27.その説明は誰のため?
宙を舞う本のダンスに素直に感動していたかったイルハとリタが無念なことになったのは、
その行き付く先が……
埃まみれの小さな棚の上、いや、よく見れば台車の上だったからである。
「まぁ!大変だわ!」
リタが思わず叫んだのは、先に浮いた本がことりと台車に落ちた瞬間、溜まった埃がぶわっと舞ったからに他ならない。
小屋の外にあるのに、思わず一歩足を引き、小屋から離れてしまうイルハとリタだった。
シーラだけは「失敗したぁ」と呑気な声を上げて笑っているが、小屋の内部は笑いごとではない。
「先に荷台を外に出しておけばよかったね。埃も勢いで吹き飛ばして──」
言い掛けたシーラが途端に顔色を悪くして、イルハを見やった。
「魔術は使ったら、駄目なんだっけ?」
イルハが神妙に頷いて返すから、シーラの顔色がますます曇る。
「そうですね。本来であれば、許可出来ないことです」
「あれ?でもさっきは皆の前で魔術を使っていたよ?それは良かったの?」
「先ほどの分の許可は取ってありますので、安心してください」
「許可を貰っていたの?」
「えぇ、申請書を出しただけですが。改めの際に、船を動かさずとも、スクリューや帆の状態を見せて頂くつもりでしたから」
「それなら今も使って平気?」
イルハは顎に手を添え、しばし考え込んだ。
シーラが不安気にこれを見守っていて、何故かリタまで同じく不安な顔をして両手を揉んでいる。
それもそのはず、イルハが法に関して即答しないというのは、かなり珍しいことなのだ。
「目撃者がいる前提で考えますので、少々お付き合い願います」
「目撃者って?まだ誰かここにいるの?」
シーラは幼い顔をさらに幼くするように目を丸めた。
「いえ、この場には誰もおりませんよ。こちらの都合になりますが、念のため、誰が何を見ていても問題なきように対応させてください」
分からないとシーラは首を傾げたが、イルハはちらと遠く王城の見える部分を眺めてから、シーラに向き直り、言葉を重ねていった。
「船が海上にあろうと、ふ頭に係留している時点で、国内における法が適用されるところです。しかしながら、航海前後ということで、海上に関する法を適用することも出来なくはない状態にあります。こちらを適用した場合、領海内において初回の来訪者に限り異国民は特例として許可なく航海上必須な魔術だけは使用することが可能です。しかしながら、すでに来訪登録を済ませた今、あなたは許可を得てから使用すべきであって、それもやはり航海上必須な魔術に限定されます」
シーラは困った顔でリタを見上げたあと、またイルハに視線を移して言った。
「……とても難しいよ?」
「説明をした事実が必要なので、分からずともしばし聞いていただけますか?」
「聞くだけでいいの?」
「えぇ、今はそれで構いません」
うんうんと頷いたシーラは、やはりイルハが何を言いたいのか、さっぱりと理解することは出来なかった。
イルハがようやく、シーラの分かる言葉に変えたのは、長々とした口状がひと段落したあとのことである。
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