向日葵と眼鏡
@_mol
第1話
「楽しそうだな」
彼女との会話はここから始まった。
ここは22世紀の病院。AIやらロボットやらがせっせと働く、ごくごく一般的な一室だ。しかし、そこにいつもはない、不気味な空気が流れていた。
「そんなことないですよ」
眼の前にいる裸眼の少女は、元気そうに答える。
この部屋にそぐわない、その表情で。
「君………何しに来たの……?」
「お兄さんひどいなぁ。ここカウンセリングルームですよ!」
少女は一見不服に見えるセリフを、満面の笑みで読み上げる。僕はつけていたメガネを外し、もう一度、手元の用箋挟に手を付ける。
彼女の名前は「ひまわり」と言うらしい。世に「名前負け」という言葉があろうものなら、彼女はまさしく「名前勝ち」している、そんな女の子だった。整った顔立ちに、照度35000ルクス超えの明るすぎる表情。この部屋には、軽く違和感まであたえる。
「今日はどうして、こちらへ?」
そんな違和感は気にせず、いつも通り仕事を進める。マニュアル通り丁寧に。淡々と。彼女は表情を変えないまま、ゆっくりと事情を話した。
※
彼女の悩みは、神経の持病に関するものだった。その持病が関係して、大学で人間関係がうまくいかず、カウンセリングまで来たらしい。
彼女の持病は、「顔面神経麻痺」。表情が固定される神経の病気である。彼女の顔は、笑っているのではなく、笑った状態で固定されていた。
きっとそれがコンプレックスになっているのだろう。彼女の口から「やっぱ怖いですか?」と一言。しかし、言われなければ気づかないほど、その笑顔はとても自然である。
「怖くないよ」
自分の思考を淡々と、正直に答えたつもりだ。
しかし、そんな考えとは裏腹に、首元は冷や汗をかいていた。
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