3章 二人の遭遇

アースの書~遭遇・1~

 無我夢中でラティアを抱えつつエイラの後を追う。

 ラティアが俺の頭を持っているから後ろを確認できないが、レインの声が聞こえないから追っては来ていないっぽいが……。


「あそこだよ」


 エイラが指をさした先には白い神殿があった。

 見た感じ、一部が破損しているし建造されてから結構年数が経っていそうだ。


『あっそういえば、あそこに人はいないのか?』


 ここまで来てその事に気が付いた。

 居たら居たでこの状況だとかなり面倒だよな。


「大丈夫でス。今、あの神殿に住んでいる人も通っている人もいませン。完全に放置されていまス」


『そうか、なら良かった』


 じゃあさっさと中に入って身を隠そう。



 神殿の中は思った通り瓦礫やホコリで汚れているな。

 確かに人が出入りしていないようだ。


『ふぅー』


 にしても疲れた。

 この体はただのプレートアーマーだから疲れないはずなのに何故かそう感じる。

 気分の問題ってすごいな。


「あの……アース様、運んでくださりありがとうございましタ」


 おっと、ラティアを抱えたままだった。

 この金属の体だと冷たいし、痛かったろうに。


『すまない。ついた時に降ろさないといけなかったな』


 ラティアをゆっくり降ろしてっと。


「え? ……もう降ろしちゃうんダ」


 あれ、何やら不服そう。

 俺、何か気に障る事をしちゃったのだろうか。

 もしかして裸足だったか? ……いや、ちゃんと靴は履いている。

 んー? わからん。


『えっと……どうかした?』


「ハッ! いエ! 何モ! キニシナイデクダサイ!」


 気になるんだけど……まぁこれ以上聞くのもあれか。


『そうか……でーそろそろ俺の頭を体に返してもらえると嬉しいんだけど……』


 ラティアが持ったままだと色々と不便なんだよな。

 頭だけでも動かせる方法はないものか。


「あッ! すみませン! すみませン!」


 ラティアが俺の頭を体の上に乗せてくれた。


「どうですカ?」


 うん、やはり頭と体がくっ付いている方が落ち着くな。

 人間の形はこうでなくちゃ。


『ああ、大丈夫だ。さて、もう少し奥に入って身を隠そうか』


 入り口付近だと、いつレインに見つかるかわからんしな。


「あ~それはちょっと止めてくれないかな~」


 奥に進もうとしたらエイラに止められた。


『は? どうしてだよ』


「これ以上進むと妹の魔力感知範囲に入っちゃうんだ。今は寝ているみたいだから起こしたくないんだよ」


『「妹!?」』


 エイラに妹なんていたんだ。

 とすればもちろんドラゴニュートだよな。

 なら、触らぬドラゴンになんとやらだ。


「じゃあここから出た方ガ……」


「ああ、それは大丈夫。魔力感知に入ったり、よほどの騒音をたてない限りは起きないと思うから」


 エイラがそういうんだからいいのかな。

 まぁ今神殿の外に出るとレインに見つかる可能性もあるし……。


『じゃあ、せめて入り口から死角になるところで休ませてもらうか』


「そんな畏まらなくていいよ~。妹の家はあ~しの家みたいなもんだし」


 それはなんか違う気がする。

 ん? ちょっと待て、その言い方はおかしくないか。


『妹の家はあ~しの家みたいなもんって、エイラはここで生まれたんだろ? だったらエイラの家でいいじゃないか』


「あ~……あ~しが生まれた時、ここはでっかい洞穴だったわけ。で、あ~しが出て行った後に神殿が建ったの」


 なるほど、それで妹の家か。

 とはいえやっぱり自分の家って言うのは違う気がする。


「エイラが出て行ったっテ……もしかして、妹さんと喧嘩でもしたノ?」


 ラティアが心配そうにしている。

 もしそうなら、やはりここから出ていくべきかな。


「喧嘩なんてしていないよ~。というか妹はあ~しの存在を知らないしね」


『エイラの事を知らない? 意味がわからん』


「まぁ簡単に言うと、あ~しはこの下にある魔樹から守護者として生まれたの」


 魔樹、地面から魔力を取り込む性質をもつ木。

 そのせいで魔樹の周辺は地質が変化し、魔力を含む結晶が生まれる。

 それが俺達の生活でも使われる魔晶石だ。

 俺は専門じゃないが魔樹は謎が多くてまだまだ研究段階みたいだが……自分を守るためにモンスターを生み出すなんて知らなかったな。


「へぇ~こんな所に魔樹なんてあったのネ」


 神殿は建っているが魔樹の存在は知られていないか。

 となると、この辺りの住んでいた人たちが意図的に隠したのかもしれん。

 

「だけど、あ~しは洞穴の中に居るのは嫌でね。毎日のように外をウロウロしていたわけよ」


 おい、守護者。


「で、ある日魔樹がもう1人を生み出したの。これはチャンスだと思ってその子にナシャータって名前を付け守護者を譲って、あ~しは世界を回る旅に出たって訳」


 魔樹がこいつはもう駄目だと思って妹を生み出したんだな。

 話を聞いていると魔樹が不憫に思えてきた。

 というか、世界を回っていたなら魔神ファルベインをどうにかしてほしかった。

 まぁエイラの感じから魔神なんてこれっぽちも興味は無かったんだろうな。


「いや~でも、久々に戻ったらこんな立派な家が建っててびっくりしたよ~」


 そりゃあ洞穴だったところに、こんな立派な神殿が建ったらな。

 俺だってびっくりするよ。

 ん? 待てよ……神殿ってそうすぐには建たないし、この荒れ具合を考えると……。


『……ちなみに何年ぶりにここに戻って来たんだ?』


「え? ん~と……ひいふうみい……」


 エイラが指を折って数えている。

 こりゃあ十数年は戻ってないな。


「…………200年くらい?」


「2ひゃッ!?」


 予想以上に長かった!

 いくら長寿命の種族だからってそれはないだろう!

 ますますエイラを生み出した魔樹が気の毒だよ!


「その時、たまたま出会ったのがラティだよ」


「えっそうなんダ……私の目の前に現れたのってたまたまだったんダ……」


 そしてその1年後に俺が復活したと。

 じゃあ、エイラの帰りがもっと速かったり遅かったりしたらこういった事は起きなかったわけか。

 ……運命ってあるんだな。

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