いつぞやの非完全奇譚
さンノぜ
第一章 「亜眷」ヴィーラント・スミート
第1話 浅情報的会話
セヴァ・ルースタスと言う20代後半ほどの男が、椅子に座っている。銀色の髪を持ち、その神は少々長めで外側に跳ねている。例えば彼が黒髪で紫を基調とした服を着ていたのであれば、茄子などとあだ名がついていたことだろう。しかし彼はゆったりした黒い長袖ワイシャツの様なものを着ている。実際、意図しているのかは不明だが、普段から白と黒のモノトーンで構成された外観をしている為か、モノクロだの白黒人間だのと呼ばれる。彼はキカヤカと言う機械が主な商品の雑貨屋の店長をしている。と、カランカランと言う音がしてドアが開いた。そこにはピンク髪のセミロングの童女が居た。彼女はヴィーラント・スミート。身長は120cmほど、フリルスリーブと角襟がついた白い半袖のトップスを身につけ、その上にボタンを一つ、胸あたりで止めている。その上に、襟なしの、背面に白いラインが三本、それがアスタリスクの様に交わった模様が付いているピンク色の上着を着ている、と言うよりも羽織っていると言ったほうが適当である。下は、黒のラインが入った暗めのピンク色のフリルが着いたスカートを身につけ、胸元にはビビットピンクの、グログランのダブルリボンを付けている。外見からは育ちの良い少女と見受けられる。しかし、彼女はこう見えてもそれなりに歳を食っている。にも関わらず言動は少女そのものである。
「おはよー」
「ん、ラントか。どうした、何か買いに来たか?」
「いや、なんでもないよ」
「君がなんでもないって言うときは何でもあるのが鉄板じゃあないか? あ、すいません、会計ですね。ラント、ちょい待ってーな」
セヴァは計算をするための機械を打つ。ボタンが円形に並んでいるため、一見するとダイヤル式だがシステムはディジタルだ。正確には、電気でもないが。
「どうもありがとうございましたー。で、何だ?」
「へへ、実は神主から逃げてきてさー」
「またか。どこにいるかなんて大方見当つくからその内ここに来るだろ。それまでは居たって構わないけどさ」
「やった! ありがと!」
そう言い、店内を漫ろ歩き始めた。今店には客が一人も居ないが、繁盛していないと言うわけではない。今は昼過ぎなので、時間帯的に人が少ないだけである。それに彼の本業は全くの別物でこそないが、この店に関係した近しいものである。その為、商品の売り上げはおまけ程度のものだ。
店は木骨建築である。店内は壁も床も木製であるが、内部構造は組積造のコンクリートで出来ている。言うならば木骨コンクリートと言った所か。地震が多いわけでは無いためあまり心配しなくても良い。
「ねえねえ、これ何?」
ラントはそう言って褐色瓶を指差した。瓶には内容物がある。
「ああ、気になるなら開けてもいいよ?」
「うん、よいしょ。ってうわあああ!」
「ハハハハ」
瓶を開けた途端に、細長く足の多い生物が数匹ずるずると這い出てきた。ニスを塗布した黒檀のような光沢で、何やら濡れている。動きは幾ばくか鈍い。
「ちょっとー! 何これぎゃあああああ!」
「漬けガルメニナラって言うんだ。生態がら生きたまま漬物に出来る稀有な生物だよ。作ったはいいけど売れなくてねー。だもんで……」
「話が! 長い!」
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