七つの大罪最強決定戦 ※欠席者3名

譚月遊生季

メールの件名「七体の悪魔よ集え! 今こそ最強を決める時が来た!」

 戦乱により、大地は荒れ果てた。

 遺された人類は、思想統制による偽りの「平和」を……


 ……と、いうのは、今回はどうでもいい話。


「暇じゃ」


 亜麻色の髪の少女はそう呟き、空を仰いだ。


「おっ、閃いたぞ!! やはりわしは賢く美しく気高く、完璧じゃな!」


 何やら思いつき、少女はすっくと立ち上がる。


 少女は悪魔と呼ばれていた。

「悪魔」……いつ、なぜ、なんのために現れたのか……多くの謎に包まれているとはいえ、人智を超える力を持った「ヒトならざる者」であることは間違いない。

 この時代の人間が失ったとされる欲望……その中でも、かつて「七つの大罪」と呼ばれた業を抱くのが……


 ……と、いうのも、今回はさほど重要ではない話。


 少女はスキップをしながら、他の悪魔たちを探しに荒野を進んだ。




 ***




「と、言うわけで、わしら悪魔の中で誰が最強か……決める時が来た」


 数時間後、少女は数人の前で仁王立ちしていた。

 長い赤髪の青年が口を開く。


「話の展開が唐突に過ぎるのだが」

「何じゃと? わしがあまりに賢すぎるゆえ、ついていけぬということか」

「ハッ……くびり殺されたいようだな『傲慢』……!」

「ふふん、『嫉妬』よ、存分に妬むが良いぞ。わしが誰より愛らしく賢く強いことは、この世の真理じゃ」


「嫉妬」と呼ばれた青年は大きく舌打ちをし、ぎろりと少女を睨む。本来はもう一つの人格が同時に喋る場面だが、今は眠っているらしい。左右で色の違う眼は、片方が閉じられていた。


「落ち着きな、『嫉妬』」


 と、そこでつやのある女の声が響く。


「腹が立つなら、あんたが『傲慢』を打倒してやりゃあいいのさ。……なんたって、あたしらはこれから最強を決めるんだからねぇ」


 黒髪の癖毛を弄りつつ、女はニヤニヤと笑う。

 隣では、金髪の男が穏やかな笑みを浮かべて佇んでいた。


「ふん、『色欲』に『強欲』か。下らない遊びに乗り気とはな」

「たまにはイイじゃないか。……って言っても、四人しかいないねぇ。他の三人はどうしたんだい?」

「よくぞ聞いてくれた。それには深い訳があるのじゃ」


 女の疑問に少女が腕を組むと、金髪の男が初めて口を開いた。


「どういった訳でございますか? 差し支えなければ、教えていただけると幸いです」


 三人の視線に促されるまま、「傲慢」の少女は神妙な顔つきで語り始める。


「まず……『憤怒』と『暴食』じゃが……見つからなかった」

「見つからなかった」


 金髪の男の復唱に、少女は頷く。


「うむ。見つからぬものは仕方あるまい。わしが探して見つからぬということは、誰が探しても見つからぬ」

「…………。『怠惰』はどうした」

「断られた」

「何ッ、断る権利があったというのか!? おのれ『怠惰』……姑息な手を!」


 思わぬ盲点に、「嫉妬」は戸惑いを隠せない。


「そんなら仕方ないねぇ。4Pになるのかい?」

「待て『色欲』。私は参加すると決めていない。そして、その言い方は如何いかがなものか」


 舌なめずりをする「色欲」から、「嫉妬」は思わず距離をとる。


「では、始めるかのう」

「話を聞け!?」


 ……と、盛る「色欲」をたしなめている間に「傲慢」は強引に話を進めようする。

「嫉妬」が「強欲」の方を見ると、ただただ穏やかに笑っているだけで腹の内が見えない。


 ──よもや……ツッコミは私だけではないか……?


「嫉妬」の胸中に嫌な予感がよぎったことは、言うまでもない。




 ***




「それでは始めるとしよう。……まずは、『最強』の定義からじゃ」

「……何?」


 手っ取り早く全員をぶちのめして終わらせようと考えていた「嫉妬」だったが、「傲慢」の言葉に眉をひそめる。


「なんじゃ? まさか、拳で解決するつもりじゃったのか? 野蛮じゃのう」

「粗挽き肉になりたいらしいな」


 額に青筋を立てる「嫉妬」に対し、傲慢はチッチッと指を顔の前で振る。


「強さとは、何も単純な力とは限らぬぞ。殴り合いで決めたとして、偏った指標でしかなかろう」

「一理ありますね。ところで、賞品の方はいつ発表されるご予定でしょう?」

「『強欲』よ。それは勝負が終わってからのお楽しみじゃ」


「強欲」の問いに、何も考えていなかったことを隠しつつ、「傲慢」は適当にその場を凌ぐ。


「かしこまりました。楽しみにしております」


 にこやかな笑みを浮かべ、「強欲」は引き下がった。

 後で何か考えておくか……そう「傲慢」が考えたことを、心の読める「色欲」以外に知る者はない。


「知力、体力、運……少なくとも三つの要素を満たす勝負を、先程思いついた。天才じゃろう。褒め称えよ」

「ああ……セッ○スでどっちが先に××か、とか?」

「『色欲』。貴君は少々黙っていろ」

「まあ焦るでない。説明してやろう。……三つの要素を兼ね備え、それでいてシンプルな勝負……それは……」


「傲慢」の自信たっぷりな表情に、「嫉妬」はゴクリと息を飲む。「強欲」は相変わらず感情の読めない笑みを浮かべ、「色欲」は心が読めるので全てを知っていた。


「たたいて・かぶって・ジャンケンポン……じゃッッッ!!!」


 くわっ。

 そんな擬音が響くような表情で、「傲慢」は叫ぶ。


 ──やはり馬鹿では無いのか、この悪魔……!?


「嫉妬」が反応に困るのをよそに、「傲慢」はふふんと胸を張り、自慢げだ。


「確かに駆け引きもあるし、ヘルメット被ったりハンマーで叩いたりで体力も使うし、運要素も絡むねぇ」

「質問よろしいですか? 心が読める方がいらっしゃいますが、その点はどうなさるのでしょう」

「……何? あ、そうじゃったな。『色欲』の能力で心も読めたか」


「強欲」の指摘に「傲慢」はキョトンと目を丸くし、とりあえず再び胸を張った。


「今のは忘れよ!」


 ──馬鹿であったか……!!


 愕然とする「嫉妬」に、残念そうな「色欲」、そして、変わらず穏やかに笑っている「強欲」……

「傲慢」は、ふっと誤魔化すように笑うと、瞳を赤く輝かせ始めた。


「……仕方ない。やはり、殴り合うのが手っ取り早いのう!」

「結局か……!」


「傲慢」の言葉に「嫉妬」は呼応するよう全身に力を込める。

「嫉妬」の能力は単純な身体能力の増強だ。殴り合いとなれば、有利に働く能力と言える……が、「傲慢」はまだ能力を明かしていない。


「……誠に恐縮ですが、後日にしていただけますか?」


 ……と、「強欲」の言葉が一触即発の空気を緩める。

 やけに下から聞こえたな……と、「嫉妬」が声のした方に顔を向けると、地面に金髪の生首が転がっていた。


「……。何が起こった」


「嫉妬」の問いに、首を失った胴体が困ったように肩を竦める。

「色欲」が推測を告げる。


「故障じゃないかねぇ」

「そういえば、『強欲』の身体も機械じゃったのう……」


 詳しくは「そして悪魔も夢を見る」本編を読めばわかるが、彼ら悪魔は生身の肉体を持っていない場合がある。

「強欲」の胴体がどうにか自らの生首を拾い上げ、頭に乗せる。ぐらつきはするが、繋げることはできた。


「仕方ない。次集まるまでに、メンテナンスをしておくのじゃぞ」

「次回の賞品はお決まりですか?」

「……もちろんじゃ!」

「おい貴君、また妙な余興に巻き込むつもりか」

「あたしは構わないよ。次こそ7Pしたいねぇ」

「だから妙な言い方をするな……!!」


 ある者は文句を垂れ、ある者はニヤニヤとほくそ笑みながら、悪魔たちは思い思いの方角へと散っていく。

 これはほんの序章に過ぎない。最強の悪魔を決める戦いは──


「まあ、飽きたからもうやらぬがな」


 言い出しっぺの気まぐれにより、すぐに終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

七つの大罪最強決定戦 ※欠席者3名 譚月遊生季 @under_moon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る