とりの子

ネオン

拾って育てた

ある農村に、30代前半の男と女がいた。彼らは夫婦である。

ある日、男は畑仕事を、女は在宅で仕事をしていた。

いつも通り仕事をして、休憩中、女はなんとなく外に出た。

なんか来る、と言う予感がしたのだ。

庭に出てみると、そこには一羽の大きな青い鳥と、カゴがあった。

どうやらカゴの中には赤ちゃんが入っているようだった。

その鳥は女をじっと見つめている。

どうか受け取ってくださいと懇願しているように感じた。

「いや、別に受け取ってもいいんだけどね、ちょうど子供欲しかったし。でもね、人間の世界って大変なの。いい、鳥さん、拾った子供は育てられないの。養子縁組も大変らしいし。残念だけど、施設に連れてくしかないわね。」

女は真顔で鳥に言い聞かせた。

その言葉を理解したのであろうか、鳥は硬直した後、しばしば考えるそぶりを見せた。時折、唸り声を出していた。

数十秒後、突然、クァーーー、と高い声で鳴いた。女は、うるさっ、と顔をしかめた。

鳴き声に驚いた赤ちゃんもウギャーーーと大声で泣いた。

鳥はあたふたして女に助けを求めた。

「何やってんの」

女は呆れながらも赤ちゃんをそっと抱き寄せてあやした。女は赤ちゃんを泣き止ませることに成功した。

鳥は何度もブンブンと頭を下げた。

そして、鳥は赤ちゃんの入っていたカゴの底に敷いてあった布を引っ張ってカゴの外に出した。

鳥は女の方に視線を向けながら、クチバシでカゴの中を指し示した。

「なんかあるの?」

カゴの底にはなんと、母子手帳など色々入っていた。それを見た女は、ふえっ、と間抜けな声を出して固まった。

鳥は、そんな女を心配して、ガホッと咳払いをしてから、

「大丈夫か?」

と言った。その声は

その声に女は我にかえって、大丈夫と答えた。

「てか、あんたしゃべれたのね。ならもっと早く喋りなさいよ」

「いや、驚かせたら悪いと思ってな」

「鳥がしゃべったくらいじゃ驚かないわよ。そんなことより、この手帳とかどうしたのよ」

「詳細な説明は省くが、その子はもともとお前たちの子だと世界に登録しておいた。世界を変えたから、お前たちに子どもがいても誰も疑問を持たない。安心して子どもを育ててくれ」

「わかったわ」

女はすんなりと鳥の説明を受け入れた。

「でも、あの人はどうなってるの?」

「ああ、お前の旦那のことか。お前の旦那も、子供がいることに何の疑問も持たない」

「よかった、説明の手間が省けたわ。でも、なんで鳥が人間の子どもを持って来たの?」

「それはだな、たまに、人間の子どもが果物の中から生まれるんだ。ほら、桃太郎、とか知ってるだろ。昔なら、そのまま川に流して人間に拾ってもらっていたんだが、最近はそうもいかなくてな。最近の人間は拾ってくれなくなった。だから、子どもを欲しいと思っている、そして、子どもを大切に育ててくれそうな人のところに直接届けることにしたんだ」

一度、言葉を切り、鳥は女を真剣な眼差しで見つめた。

「どうか、この子をよろしく頼む。我らでは人間を育てる事は出来ない。よろしく頼んだ」

地面にクチバシがぶっ刺さるほど頭を下げた。

「安心して、この子はちゃんと育てるから。たまに見に来てもいいわよ。いや、見に来なさいよ」

その言葉を聞いて安心した鳥は、顔を上げて、恩に着る、と言った。

「ねえ、そういえばこの子、あんたがここまで運んできたの?」

「ああ、小さな人間を運ぶくらい楽勝だ。普段から石が入ったカゴをクチバシで咥えて、持ち上げたり下ろしたりするのを、1日100回3セット毎日欠かさずやってるからな。それに加えて、様々な筋肉を鍛えるために筋トレを毎日やっている。俺の筋肉見るか」

自慢げにポーズを取っている。

それを見て女は若干、いや、物凄く引いている。

「いや、見なくていい」

鳥はとても悲しそうな顔をした。

「そうか……。そろそろ帰らないと。その子をよろしく頼む。じゃあな」

そう言って鳥は飛び去っていった。

女は鳥を見送って、抱いている子どもを優しい眼差しで見つめた。

「よろしくね、幸太郎こうたろう


そうして、慣れない子育てに戸惑いながらも夫婦で協力してなんとか幸太郎を育てて、親子3人で仲良く幸せに暮らしましたとさ。


おしまい


ちなみに、あの鳥は時折子どものことを見にきているそうです。

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とりの子 ネオン @neon_

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