第22話 閑話

 ソート村にて神敵者が発見されたという知らせは直ぐに世界各国へ伝えられた。各国全てに伝手を持つ教会経由で。


 神敵者は見つけ次第排除するのが掟。

 取り逃がしたと告げられた各国は当然教会を責めた。それは表面上だ。

 

 どこから流れたのか神敵者を取り逃がしたという噂が各地に広がっていた。

 一般人にまで知られれば対処しないわけにはいかない。

 

 神敵者の始末は掟として決まっているが各国としても難しいのは理解している。

 

 神敵者の討伐ランクはSS。

 冒険者ギルドで定められている討伐ランクはF〜SSの8段階。

 神敵者はその最上位に与する。

 優れた神殿騎士といえど勝てるわけがないのだ。

 掟はあくまで心がけ程度という認識だ。


 クロント王国王都クロス。

 人族最初の国として知られている。

 長い歴史をを持つ国であり、当然今までに何度も王の代替わりが行われてきた。

 代替わりが行われるたびに国民は疑問を持った。

 代替わりにではない。

 新国王の見た目にだ。


 即位した国王は皆見た目が若い。

 今代の王であるライドリヒ=クロントも例外ではない。

 

 どんな秘密があるのか。

 国民は興味を持つが知るすべはなく、結局王族専用の若返り薬があるという噂に落ち着く。

 真実が明かされる日が来るかは謎だ。


 

 

 謁見の間。

 3段ほどの階段の上、豪奢な椅子の上に座った白髪の人物。

 血のような紅い瞳は退屈に染まっている。

 クロント王国今代の王――ライドリヒ=クロントだ。

 

 見た目は若く30間近あたりだろう。


「話は以上か、聖女よ」


 問いかけられたのはユーリア教会聖女だ。

 黒の聖女――ロゼリア=ティルス=ユーリア。

 

 ライドリヒから向けられる圧力は30そこらの人物のものではない。

 もっと多くの年月を重ねた重さがある。


「そのことに関してはこちらの不手際です。言い訳の仕様もありません」


 ロゼリアは顔を挙げず淡々と告げた。

 

 聖女として幾人もの王や重役と会ってきた彼女。最初に比べれば緊張は減ったが消えず苦手意識があった。

 なぜこうも緊張を抱くのか。

 目を見れば全てを覗かれるような恐怖を覚える。


 頬を伝う汗を拭うこともせずただひたすらに頭を垂れる。


「此度のことは罪には問うまい。誠意は見せてもらえると信じている」

「ありがとうございます。教皇陛下にも此度のことはしかとお伝えいたします」


 ようやく話が終わりロゼリアは内心でため息を吐いた。

 退出を促された時には下着まで汗が染み気分が悪い。


 謁見の間から出たロゼリア。

 扉が閉まったのを見るとその先にいる人物に向けて「バケモノめ…」と呟いた。


「陛下。よろしかったので?」


 ロゼリアが退出した謁見の間。残った者の1人が問いかけた。

 白衣を来たボサボサの黒髪の人物だ。

 クロント王国随一の研究者――アガレスティ=バブルフ。

 大きな丸メガネを掛けた姿はドジっ子のような印象を受ける。


「問い詰めた所で意味はあるまい」

「そうですか? これだけの失態問い詰めなければつけあがると思いますがね。ただでさえ教会は権力が大きな場所ですから」


 世界の至る所にユーリア教会は存在する。

 全人類が魔法を覚えているわけでは無い。治癒院や孤児院を経営している教会は依存システムとして成り立っている。

 

「アガレスティ。やはり貴君は研究以外には頭を使わないようだな」

「研究者ですからね」


 皮肉に笑って返すアガレスティ。


「陛下。教会を問い詰めない理由をお聞きしてもよろしいですか?」

「既に起こってしまった事象に何を言った所で時間の無駄だ。仮に問い詰めた所で教会に何が出来る? 謝罪と共に金品を差し出し有耶無耶にしてくるはずだ。ならばここで責任を問わず貸しとするほうが賢明とは思わないか?」

「そういうことですか。納得しました」


 頭を下げてアガレスティは下がった。



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