《Endless World》~その日、親友が死んでデスゲームが生まれた~

小桜 丸

~Prologue~


『そういえば……明日は《Endlessエンドレス Worldワールド》のオープンベータが始まる日ですよね?』

『あっ、そうそう! クローズドベータはとっても面白かったから、若葉わかばちゃんも一緒にやろうよ!』

『配信のガイドラインとかって大丈夫なんですか?』

『うん大丈夫だよ! 一通り見てみたけど、特に制限っぽい制限はないみたい!』


 一人暮らしの男部屋、大学二年生の青塚春斗あおづか はると

 画面の向こうでテンポの良い会話を交わすのは大手のVtuberブイチューバーMtubeえむちゅーぶという動画投稿サイトを開けば大体ライブ配信をしている。今は流行りのバトルロワイアルをプレイ中だ。


『有名な配信者さんとかプロゲーマーさんたちも沢山参加するみたいだよ!』

『へぇー、そうなんですね。じゃあ私もオープンベータを配信してみます』

『あっそうそう! SeNsuセンスさん! 企業案件、私たちはお待ちしてまーす!』

『あははっ、ここぞとばかりにアピールするんですね』


 《Endlessエンドレス Worldワールド》、略称EWを開発した大企業の名はSeNsuセンス。数あるゲーム企業の中で日本を象徴する精鋭企業として名が上がるほど知名度は高い。その理由はゲームというコンテンツを大きく進歩させた圧倒的な技術力。


「時代は、いつの間にか変わるもんだな……」


 配信を閉じてベッドで横になる。知らぬうちに視覚と聴覚が売りのVRが主流になっていたかと思えば、今の時代は五感が共有されるVRMMOが主流だ。時の流れは歳を取れば取るほど早く感じる。


「まぁ、俺には関係ないか」


 けれど俺にとってはゲームなんてどうでもいい・・・・・・。とうの昔に区切りをつけた。いや、区切りをつけるべきだと判断したと言うべきか。


「あぁそうだ! 大学の課題やらないと……!」


 今日の零時に《Endlessエンドレス Worldワールド》のオープンベータが配信される。配信者たちはお祭り状態になっているだろう。

 Mtubeには『初心者向け!効率の良いレベリング!』のようなタイトルの動画がアップロードされているに違いない。


「"アイツ"が中心になって作った──初めてのゲームか」


 EWの開発者は赤峰 陽介あかみね ようすけという男。天才的なゲームセンスを持つ──かつての親友・・だった。


「……あの頃が懐かしいな」


 赤峰は小学生の頃から共にゲームをして過ごしてきた親友。批評家気取りで話をする度に最近のゲームをつまらないだのと語り合った。今思い返してみれば、馬鹿丸出しだ。


『お前はゲームセンスが天才的すぎる。何で初見のゲームも上手くプレイできるんだよ?』

『……そんなお前もさ。どんなゲームも自分の思うように事を進めて、組み立てられるよな。そーゆうゲームメイクは天才的だと思うけど』


 俺がアイツを褒めれば、アイツもまた俺のことを褒め返してきた。ゲームメイクと言われても、自分ではいまいちピンとこない。ただいつもゲームをするときは俺が後衛の役割で、アイツが必ず前衛の役割だったのは確かだ。


「赤峰、どんなゲーム作ったんだろうな……」


 かつての親友が、天才的なゲームセンスを持つアイツが作った初めてのゲーム。少しだけプレイしてみたいという気分になったが、すぐに過去の記憶が蘇る。 


『……ごめん赤峰。俺、もうゲームをやりたくない』

『は? どういうことだよ?』

『俺さ、お前とゲームをする度に思うんだ。ゲームセンスが無いって。だから、もうやりたくなくて……』


 あれは高校一年生の夏。

 別々の高校へ通うことになった俺とアイツは、お互いが空いている日にどちらかの家へ集まり、いつも通りゲームをしていた時だ。


『待てよ。お前はゲームメイクが天才的だ。それにゲームセンスなんて気にする必要ないだろ? 二人で楽しくやれれば、それで十分──』

『もう、ゲームが楽しくないんだ』

『……!』

『高校に入ってからゲームに対する関心も失せて、興味も失せて……。お前がオススメしてくれたゲームも、買っただけで一回もプレイできなくてさ……』


 俺は歳を取るにつれてゲームに楽しさを見出せなくなった。ゲームをしていて笑えなくなった。ゲームを上手くなろうとする努力をしなくなった。そんな俺とは対称に昔と変わらず楽しそうにゲームをする赤峰。


 どうしても、耐えられなかった。 


『正直、お前とゲームをするのが一番楽しかった。一番楽しかったからこそ、楽しめなくなった今の現状が……もう終わりなんだと思う』  

『青塚……』

『……ごめん、今日はもう帰るわ』

『……』


 その日から、俺と赤峰は連絡を取り合わなくなった。俺はゲームに手を出すこともなく、ごく普通の日々を送りながら大学へ入学。対して赤峰は高卒で大手のゲーム企業へ就職した。


「やっぱり、やめておくか……」


 嫌な記憶を思い出し気分は落ちる。俺はベッドから起き上がると、変に考えることを止め、課題に取り組もうと立ち上がった。


「けど、人気作になってほしいな。アイツが作ったゲームだからこそ、絶対に面白いはずだ」


 心の底からそう願った──オープンベータがリリースされるまでは。


『EWオープンベータへと参加した一万六千人のユーザーがログアウト不可。開発者である赤峰陽介は自殺。最新技術の投与が最悪の事態へ』

「……どういうことだ?」


 次の日に見かけたネットニュース。

 俺は気持ちの整理が追い付かなかった。かつての親友が自殺をし、かつての親友が作ったゲームが最悪の事態を招いている事実。


『EWによる死者多数。仮想空間でのゲームオーバーは現実で命を奪う。医療機関はEW対策本部を設立』

「アイツ、何でこんなことを……」 


 ゲーム内で死ねば、現実でも死ぬ。そんな小説をどこかで聞いたことがある。そんなものは夢物語だと、現実で可能なわけがないと。しかしそんな夢物語を、この時代は可能にできる。


「……夢であってくれ」


 その日、俺の親友が死んで──デスゲームが生まれた。

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