インサイド・ドリーム

紫花

序章

「んんー……、すごくいい天気だね!」

優しい声が暖かい日差しと共に俺をあたためてくれる。

この世界に来てから、この草原に足を運んで彼女の隣で何度寝転がって休んだか考えたが、彼女が雪のように綺麗な手で頭を撫でてくるから、すっかり忘れてしまった。彼女の方を眩しそうに見上げると、彼女は俺の視線に気付いたのか微笑んでくれる。顔立ちも綺麗な彼女の微笑みは天使以上の可愛さがあると思っている。

「あぁ……、今日はいつもより暖かいから寝やすいよ。」

「もう、ヒイラギくんはそうやって寝てばっか……。たまには体動かさないと。」

そう言いながらぷくぅっと頬を膨らませて怒った表情を見せる彼女────カレンは、まだ知り合って数ヶ月しか経っていない。きっと何年もの付き合いがあるように俺は感じているのだろう。

《夢の世界》─────この世界に来たのは1年前。この世界での名前は仮想にすぎない。自分達の現実での名前を忘れてしまっているからなのか、それとも意図して記憶がから排除されているのかは不明だが、名前だけは思い出せないのだ。そして俺の名前、ヒイラギも同じだという認識をしている。いわばゲーム感覚で名前を名乗ることができる。

カレンを横目で見ながら、よっと起き上がった。

彼女は急に起き上がった俺にびっくりしつつも、どこへ行くの?とたずねてくる。どこか不安そうな顔をしている彼女が愛おしいと思いながらも、何も言葉をかけず、そして近くにあった自分のコートと剣を持ち上げて歩き出した。そんな俺の後を、カレンはちょこちょこと着いてくる。そんな彼女の様子すら愛おしいと感じながら、帰ろうと呟き、それを聞いた彼女は安堵した表情をした。《海岸層マーレ・ストラート》にある俺の家へ帰るのは何日ぶりだろう。

いつもは彼女は家に帰っていたが、昨日の夜、彼女から一緒にヒイラギくんの家に行きたい、と言われたので一緒に帰ることになったのだ。

「今日は何のご飯がいいかな……。昨日はうさぎ肉を使ったカレーだったし。」

「そうだな……、肉料理も食べ飽きてきた頃だし、そろそろ魚料理に挑戦してみるか?」

「あ!それはいいね!……ねえ、魚、家にあるのかなぁ。」

そんな日常の会話ですら楽しいと思えるのは彼女だからだろう。毎日の日課となっている散歩や、狩り、魚釣りも俺達にとってみれば貴重な時間だった。

「いつ、この世界が終わるのかな……。」

そう、この世界は《現実の世界》じゃない。

いつどんなタイミングで覚めてしまうのか、そしてこの記憶がなくなってしまうのか、俺達はわからないのだ。

そんな不安そうな彼女の声に返答せず、帰路の道を進むのだった。

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