レインの書~追跡・3~

 このラティアちゃんの笑顔。

 自分の身を挺してデュラハンを庇った事。

 そして、デュラハンを蘇生させたのもラティアちゃんがデュラハンに操られているとすれば合点がいく!


「はいッ!? ちょ、ちょっと待ってくださイ!」


 このラティアちゃんの反応……まるでデュラハン自身が驚いているみたい。

 そうか、もはやラティアちゃんの精神そのものを支配しているのか。


「なんて卑怯な奴なの! ラティアちゃんを盾にして自分を守らせるなんて……!」


 これだからモンスターは許せない!

 ますますデュラハンに対して憎悪が湧いて来たわ。


「あの一体何を言っているのですカ!」


「けど、そんな事でアタシは臆さないわ……必ずラティアちゃんを救うんだから!」


 ラティアちゃん待っててね。

 その狡猾で卑怯なデュラハンの魔の手から、貴女自身を取り戻してみせるわ。


「レイン様!?」


 その為にはまず、デュラハンの頭とラティアちゃんを切り離さないといけない。

 じゃないとさっきみたいに傷付けちゃう可能性がある。

 ならラティアちゃんを気絶させるしかないか……痛めつけたくはないけどこればかりは仕方ない。

 そう覚悟し、アタシはメイスを構え直した瞬間――。


暴風サイクロン!」


「――っ! なにっ!」


 いきなりアタシは竜巻に包まれてしまった。

 一体何が起こったの? デュラハン奴が魔法を使ったのかしら。

 くっ風の威力が強すぎて、竜巻の中を突っ切るのは危険だわ。


「こ――……も――して――ラ!」


「まっ――、外――るなら――いる――――てよ。――と屋――――探し――――」


 ラティアちゃんと誰かと話している様だけど、風の音がうるさくてよく聞こえないわね。

 けど、近くには誰もいない。

 かと言って、デュラハンと話しているようにも見えないし……。


「なっ!」


 ラティアちゃんの目線を追って行くと空中に浮いている黒髪の少女いた。

 普通の少女が空中を浮くわけがない。

 くそっ油断した、まさかデュラハンの使い魔がいたなんて!

 この竜巻はあいつが使って来たのか。


「ここから出しなさい! おいっ!!」


 ラティアちゃんも使い魔もこっちを見ない。

 あ~それはそうか、アタシの方でも聞こえないんだから向こうが聞こえるわけがないか。

 それにしても、アタシを閉じ込めてどうするつもりかしら。

 理由はわからないけど、警戒はしておいた方がいいわね。


「で、――――は――の? ――あ――武器――っている――動けない――――――」


 あっ断片的になんとか話声が聞こえる。

 武器……動けない……今のデュラハンの状況を確認しているみたいね。


「――? ――……」


「――? ――で――――あん――体――――いと――な――よ」


「あ――ゆ――。なら――動――は――よ」


 う~ん……全然2人の会話が聞き取れない。

 なんか重要そうな事を話しているように思えるんだけどな。


「ん? あっ」


 倒れていたデュラハンの体が立ち上がった。

 そうか、デュラハンの体を治癒について話し合っていたのか。

 だとするとアタシに攻撃を……。


「……へっ?」


 してくると思ったら、デュラハンの頭を持ったラティアちゃんと頭のない体がアタシに背を向けて走り出した。

 使い魔もその後を追って行ったし……まさか逃げる気!?


「ちょっと! どこに行くのよ! 逃げるな!」


 アタシの声が聞こえていないのか、それとも無視しているのか。

 全く止まる気配もなくどんどんと遠ざかって行く。

 くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


「絶対に逃がさないわよ!! どこまでも追いかけてやるんだからああああああああああああああ!!」


 逃げて行くデュラハン、ラティアちゃん、使い魔に向かってアタシは叫ぶ事しか出来なかった。




 ◇◆◇◆


「……という訳よ」


 我ながら情けない話だ。

 モンスターを目の前にして逃げられてしまったなんて。


「なるほど、そんな事があったんだ……。それにしても、どうしてデュラハンは逃げたんだろう? その状況ならレインを始末できたのに……」


「さあ……」


 そこは気まぐれなのか、アタシを殺すほどの価値が無いと思ったのか……どちらにせよ屈辱的な事だわ。


「とりあえず一度リリクスに戻るわよ。そして準備をしてからデュラハンの後を追う!」


 絶対にアタシを生かした事を後悔させてあげるんだから。


「へ? 後を追うって……レインはデュラハンの逃げた先がわかるの?」


「わからない。ただ予測は出来るわ」


「予測? どういう事?」


 ジョシュアが首をかしげている。

 まぁデュラハンと対峙したアタシにしかわからない事だから仕方ないか。


「ジャイアントスネークに手こずっていたり、アタシの攻撃を食らって一撃で倒れたりと明らかに不自然な状況だったわ……で、デュラハンは本来の力が出せない状態じゃないかとアタシは思うの」


 蘇生する際に何かしらのトラブルが起きて、不完全に蘇ってしまったとかね。

 もしかしたら、微かにラティアちゃんの意識が残っていて抵抗したとか……そうだとすればチャンスを逃してはいけないわね。


「となると、デュラハンは魔力を取り戻す事を考えるはず。つまり魔力が集まる場所を巡ればデュラハンの情報……あるいは直接出会えるかもしれないわ」


「あーなるほど……って、流石にそれは行当りばったり過ぎない!?」


「大丈夫! デュラハンの頭にはアタシの渾身の一撃の跡が残っているからそれも目印になるわ。あとラティアちゃん、使い魔も目立つし!」


 アーメットが凹んだ騎士。

 薄紫で前髪が顔にかかった女性。

 黒髪で空中に浮く少女。

 うん、見つけられない方がおかしいわよね。


「目立つなら隠すんじゃ……」


 ……タシカニ。


「だっだから、急ぐのよ! リリクスで情報が集まり次第デュラハンの後を追うわよ!」


「もうーわかったよ……レインってば一度言い出すと聞かない無いんだから」


 必ずアタシがお前を追い詰めてやるんだからね。


「首を洗って待ってなさいよ! デュラハン!」


「デュラハンに首は無いでしょう……」


「……」


 ……タシカニ。

 ああ、もう! いちいちうるさいわね!

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