぐい結び&解き作業で培われた鮮やかなる手つきでそのバンダナが解かれると、赤いボディに白いふた、ふたにはうさぎが飛び回ってる絵が描かれてあった。つまりきゃわわなお弁当箱っていう感じの物だった。
長くもしっかりとした道城指たちによってぱかっと箱が開かれると
(おおー!)
薄い茶色・濃い茶色の二色、形も~、動物系で統一されてるんだな! のクッキーが、ラップに敷かれて登場した!
「……よろし?」
「ああ」
許可をいただいたので
「いただきまーす!」
早速右手親指と人差し指で、薄茶色の方をつまんでぱくり。
(もぐもぐ……こっ、これはっ!!)
硬すぎず軟らかすぎず!
「んまい!」
(うあぁ~手作りクッキー差し出しといてからのその笑顔うあぁあぁ~っ)
なんだ俺。どうした俺。幸せすぎて今日が人生最後の日なんじゃなかろうか?
(続いて茶色いの)
「なるほどこっちはチョコレートか!」
「クッキー、好きなのか?」
「おうよ!」
道城の作った物ならなんでも食べるぞ!
「もっと早くに渡せばよかったな」
きゅ~ん。
「昨日はケーキも作ったんだ。食べるか?」
「ケーキ!? 食べるぜ! ってケーキって作れるもんなんか!?」
あ、パティシエさん作ってっけど、そゆことちゃうくて! 一般人がって意味さ!
「ああ。崩れるから、持ってきてはいないのだが」
「ん? おぅ」
持ってきていない物を、食べるかって聞かれましても? って、もう幸せクッキータイム終了? まだ中身が残っている状態でバンダナ封印施されてしまったが。
「これは古樫にやる。箱は今度返してくれたらいい」
「うぉほぼっ」
ちょ! 道城のおててのてててがてててのて……
(この左手に来た温もりだけでご飯三杯余裕です)
「てかお持ち帰りしていいんスか!?」
「ああ。そんなに好きなら、全部食べてくれていい」
「あざぁす!!」
俺の好きな食べ物欄に、クッキーが追加されました。
「行こうか」
「お? おぅ」
鉄棒に? それともジャングルジムで小学生とガチバトルか?
(そのスカート軽くぱたぱたするのも女子)
きっと道城なら、剣道してなくても好きになったろうなぁ。
ってあれ。公園出たぞ。道城の靴飛ばし飛距離とか小学生とのガチバトルとかを、ちょっと見てみたい気もしないでもなかったが。
「あのー。道城さん?」
「なんだ?」
なぜか敬語俺。
「次の目的地はどちらへ?」
「ケーキを食べてくれるのだろう?」
「お、おぅ、もちろんさ?」
うん。おいしいよね、ケーキ。
「古樫はどんなケーキが好きなんだ?」
「そりゃチョコレートっしょ」
「そうか。ちょうどよかったな」
ショートケーキよりもチョコレートケーキ派。
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