世界宗教『巨大人型二脚歩行兵器以外絶対認めない』教団の苦闘
江戸川殺法
聖堂騎士ムガンダ、ボヤいて曰く
『神様、せめて多脚歩行兵器はギリ教義の内ということで許してくんないかなあ』
『まだ言ってんですかムガンダ様。聖堂騎士ともあろうお方が……。そろそろ異端扱いで火炙りにされますよ』
『でもさあ、エバー君、いい加減限界あると思わない?』
かっこいい……というにはなんか微妙なんだけど、変に味わいのある巨大人型二脚歩行兵器が並んでる様を遠い目で眺めながら、ムガンダと呼ばれた中年のメガネ男はボヤいた。滅茶苦茶疲労困憊した顔してる。明日あたり死にそう。
『そんなひどい顔しないでくださいよ。言ってることはわかりますよ。そらそうですよ。わかってます。巨大人型二脚歩行兵器の性能向上が限界に達してるのは。我々みんなわかってます。まじで』
言い返すエバーて言われたメガネ掛けた若い女副官もかなり疲れた顔してた。三日後くらいに死にそう。
『やっぱそうだよ。これもう言うしかないよ。上に言うしかない。もうそろそろ巨大人型二脚歩行兵器で戦争やるの限界ですって』
『でももうそれ我々の教義全否定じゃないすか。戦争に勝てても勝負に負けてますよ。魔王軍、大爆笑するんじゃないすか』
『あっ……うん、それはそうね……』
魔王軍と人類連合軍が、なんか好みの問題をこじらせてから戦争に突入してはや十年、戦況は物凄く最悪な感じに突入していた。開戦当初、魔導科学において遥かに魔王軍に勝った人類連合軍は、調子に乗って巨大人型二脚歩行兵器「魔導騎士」、通称・MK(Madou Kishiの略)を実用化して魔王軍を煽っていた。そう、人型こそ正義。人間ばんざい、人類最高。全ては人類至上主義に基づく『神と人と精霊』教団の教えがあればこそだったんである。あと大きいと強そう。そんな感じだった。
技術水準が圧倒的に人類側有利だったので数年間はかなり人類無双状態だった。これはもう勝ったわ、みたいな感じで人類はかなりイキリ散らしていた。実際戦果も占領地も凄いことになってた。一部のお偉いさんに至っては植民地経営笑いが止まんねえウッハウッハってなってた。今思うと、それが良くなかったんである。
追い詰められた魔王軍は割と頑張って巨大人型兵器をコピーした。とにかく追いつこうと必死だったのである。それはそこそこ成果を上げたものの、人類側の巨大人型二脚歩行兵器には及ばなかった。そんなもんだから教皇猊下も完全に魔王軍を舐めくさっていて、「やっぱ人類は凄いなー。兵器は巨大人型二脚歩行兵器に限るし、魔王軍にはちょっと使いこなせないよネ!」とか煽る煽る魔王軍のこと超煽る。当時の魔王を完全にブチギレさせ、そのまま憤死に追い込むという伝説まで作った。教皇猊下なにやってんの。
それはまあいい。話を続けよう。その先代魔王の跡目を継いだ新たな魔王陛下、素朴な疑問を抱いた。
「どうでもいいけど、そもそも二脚歩行兵器である必要ってあるの?」
みんな我に返った。誰も何も考えていなかったのである。
それからというもの、魔王軍の兵器は妙に手堅い感じの多脚とか車両っぽい巨大兵器を量産する方向に向かって行く(しかしながら一部の誇り高い魔族たちはそれを拒絶して巨大人型二脚歩行兵器にこだわり続けた。今更方向性を変えると、なんか負けた気がして腹が立つからである。気持ちはすごくよくわかる)。かくして人類の劣勢は始まった。
とはいえ基本的な技術水準に無茶苦茶な格差があったんで、そういう兵器が出てきても人類軍はそこそこ戦えてる感じだった。でも、戦時において、そんな技術格差がいつまでも維持されるほど世の中は甘くないんである。段々と人類側が押される感じになって来た。辛い。人類側もそれに気付いて「あ、コレなんかやばい」と進言する人はいたんだけど、教皇猊下はじめとする人類が煽りまくった記録が無茶苦茶残っていたので、今更引っ込みがつかなくなっちゃったんである。可哀想に最初にそれを進言した人は異端審問にかけられて火炙りになってしまった。もう無理が通れば道理が引っ込むである。
ここに、誰も止められない巨大人型二脚歩行兵器絶対ドクトリンで固まった人類連合軍と、国力はすり減らしてるけど手堅い多脚とか車両脚兵器で巻き返しを図る魔王軍の仁義なき最終戦争の構図が完成したのであった。
『なんでこんなことになっちゃったんだろうね』
晴れわたる空を虚ろな目で眺めながら騎士団長ムガンダはボヤいた。
『上があほだからですよ』
副官エバーは即答した。確か昨日もやったわこの会話、という顔で。
『戦争勝つ気あるんかな』
『戦争に勝利者とかいるんですかね』
戦いに疲れ果てた面持ちの2人は割とどうしようもない会話を続けていた。泣くことも叶わない。整備班が後ろで怒鳴ってるのが聞こえる。「関節部多すぎなんじゃい巨大人型二足歩行兵器」「そもそも冗長性というものを理解しているのか上は」「でもこの脚のライン超かっこいい」「衛生兵、また狂人が出たぞ、早く来てくれ」そう、ここは人類防衛最前線。終わってる感じの戦場であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます