昨日死んでしまった比喩に添付する
・枯れ枝をポキポキを折りながら歩いている少年を、なんとなく追い越したくて、少しだけ速く歩いていた。
●5/13
ブラウン管のテレビで、今も無理やり見ているのが家の実家。それでいてDVDレコーダーは最新モデルを使ってるっていう矛盾、ではないか、けどそういった事が昨日、昨日はと日記に思い出しながら書く度に一つや二つ思い出す事が多い。適当にボールペンを走らせる。
今、握っているのは、空港で、アンケートに答えた時に貰った物だ。かれこれ1年近くは使っている。観光地に行く度に、何かのボランティアに参加する度にポールペンを貰った。そして、そのポールペンで日記を書くのが適当な自分の続けている日課だった。
夜、誰かが寝ているような気がする、きっと隣で、背中合わせで寝ている誰かを起こさないように、そっと寝顔を伺いながらペンを走らせると、ザラ半紙を捲る音がとても耳障りだ。
誰も何も起こさないように、寝室を出る。そしてペンを走らせる。今は昨日の昨日の夢の中で見た夢について記述している。冷蔵庫から冷えたビールとグラスを取り出し、適当にテレビをつけながら酒を飲み、適当に泥酔した速度で書く。ペン先の音がとても耳障りだ。
昨日読み終わった本の名前を書く。内容は忘れてしまった。但し本の名前は覚えている。但し著者の名前は思い出せない。何、読んだんだっけか、と首元を掻き毟る。部屋の温度が急に上がったような感じがする。確かに何も思い出せないが、それでもペンを置くことはない。中身を適当にでっち上げる。所謂、適当な創作とビール、いや適当なワインだったかもしれないし、適当なウイスキーだったかもしれないが、しかし、そんな事はどうでもいい。大事なのは酒に酔い適当に体を揺らしながら適当にペンを走らせて適当な読書の思い出を適当にザラ半紙の上に書き付ける事。ペンは旅行先で貰った安いポールペンで、机の上の錆びたペン缶の中には観光地の名前が入ったペンが沢山置いてあって、毎日の気分でどれにしようかなと適当に選んで適当に書き付ける事。
けど、そうやって書いた日記を読み返す時に、書いてない物事を思い出す事が何度かあった。その度にこれは自分が書いたものなのだろうか? いや、それは、勿論そうだと思うんだけれども、ならば、では、その網目をかいくぐるようにもう一度書き始める必要があるんじゃないのか。ノック式のボールペンで再び戸をコンコンコンとたたく。それは卵が割れるような音で。二週目は慣れているからといって、物事の勝手が分かる訳ではない。あらゆる物は平気でねじ曲がり、適当に折れている。
さて、昨日の昨日の夢の中で見た夢の話だ。
●5/14
枯れ枝をポキポキを折りながら歩いている少年を、なんとなく追い越したくて、少しだけ速く歩いていた。すると少年は、追い越される前に死んでしまった。自分が殺されるのではなく、見知らぬ誰かがこうして殺される夢は初めてだった。死体に駆け寄り、適当に肩に掛けていたバッグの中身からライトを取り出して、目の中を覗いてみる。
見事に死んでいた。綺麗さっぱり死んでいる。血が胸元から徐々に広がっていくのが見える。片膝を地面につけていたので、ズボンを通してぬるま湯に近い感触が肌に伝える。
バッグの中を覗くと血に塗れたナイフが一本入っていた。つまり、自分が殺したんだろうか。という事は死体をどこかに隠す必要があるという事だ。つまり死体遺棄だ。少年を背負い、山を登った。穴を掘り、その中に埋めた。跡が分からないように葉を被せた。ここは田舎の村だから、よほどの事がない限りバレないだろうと思った。しかし、自分が書き付けたミステリーは簡単に解かれた。町にいるところを呆気なく捕まって刑務所に入れられて尋問を受ける。その後適当に護送されることになる。行先は福島県にある更生施設で、施設は全面座敷になっている。入所者は全員頭を綺麗に剃り上げる。その時の自分の設定は「小学生を殺した男子高校生」。
入所一日目から寝坊して片玉を潰される処罰を受けた瞬間にハット目が覚める。自分で自分の睾丸を掴んだままの状態で目が覚める。
●5/15
枯れ枝を拾う事で生計を立てている少女がいた。おさげ髪の少女で、名を潤奈と行った。褐色の肌に栗色の瞳がよく似合う美少女で、近くに住む男たちは、彼女が道を歩くだけで振り向き、求婚するも、×
●5/16
枯れ枝が一面に咲き誇っている公園のベンチに老夫婦が座っていた。何をしているんですか? と尋ねると、枝を拾っているのだという。こんな枝を拾って、何をしているんですか? と尋ねると、焚き火をして温まりたいのだという。
バッグの中には紙やすりのついたマッチの箱が入っていた。しかし、中に入っているマッチ棒は一本だけで、それは真ん中から二つにへし折られていた。
枯れ枝を拾い、それを小さな山のように組み合立て、そのお腹に枯葉を積み込み、マッチを擦り火を付けて焚き火を作ると、老夫婦は着込んでいるみすぼらしい厚着の中から一つの卵を出してきた。なんでも卵を火で温めると孵化が始まるという。そんな馬鹿な、と思いつつどんな鳥が生まれるんですか? と思ったり聞こうとしているとヒビが割れて、中から人間が出てきた。老夫婦はとても嬉しそうに「まぁ」と笑い、自分はその時初めて、人間は卵から生まれてくるのだと知った。
●5/17
新しい土地に出向いて、新しいボールペンを買う。新しい本を買い、新しい知識を得た。新しい食材を得て、新しい料理を作った。新しい電子機器を購入して、それで物を書き始めた。ブラウン管のテレビで新番組をみる。新しい週刊雑誌を購入してアンケートに答える。新しいヨーグルトを買って食べてみる。新しい服を買ってみる。新しい歌を買って一日聞いてみる。新しい知識を使って何か書いてみる。新しい話を使って新しい話をする。新しい話をしながら枯れ枝を一つ一つ折っていくと、枯れ枝で編みこまれた鳥の巣があり、その中に一つ卵が入っていた。それを右手で力一杯握りつぶそうとして、できなかった。だからそこにナイフを改めて刺してみた。そしてその中には人間がいた。生まれてくるはずの子供たちだった。白身と黄身。卵黄をかき混ぜて食べる卵かけご飯を美味しそうに頬張る。そしてそれは、新しい食材。新鮮な卵の味だ。しかし、その卵を生み出した鳥が食べている餌はコーンだ。そのコーンから生み出した卵を食べているのは人間だ。だから髪の毛の成分をよく見てみると大体コーンの遺伝子なんだそうだ。これはアメリカのドキュメント映画で得た新しい知識だった。
●5/18
ブラウン管のテレビで、映画を見ている。ヘイ、マイケル、スティーブ! いや、もうちょっと色々な名前があったような気がするような気がする。でも何も残っていない。書き付ける度に思うのは、そこまで新しい名前という奴もない。本当にそうなのだろうか? というと、はやりそうでもない。中々新しい名前も沢山ある。それは昔も同じ感じだ。祖母は自分の名前が嫌いだったそうだ。「子」が名前の尻にないのが嫌で嫌でしょうがないと言っていた。名前はここに書かないが今からみると、多少は古臭く感じるかもしれないが、とても綺麗な一文字の名前だ。しかし、昔はそうでなかったという。祖母は気を使うのが得意だから余計に色々な事に対して×
●5/19
星達がピカピカ光っているのを少年が指差している。少年は欄干に尻を乗せて足をブラブラしている。それを突き落としてやりたい。そっと背後から忍び寄っていくと、隣におさげ髪の少女が座って、そこでキスをし始めた。そのキスはとても長かったので、かなりムカついた挙句二人共海に突き落としてやろうと思ったが、しかし、星が綺麗だった。あれには名前があるという、一つ一つ、名前があるという。昔からある名前が殆どで、そこには星座が結ばれている。だからこそ、今でも夜空に見えない線を感じる事が出来る。
そして流れ星が流れる。二人の死体を埋めた山の星空は綺麗すぎてどうしようもなくなくない? そして星が流れている。望遠鏡を使えばここで、木星も見えるんだと村人達が教えてくれた。
祖母の名前は絹だ。絹糸のような子に育ってほしいと名付けられたそうだ。それはとても恥ずかしい事か? きっとそうではないと思う。あれは美しい名前だと思う。思っている時に地面の中から這い出して来た少年少女達の腐った四肢が股間をまさぐり急所を定めた。そして、俺の両玉を握りつぶした。パイプカット、無精卵、セックス。
つまり流れ星のイメージで言葉が輝き始めて見事に焼け死ぬ。
そして、流れ星が欄干に落ちて俺たち共々三人皆纏めて海の向こう側へ落ちていった。
それはつまり、描く放物線はまるで卵管のイメージ、
●5/20
枯れ枝を犬が食べている
犬が枯れ枝を食べている
犬にご飯をやろう
犬に僕のご飯を分けてあげる
犬はとても喜んだまま僕の首にとても噛み付く
犬は噛み付いて離れない
犬は尻尾をワンワン振っている
犬はとても臭い
犬の唾液
犬の精液
犬、犬、
犬に卵をあげる、
これが人間の卵だよ、
膝を抱えて眠っている卵だよ
罅が入って、今にも割れそうな卵だ、
ペンを走らせよう、
ペンを走らせる、
ペンの中のインクが溶け出して、
卵の殻に文字を書き付ける、
お前の書いた文字だ、
お前の生きた経験、
お前の生きた知識、
お前の生きた思考、
お前の生きた言葉、
お前が書き付けた言葉、
お前が書いたどうでもいい話
お前の生きた日常だ、
お前の精液が降りかかる、
お前の卵の中に、宿った命は、誰の胃の中に入るか?
お前の髪、お前の、精液、生きたからだ、お前の比喩、
お前の比喩は、お前のボールペンで書かれた、
何度も殺される卵、
朝日に焼けた十字架の上へ、
落とし、目玉焼きつくす、
おはよう、
目覚めのいい朝は皆殺し、
●5/21
何度も殺した比喩が、お前の夢に出てきますように、
と星をつかむような確率で、
なんとなく願いながら、
ペンを枕元に置いた。
そして、いつものように目蓋を落として、
何も聞こえなくなった、
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