第12話 鍛錬4
我が弟子、ノアちゃんの朝は早い。
「ししょーが遅いだけだと思うのです」
いつも通りの死んだ目も、この時間帯なら眠たげに見えるぐらいの早朝だ。具体的に言うと太陽が昇る前の時間帯である。
「エルフは大体、この時間帯には起きるですよ?」
どうやら、ノアちゃんだけが特別というわけではないらしい。
「というか、エルフはそんなに早く起きて何をするんだ? 花の水やりか?」
「日の出を見ながら自然を全身で感じて、一体感を得るです!」
「つまり、ぼーっとしていると」
「自然を感じて一体化してるです!」
「ものは言い様だな」
――とまぁ、そんなやりとりをしながらも、ノアちゃんはしっかりと着替えて準備運動をこなしている。
尚、着替えの最中で「悩殺ポーズです! うっふ〜ん♪」とか下着姿でやってきたので、鼻で笑っておいてやった。
こいつ、たまに調子に乗るからな。
突っ込み用にハリセンでも折っとくか? 紙とか超高価だけども、弟子の戒めの為なら金に厭目はつけない。無駄遣い万歳である。
「それじゃあ、走ってくるです! 押忍!」
ノアちゃんの朝の日課は、ティムロードの町を走り込むことから始まる。
色々なスポーツ、もしくは格闘技に共通して言えることだが、肉体の中で最も重要で鍛えなくてはいけない部位は下半身であることは疑いようがない。
動き回ってもバテない為のスタミナの強化、更にはスピードの強化や技の威力の強化に下半身の強化は直結する。それを疎かにしていては密な練習も出来ないということだ。
三十分立っていただけで、座り込んじゃうような軟弱者は要らんのである。
というわけで、ノアちゃんの下半身の強化は急務だ。それに伴って今日から少し鍛錬のレベルを上げてみよう。うむ、思い立ったが吉日である。
「ノアちゃん、こっちに来なさい」
「です?」
「やぁやぁ、ここに取り出したるは石の詰まった背負い袋だ。さぁ、これを背負って走り込んでくるのだ」
ずっしりとした背負い袋を背負ったノアちゃん。
「うー。背中が硬くて痛いです」
背負った感想がそれかい。
流石に二週間もみっちり筋力トレーニングを続けていただけあって、重さに対する感想は出てこないようだ。
いつもの事と思っているノアちゃんの反応は罪深い。
いや、罪深いのは、そういう意識を植え付けた俺か? 反省。
反省はすれども後悔はせず。
勝つためにはやらねばならんことなのだ!
それにしても、あの背負い袋十キロぐらいあるんだけどな?
「重くないの?」
「重い以上に痛いです!」
「あ、痛くない姿勢もあるから、それを探しながら走ると良いぞ」
「なるほど、分かったです! では、行ってくるです!」
「気を付けてなー。帰ってきたらシャワー浴びて朝飯だから、寄り道するんじゃないぞー」
少々走りづらそうな様子で、ノアちゃんが部屋から出ていく。
ちなみに、あの背負い袋の中の石の配置は、全部計算付くで設計している。そう、あれこそがちょっと地味だが『特訓君六号』である。
そして、石の痛みから逃れる為に矯正された姿勢は剣を振るのに適した姿勢となる予定なのだが……。割りと雑な造りなのでどこまで効果があるのかは正直分からない。
まぁ、最悪、重りを背負って走っているので体力強化には繋がるだろう。
何にせよ、アイドル資格試験まで残り二週間を切っている。ここからは実戦的な訓練も混ぜていかないと、戦えるようにはならないだろう。
まぁ、先の二週間を基礎トレに費やしただけあって、最低限動けるだけの体力は付いている……と思う。ここからは勝つための努力だ。ノアちゃんも気合いが入るだろう。
ふむ、時間はあまりないのだが、変な感じだ。ワクワクというか、ソワソワというか。
うーん、俺も楽しみにしているということか?
★
ノアちゃんと合流して、朝食を手早く終えた俺たちはグエンタール商会へと向かう。此処でもノアちゃんは、日課の筋トレをいつものように行う。
この世界は経験値制度で出来ている為、少しぐらいサボっていても急激に力が衰えることはないが、今まで積み上げてきた経験値が少しずつ減っていくことはある。それは、サボる時間が長い程に加速度的に経験値が減っていき、一定のレベルにまで達するとスキルにデバフが付くといった感じとなる。
分かりやすく言うと、ノアちゃんが今鍛えている【剛力】のスキルレベルがLV1のexp137だとした場合に、訓練をサボるとこのexpが徐々に減っていく。
そして、サボっている期間が長い程、減少する速度は早くなり、expがゼロになるとスキルの本来の力が発揮できないといったようになるのである。
尚、スキルレベルが下がることはない。
まぁ、ちょっと考えてみれば分かるが、字が上手く書ける奴が、少しサボっていたら、いきなり象形文字みたいな文字しか書けなくなったなんて事は普通に考えてあり得ないからだ。
だから、腕が錆びるといった表現と同義で、この世界ではスキルにデバフが付くようだ。
まぁ、こういうことがあるので、経験値維持の為にも、なるべくなら訓練はサボらない方が良いのである。
特にノアちゃんは、今は他のアイドルと水をあけられている状態だ。そんな状態で訓練の厳しさを緩める選択肢はあり得ない。
ますます差を付けられてしまうしな。
とはいえ、流石にそろそろ実戦訓練をしないとまずい。
体を鍛える事と、相手を倒すことは決してイコールではないのだ。
ノアちゃんには少し剣の振り方を教えた方が良いだろう。
というわけで、グエンタール商会内で買い物である。
ノアちゃんが頑張って荷運びをやっている間に、俺はグエンタール商会の中を見て回っている。
流石はグエンタール商会だな。
見て回るのも一苦労だ。
だが、今回は気ままにウインドウショッピングというわけではなく、買うものは決まっている。
俺は建材を扱っていたひとつの店に入っていく。
このティムロードの町は北の森が近いこともあり、一般家庭は木造の家が大半で、あえて石造りの建物などを造る場合にはこういった建材屋に頼む必要があるのだ。そして、こうした建材屋は見本として様々な石材やら、稀に稀少な鉱物を置いていたりする事が多い。
俺は見本として置かれている建材の中から、鉱物で出来た短い柱のような物を片手でひょいと持ち上げていた。
ふむ、まぁこんなものか。
「お、お客さん、勝手に……って、えぇ!? お、重くないんですかい?」
店員さんが俺の暴挙に驚いて出てきたが、その光景を見て、すぐに言葉を引っ込める。
俺が持ち上げた建材はアダマンタイト製。
クソ頑丈な代わりに、クソ重いという欠点を持つ素材だ。
だが、そんな欠点を持ちながらもベテランの冒険者には人気の素材で、彼らは壊れにくいアダマンタイト製の武器を重宝する。命を預ける得物に一番求められるのが頑丈さということなのだろう。
そんな重い事で有名なアダマンタイト製の建材を俺が片手で軽々と持ち上げたのだ。
店員の口から文句が途絶えるのも無理はない。
「こいつはいくらだ?」
「えぇっと、家の建て替えですかね? それとも、柱の入れ替えですか?」
「いや。ただ、こいつが欲しいだけだ。建物に関わる追加依頼のようなものはない」
「その柱だけ、ですか?」
まるで変な生き物を見つけたかのような微妙な表情はやめるんだ。
俺がいたたまれないだろうが。
というわけで、建材屋でサンプルとして置いてあったアダマンタイト製の柱をゲット。俺はさっさとグエンタール商会内の人気のない場所へと移動してナイフを取り出す。
ナイフといってもただのナイフではない。
神造金属オリハルコン製のナイフである。
ちなみに、特注で作らせた物ではなく、昔攻めてきた魔族をボコボコにして取り上げた略奪品だ。
アイツは「家宝が~、家督が~」とか言っていたが、知ったことではない。迷惑料はきちんと取り立ててやらないと、こちらの丸損なのでやる時はやるのが俺の流儀である。
そんなナイフを使って、建材を縦に九分割する。これで、細く四角い棒の出来上がりだ。見た目には細い棒だが、見た目に反して重量がある。
俺は数回振ってみてから、柄の部分を細く削って持ちやすいようにして、滑り止めに皮を巻き付ける。これでとても重い簡易木刀……いや、アダマンタイト刀の完成となる。
普段なら武器を自作した後は何かしらを試し切りするのだが、町中ではそうもいかない。収納袋にアダマンタイト刀を突っ込みながら、周囲を見回して――。
――仕事をしていたらしいジミー君と目があった。
「……なぁ、試し切られてみたくはないか?」
「絶対嫌っす!」
ですよねー。
★
「というわけで、本日から剣を使った訓練も開始するぞ。その分、少しだけ筋トレの密度が減るが、まぁ、誤差だな」
「剣というか、棍棒です!? そして、期待を裏切らない重さです!?」
ずっしりと重いアダマンタイト刀を両手で持ち上げながら、ノアちゃんの額には珠の汗が浮いていた。あれだけ筋トレをこなしてパワーアップしても重いものは重いらしい。
なお、昼飯をがっつりと食べた後、俺たちは町の外の草原にまで来ていた。
いつもなら、ここで熱湯運びの外周マラソンを延々とやるのだが今日は二周で切り上げている。
その代わり、本日からは剣の修行を開始する――というわけだ。
「さて、弟子よ。剣を振る上で一番始めに覚えるべきは何だと思う?」
「強くぶっ叩く方法です!」
「一生棍棒を相方にするならそれでも良いぞ?」
「ちょ、ちょっと待つです! 考えるです!」
ノアちゃんは暫く、あーでもない、こーでもないと悩んでいたようだが、結論が出たようだ。
「は、早く動く方法です?」
何らかの経験から導き出した結論なのだろうか? 何となく目の奥に自信が見える気がした。
でも、まぁ、不正解だ。
「正解は、剣の握り方だ」
「握り方です?」
「基本にして重要な部分だ。意識していないと変な癖が付くことも多く、そうなってしまうと剣筋が鈍ってしまう」
「剣筋が鈍るっていうのは、どういうことです?」
「簡単に言うと、振りが遅くなって、伸びが無くなる。刃も通らなくなって、斬れなくなるぞ」
だが、ノアちゃんは俺の言葉を聞いても、きょとん顔だ。
仕方ない。実際に振ってみせるか。
俺は大袈裟に脇を開いて、アダマンタイト刀を横から両手で握り込む。
そうすると、親指と人差し指の付け根が、柄の側面にくる形となり、まるで壺の中身を棒で掻き回す魔女のようになる。
この持ち方だと持つのは疲れないのだが……。
ひょんっと軽く振って、地面に斬撃痕を残す。深々としたそれは大人一人が入っても簡単には出てこられない程に深い痕だ。
うん。全然駄目だな。
「ノアちゃん、今のが悪い例だ」
「えっと、物凄く鋭く見えたです」
「あれでも、物凄く加減してるんだがな……。で、まぁ、こっちが正しい握り。教えてやるから、ノアちゃんも一緒にやろうか。
「押忍です!」
「まずは握手をするように手を伸ばす。これが基本の持ち方。親指と人差し指の付け根が剣の峰の延長線上に沿うように持つんだ」
「棍棒に峰も何もないのです」
「そこはイメージで補うのだ。うん、持てたな。では、右手は鍔に近く、左手は柄の終わりに小指が掛けられるくらいまで離して握る」
「何か、凄く持ち難いです……」
正しい持ち方をしたことで、ノアちゃんの脇はしっかりと閉まっている。いいぞ。
「そのまま、真っ直ぐ頭上まで振り上げて、真っ直ぐ振り下ろす。その際に、右手を支点として、左手で剣をコントロールしろ。握りは柔らかく、左手の小指、薬指、中指の順で徐々に力を入れて握るんだ」
「そんなに一度に色々と言われても分からないです!」
「アッ、ハイ」
とりあえず、ノアちゃんが理解するまで付きっきりで見守る。
時には、俺がゆっくりと振って見せ、何度も何度も試行錯誤を繰り返しながらノアちゃんも自分の剣の振りを矯正していく。
一時間程そんなことを繰り返しただろうか。
どうにかこうにか、ノアちゃんの振りも見れるものになってきた。
だが、まだ持ち方が急に崩れたり、真っ直ぐ振り下ろしているつもりで斜めになっていたりと安定しない。
この辺は、素振りを繰り返して、
ちなみに、まだ唐竹……上から下への振り下ろししか教えていない。斬擊の種類は刺突も含めて九種類あるから、あと八つの剣の振り方を教えながら安定させる必要がある。
これを後二週間でこなさなければならない。
…………。
まぁ、無理だな。
とりあえず、表の必殺技として唐竹を覚えさせ、裏の必殺技に逆風を覚えさせるか。残りの七つの斬擊はそこそこに覚えて貰おう。
というわけで、俺はノアちゃんに特殊な素振りを指示する。
唐竹を一として……。
二、袈裟。
三、左薙ぎ。
四、右斬り上げ。
五、逆風。
六、左斬り上げ。
七、右薙ぎ。
八、逆袈裟。
九、刺突。
時計回りに斬擊に番号を付けて、俺が言った斬擊を瞬時に振るようにするといった練習方法だ。
これは、ボクシングで言う所のナンバーシステムに近く、正確無比なコンビネーションと瞬間的な判断力を養うのに有用である……と思われる。
ナンバーシステムが剣の練習に有用かどうかは一種の賭けである。
そもそもノアちゃんは戦闘の素人。
戦闘の駆け引きなんて分かっていないだろうし、理解も出来ないだろう。
そんな彼女が相手に勝つ方法があるのなら、有用なコンビネーションによる攻撃を覚えるべきなのだ。
ボクシングで言うところのワンツー。いわゆる、早いジャブからの重いストレート。
このコンビネーションが良く練習されるのは、そのコンビネーションがそれだけ有用だからだ。
剣術にも、それに似た有用な斬撃の組み合わせがある。
俺はそれをノアちゃんに覚えさせたい。
勿論、状況に応じて、構えを変えたり、攻め方を変えたりと変幻自在に動いて最善の結果が出せるなら、それに越したことはないが……現状では不可能だ。
だから、実戦で使えるコンビネーションを俺が数字で読み上げて、それをひたすら反復練習させる。
相手の意識を散らし、相手に隙を作り出させるコンビネーションを覚えさせる。
それで出来た隙にノアちゃんがこの二週間で鍛え上げた筋力で最大の一撃を叩き込む。
それが、ノアちゃんが一ヶ月の特訓で出来る最高の攻めだと俺は考える。
受けていては勝てない。攻めて、攻めて、攻めまくるのだ。
それこそ、防御には経験がいるしなぁ……。
回避してカウンターなんてカッコイイけど、素人には無理だ。
その為には、相手を翻弄するだけの剣速が必要である。それを用意する為の筋力トレーニングであり、意識の逡巡を断ち切る為のナンバーシステムなのである。
「……ってことで、理解したか?」
「す、少しですけど……」
「まぁ、やっていけば嫌でも理解するだろう。それじゃあ、数字を言うぞ。一、五」
「え? えっと、えっとです……あぅっ!」
「尚、遅かった場合は癒しの木刀で叩くから。避けれるものなら避けてもいいぞ」
ちなみに、癒しの木刀とは殴られた相手が回復するというお遊びアイテムである。
昔、『攻撃する度に自分が回復する武器(通称、吸血武器)』を作ろうとして失敗した欠陥武器なのだが、思わぬところで出番があったな。
「うー! そういうのは、叩いてから言わないで欲しいです!」
「はい、もう一度。一、五」
「です!? と、とりゃ! とり……痛いです!?」
「間違っている場合も攻撃が飛びます」
「理不尽です!」
「なら、必死で覚えろ。それとも、二週間後に醜態を晒す気か? 俺は別に構わないが、お前はまた耐え難い屈辱に身を焦がすことになると思うぞ?」
「うー……。うう~! もういっちょです!」
「じゃあ、二、六、一」
「え!? 一、五じゃあないです!? ……痛いですっ!」
「お、避けようとしたな。感心感心」
「フェイントかけてくるとか卑怯です! 少しは子供に対しての慈しみを覚えるのです!」
「子供に対しての慈しみはあるが、弟子に対しては厳しいのだ。そら、次行くぞ」
「ひぃ~、鬼がいるです~~~!」
★
日が沈むまでの厳しい特訓の末、ノアちゃんのナンバーシステムはある程度形になってきてきた。
特に、フィニッシュを重点的に唐竹と逆風に指定したこともあり、俺が最後に「一」、もしくは「五」と伝えた時の動きがやたらと早い。
必殺技へ昇華させようとしているから別に良いのだが、ヤマを張っているのか、たまに言ってもいないのに唐竹や逆風をしてしまうのが困りものだ。
そんなわけで、俺たちは夜の町中を歩いている。
しごき過ぎたのか、ノアちゃんの足取りが
そういえば、この特訓で思わぬ副産物も得られた。
なんと、ノアちゃんの防御技術がほんのちょびっとだけ上達したのだ。
俺がミスをしたら手を出すから、それを回避しようとして技術が磨かれたようである。何でもやってみるもんだな。
しかし、攻撃と防御で二重に特訓することになったノアちゃんはヘロヘロのヨタヨタで使い物にならなくなっている。
まぁ、頑張れとしか言いようがないな。
「も、もう駄目です……。腕上がんないです……。死ぬです……」
「大丈夫大丈夫。俺がマッサージしてやれば、明日にはケロリだから」
「そういう問題じゃねーです……。ノアは今この町にいる、どのアイドル候補生よりも頑張っている気がするです……」
「まぁ、ここまでサボっていたからな。それぐらい頑張らないと相手にもならないんじゃないか?」
「耳が痛いです……」
反論する声にも力が無い。相当お疲れのようだ。
本来なら、いつもの店で栄養バランスの取れた食事を与え、ダメージを抜きつつ、今後の訓練の方向性についても話し合おうと考えていたのだが、どうもそれも難しそうだ。
仕方がない。
ノアちゃんは少し前まで、普通の子供だったのだ。
それが急に一念発起して、剣神を目指そうと思ったとして、中身が急に変わるものではない。
過酷な特訓に泣かずについてきているだけ、良くやっている方だろう。
とはいえ、彼女の頑張りとは関係なく、周囲も同じく頑張っている。
その差が縮まっているのか、そうでないのか、それが良く分からないからノアちゃんもイマイチ実感が湧かないのだろう。
ふむ、そうだな。
「では、この町でノアちゃんが一番頑張っているか確かめてみるか?」
「ふえ?」
「確かこっちにアイドルやアイドル候補生たちが借りることが出来る訓練施設があったはずだ。この時間帯でもやっている奴がいるか確認してみようじゃないか」
「ええええ!? そんな施設があるですか! ノア、利用してないですよ!?」
「実力で劣るノアちゃんが相手に勝つには奇策しかないからな。わざわざ不特定多数の前で手の内を見せることはない」
「でも、町の外とかで人に見せるように特訓してるですよ?」
「俺の言った不特定多数っていうのは、アイドルのってことだ。あの時間帯にわざわざ特訓施設を使わずに、町の外で訓練を行うアイドル候補生なんて金のないD級冒険者ぐらいしかいないだろ。そんな相手なら別に見られたところで大した脅威にはならない」
見ただけで対策が立てられるほどの頭があるなら、C級に上がっているだろう。だから、D級冒険者程度に見られたところで痛くも痒くもない。
そもそも、先程からノアちゃんの奇策に、対策を立てられる前提で話しているのだが……完全に無名のノアちゃんがマークされる理由が全くない。
そう考えると、ノアちゃんの心配はほぼ杞憂なのだ。
「まぁいい。とにかくライバルたちの現状を敵情視察だ。行くぞ」
「あ、待って欲しいです! お腹減ったから、何か買って欲しいです!」
そういえば、この辺は食べ物の屋台が沢山出ているな。
「仕方ない、少しだけだぞ。後で夕食も食べるんだからな」
「やったです! じゃあ、あそこの焼き鳥の屋台と、蒸し饅頭の屋台と、それとそれと……」
「なんでそんなに屋台の位置に詳しいんだ?」
「早朝トレーニングの際に、いつも応援してくれてるおっちゃんたちがいるのです! そこの食べ物がいつも食べたかったのです!」
くっ、そういう理由だと、数を制限しにくいな……。
「仕方ない、あまり満腹にならない程度に食っていくぞ」
結局、一食抜かすぐらいに買い込みながら、俺たちは訓練施設へと足を向けるのであった。
「お、この肉饅頭美味いな……」
「おっちゃん、良い腕してるのです!」
「へっ! ったりめーよ!」
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