第26話

「……お前も、門が閉まっているのに魔界の瘴気の影響があるのか?」


 それは、『勇者たかひろ』と会話していて何となく同じことを感じ始めていた。


――たぶん、『勇者たかひろ』がゲーム主人公でお父さんに操られていたから特殊な存在だったんだ。そのことを知っていて、転生してきた私も……。


 でも、それは可能性の話でしかなく、確認する方法はない。


「そもそも、この魔界の門が閉まっている世界で、国王が監禁している屋敷に忍び込んでくるなんてことを考えること自体が変だよな。」


「協力してくれる友人がいたから出来たことです。」


「協力?……どうせ、お前がそそのかして手伝わせたんだろ?この世界の住人は騙されやすくなってるからな。」


「うっ……。それを言われると反論できない。」


「ふん、まぁ、そうだとしても俺には関係のない話だな。俺にも何もすることが出来ない。」


 30年は『勇者たかひろ』が、この状況を諦めて受け入れてしまうには十分な時間だったと思えてきた。

 昔のゲームだったので主人公が語る台詞はなかったが、好青年として描かれていたはず。それが、こんなにも荒んでしまっているのだから少し可哀想になってきた。



 冒険の間に犯した罪は、父・貴弘が勇者にやらせていたことに他ならない。この勇者の姿を見ていると、娘として謝った方が良いのか迷ってしまう。

 ただ、勇者が罪を犯していなかったとしても、門の開閉が出来る限り監禁対象になってしまうのだろう。


「……とりあえず、こんな話で良かったのか?」


「はい、ありがとうございます。色々、ヒントにはなったと思います。」


「ヒント?……こんな話が何のヒントになるんだ?」


「この世界を面白くするためのヒントです。」


 私は答える時、少し悪い顔になっていたかもしれない。この世界が退屈な理由は、『門が閉じているから』であることが判明した。


 人間を罪に導くものが七つの大罪であるかもしれないが、人間が人間らしく生きるために必要なものかもしれない。


 そして、『勇者たかひろ』と話をしていて、一つの可能性を知ることも出来た。


――もしかしたら、私も門を開け閉め出来る存在かもしれない。


 澤村美憂が異世界転生した理由や『勇者たかひろ』が父親の分身ともいえる存在であることを考えあわせれば、可能性は高いと感じている。


「……この世界は、つまらないか?」


「私にとっては、退屈な毎日になっています。」


「それなら、『魔界の門』を開けるのか?」


「えっ!?……でも、それを出来るのは、勇者のあなただけなんですよね?」


「誤魔化さなくてもいいさ。お前は、『もしかしたら』自分にも可能性があるかもしれないと思ってるんじゃないのか?」

 

「……そ、それは……。」


 そこで『勇者たかひろ』はグラスに入ったお酒を飲んでから再び話し始めた。


「お前と理由は違うが、俺も考えなかったわけじゃないさ。」


「魔界の門を開けることを?……せっかく閉めたのに?」


「そうだ。『元の世界』の方が良かったんじゃないかって思えていたんだ。たしかに、魔王や魔物の存在に怯えてはいたが、それに立ち向かうために一所懸命に生きていた。」


 私には『元の世界』という単語が引っかかってしまう。私にとっての『元の世界』は、澤村美憂が生きていた世界になる。


「今は、違うと感じてるの?」


「なんとなく、『生きている』というよりも『生かされている』っていう感じかな?お前が言うように『つまらない』のかもしれないな。」


 魔界の門の影響を受けなくなり、善人ばかりになった世界では生きづらくなっているのだろう。

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