神喰獣(フェンリル)〜少年は世界を破壊し変革をもたらす
@lusya
1章 覚醒
第0話 プロローグ
職業は中学生。
どこにでもいる少年だ。
特筆すべきこととして、彼はマザコンである。母に対して並々ならぬ情を持っている。
世間一般では気持ち悪がられたりするが、彼にとっては些末な問題だった。
彼の家はシングルマザーだ。
生まれたときに既に父親はいなかった。
一心に愛情を注いでくれて、間違ったことをすれば母親として、父親として叱ってくれた。
そのような理由から母のことが大事であり、大好きだった。
何か役に立ちたい、手助けしたい、そんな思いを抱くのは時間の問題だった。
宗太の想いも理解できる。
されど親としては苦労なく、不自由なく過ごしてほしい。だから頑張る。
その姿が彼には無理をしてるように映ってしまう。
自身のために頑張ってくれるのは嬉しいが、少しは我が身を大切にしてほしい。
想いはあれど中学生では何もできない。
歯痒く、悔しい思いが募っていた。
ある日、宗太が学校から帰ると珍しく母が家にいた。
玄関先で人と話している。
内容から宗教的な話であるようだ。
横を通り過ぎた際に訪ねてきた人物に見覚えがあることに気づく。
(誰だっけ?)
もしこの時宗太が思い出していれば何かが変わったかもしれない。
しかし思い出すことはなかった。
数カ月後。
中学校にいた宗太のもとに教師が慌てて駆けつけ、衝撃の事実を告げた。
「城木くん、お母さんが… 急いで病院に」
教師の車に乗り急ぎ病院に着いた宗太。
案内された先は霊安室だった。
(…違う)
無機質な部屋に一人用の寝台、その上に寝転ぶ人物。
顔の布をゆっくりと外す。
宗太の顔から表情が抜け落ちた。
「…な、なんで」
「城木くんっ!」
崩れ落ちる宗太を同行した教師が支える。
「違う。違う。違う。違う」
「すいません。どこか休めるところをお貸しいただけませんか?」
「わかりました。こちらへ」
中身のない人形のように壁に寄りかかる宗太。
周囲からは哀れみの視線や今後の生活を心配する視線が刺さる。
何で母が死んだのか。
何で母が死ななければならなかったのか。
病院に向かう途中、教師から「お母さんが刺された」というのを聞かされた故の思考だった。
無気力なまま事の顛末を聞いた宗太。
母を刺した犯人は未だ分かっておらず、現在も逃走中だということ。
母が亡くなり、一週間。
身寄りのない宗太は施設に引き取られる事になった。特段嫌がることもなく、寧ろ進んで施設に入った。
理由の一つに施設が実家から近場にあったというのが大きい。
宗太には目標があった。
母を失ったあの日。
好きだった母を殺し幸せを奪った犯人を見つけ出し、真相を問いただすこと。
これから幸せになってく、幸せにしてく。
描いた未来を失った悲しみを糧に行動を起こした。
汚いことにも手を染め情報を集める日々。
その中でようやく手がかりを掴んだ。
実家からほど近い場所にあった家に真相を知る人がいた。
初老の夫婦だった。
それはあの日、横を通り過ぎ際に見覚えのあった老人だった。
「おい、さっさとせんか」
「分かっていますよ。急かさないでください」
「ったく、毎日毎日警察が事情を聞きにきて鬱陶しいったらありゃしない」
「それはあなたが城木の女を殺したからでしょ」
「仕方ないだろう。あの女は儂らのすべてを否定したんだぞ」
インターフォンを押す手前、聞こえてきた会話に手が止まる。
そこから会話を聞いた宗太は大凡の話を理解した途端怒りが爆発した。
庭に転がっていた太い木の棒を手に取り窓を割った。
驚きに顔を染める初老の男性。
初老の女性は別の部屋に行ってるのか、いない。
「何だきさ――」
宗太は容赦なく頭を打ち抜いた。
飛び散った血がシャツを赤く染めるのもいとわず殴り続けた。
「ふざけるな ふざけるな ふざけるな!」
最初はただ、真相を聞くだけで良かった。
反省していれば許した。
母は優しく、争いを好まない。復讐など望むはずもなかったから。
だが、殺したという自白、まったく反省していない。あまつさえ、警察から逃げるために引っ越ししようとする悪質さ。
我慢の限界を迎えた。
そのあと宗太は老婆をも同じ目に合わせた。
「何をするの? やめ、やめなさい!」
「やめる? そう言ってお前はやめたのか? 違うだろ!」
更に一発。
「私はやってない! 爺さんが全部やったのよ! 私はただ見てただけで…」
更にもう一発。
「なら止められただろっ!」
昨今の経済的問題により老夫婦は困窮していた。
そこで思いついたのがニセ宗教だった。
偽物の宗教団体を作り、苦労している者たちをうまく入信させ、金を巻き上げるというものだ。
運悪くターゲットになったのが宗太の母である。
シングルマザー、周囲からの重圧、様々な理由により宗太の母は精神的に脆かった。
宗太を溺愛しているのを知っていた夫婦は宗太をダシに入信させることにしたのだが…
うまくは行かなかった。
「幸せになりたいのであれば宗教などに頼らず自身の力で努力すべきです。そのための不幸期間が今であるというのなら私は努力して幸せを掴みます。宗太のためにも」
楽して稼ごうとする老夫婦の考えを真っ向から否定する言葉だった。
これに老夫婦、特に男性が生き方を侮辱されたと怒りをあらわにした。
◇
宗太は老夫婦が企んだ計画を知り嫌悪した。
金を稼ぐために宗教を利用し神の名を語り、人を騙す。
宗教に罪はない。されど、そうたの目には汚いものと映った。
そういう目的で使われるということは過去にそういった事例があるからだと。
「あぁ これから俺はどうすればいいのかな、母さん…」
犯人に復讐し生きていく目的を見失なった。
「やっぱり、俺は地獄に落ちるのかなぁ」
一度だけでいいから母さんに会いたい。抱きしめたい。頑張ったねって言われたい。
そんなことはあり得ないと分かっていても願わずにはいられない。
宗太はその首にロープにかけた。
「会いにいくよ きっと」
祈りながら。
(誰に祈るっていうんだか…)
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