異世界転生して街を創造しお気に入りキャラ集めてますが本命だけ来なくて大変ブチギレてますマジいい加減にしろこのクソ邪神ども!!
kayako
その1 待てど暮らせど来ない推し
※この作品は、とあるソシャゲで起こった事件を元に書いたものです。
あくまで個人的な事件であり、他のプレイヤーにしてみれば単なる1キャラの実装にすぎない話ではありますが、何とかしてほしいという思いが強く、衝動的にこの作品を書きました。全4話完結予定(場合によっては続きを書くかも知れない?)
キーワードに「悲恋」とありますが、第1話掲載の現時点(2021/11/8)では本当に悲恋になるかまだ分かりません。悲恋で終わってほしくない。
***
真上には紅と蒼、二つの月。
眼下には、豪勢に色とりどりのライトアップがなされた街並み。
街の中心部に建設した闘技場からは、人々の歓声が聞こえる。
そう。この異世界の街は、年に一度のお祭りの真っ最中。
でも私は──
今、人っ子一人いない山の頂上から、街を眺めている。
大きなモミの木に吊り下げて作ったブランコに腰かけて、持ってきたチーズバーガーを思いきり頬張った。
山といってもそこまで高くなく、せいぜい子供でも楽に登れる程度の標高。
だってこの山も街も、作ったのは私だからね。
私がこの世界に異世界転生してきたのは、5年ほども前。
転生の理由は、今となっちゃもう覚えていない。お酒の飲みすぎかソシャゲのやりすぎか仕事のやりすぎか──いずれにせよ、ろくな理由じゃなかったのは確か。
ここに来たばかりの時は、この世界には街らしい街が殆どなく。
あったものは、ただ荒れ果てた大地と、そこらじゅうから溢れだすモンスターばかり。
ただ私には、とんでもないスキルが与えられていた。
それは──
こことも現世とも別の、様々な異世界から、有能な人物を大量に召喚する技術。
転生したばかりの時、『神』から渡されたのは、スマホにも似た魔術具。というか、スマホそのもの。
それを使うと、無数に存在する異世界から、この世界に人を──
時には人ではないものまで、召喚することが出来た。
有能な戦士が、術者が、武闘家が、海賊が、開拓者が。
正義の心に目覚めた妖魔も、異形も、モンスターも、果てはメカまでも。
次々と私の手で様々な異世界から召喚され、この世界の怪物どもと激しい戦いを繰り広げ。
やがて私の指示のもと、街を築いていった。
だけど──
火術で自動点灯したランプの光を頼りに、『神』から渡されたスマホを、何となくたぐる。
様々な異世界のリストが掲載され、ページをめくるごとに違う世界の人物の画像が大量に現れる。
その中の、とあるページのとある人物の画像で──
私の手は、どうしても止まってしまった。
──やっぱり、彼だけは、来ないのか。
周りの人物の画像はキラキラ輝いているのに、その彼の画像だけはグレーアウトしたまま、光る気配もない。
ふっくらした頬に人懐っこい笑顔。笑ったせいで細い目がさらに細くなっている、八重歯の少年。
薄紅の三角帽子を被り、中華風の商人を思わせる着物を着た彼に──
私は見覚えがあった。
現世にいた時。
とてもつらくて、苦しくて、死んでしまいたいと何度も思った時。
ずっと私を現世に引き留めてくれていたのが、彼だった。そんな記憶がある。
今では何で自分が苦悩していたのかも、どうやって彼が私を繋ぎとめてくれていたのかも、殆ど覚えていないけれど──
リストの中に彼を見つけた時。
会いたい。彼に会いたい。
いつか私を助けてくれた彼と一緒に、世界を創りたい──心底、そう思った。
いつも人懐っこく私を呼びながら。だらしのない私を、時には叱りながら。
辛い時も楽しい時もずっと一緒にいてくれたはずの、彼と。
服装は勿論違うけれど、それでも彼は現世で、いつも私を助けてくれていた。確信があった。
多分彼は現世の私にとって、恋人か、夫か、家族か。そういった絆を育んだ存在だったのだろう。
私と同じように、彼も何らかの形で異世界転生して、このリストに載ったんだ。
だけど現実は──
5年もの間、どんなに求めても、彼は来なかった。
というのも、リストに掲載されている無数の人物のうち、この世界に呼べる者は、『神々』によって選ばれた者だけだから。
その選定基準は、神ならぬ私には全く不明。
選ばれた人物の傾向を見る限り、『神々』は間違いなく巨乳好きの男性集団としか思えなかったが、それ以外の基準はよく分からない。一定以上の戦闘能力があれば老若男女問わずかなりの高確率で選ばれるらしいが、どう見ても戦闘向きじゃない華奢な少女が結構な数選ばれて、若くて筋骨隆々だけど顔がどうも地味な男性騎士が未だにグレーアウトしているあたり……
さっぱり分からんとしか言いようがない。いや、分かりたくないというべきか。
そして、さらに問題なのは──
私は思い出す。そろそろ彼が来るという情報に、期待に胸を弾ませて召喚の間に行った、あの日のことを。
あれは確か、この世界に来て間もない頃だったっけ。
***
「何で!?
何で彼じゃないの、どうして彼が来ないの!?」
床に描かれた召喚の魔法陣。その中央に立っていたのは──
彼とは似ても似つかない、緑のハンチング帽と髭と眼鏡で表情をほぼ隠した、痩せた中年親父だった。競馬場の隅によくいそうな寡黙なオッサンと言えばお分かりだろうか。
ふっくらした頬に人懐っこい笑顔、可愛らしい八重歯を常に見せてくれていたあの彼とは、まるで似ても似つかない。
眼鏡と髭と帽子を無理矢理引きはがしたところで、多分この親父が彼になることはないだろう。
魔法陣の隣にいた天使に、思わず尋ねた。
「もしかして……この彼は30年後の彼とか?
それか、彼の父親とか?」
天使の癖に何故かウサ耳をつけたそいつは、面倒そうに三つ編みを振りながら答えた。
「違いますよぅ。彼そのものです」
「って、全然違うじゃないの!!
写真の彼とこの親父とじゃ、容姿も年齢も全然違うでしょ!
アンタ、その真っ赤な目は飾りなの!?」
「んなこと言ったって、召喚された結果がコレなんですよぅ。
神様に選ばれた結果がこっちだったら、仕方ないじゃないですか」
「こっち?」
ウサ耳天使が放った言葉に、私はふと首を傾げる。
そんな私に、天使は心底面倒そうに説明を始めた。
「貴方がお望みの彼がいる世界って、結構複雑に出来ていましてね。
とある世界がコピーされて出来た世界なんですよ」
「コピーされた……世界?」
「神様たちは、とある世界をコピーしてもう一つ、似たような世界を創った。
世界の寿命を延ばすために、その世界をまるごとコピーするのは、よくあることなんです。
だけどただのコピーじゃつまらないからって、神様たちはコピー先の世界を色々と変えた。
人も、物も、世界そのものも」
「それじゃ……
この親父がコピーされた結果が、あの彼だったってこと?」
「そゆことっすねー。
一応、名前と身長と体重は同一です。容姿と性格と年齢に関しては大分変わってますが、それでもれっきとした同一人物ですよ」
何ちゅうこっちゃ。
ただのコピーじゃつまらないからって、親父を少年に変えた?
茫然とする私を流石に見かねたのか。天使は両手をさすさすとこすり合わせながら、上目遣いに私を見つめてくる。
「ま、まぁ……そんな、落ち込むことないですよ。
そのうち、多分、コピー先の世界からきっと、お望みの彼も来ますって。
とりあえずこの親父さん、どうされます?」
「送り返して」
私の判断は早かった。
どう見ても違うのに、彼と同じ名を名乗る人物。それを間近で見ていることすら、耐えられなかったから。
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