HEAVENS GATE

きょうじゅ

Heaven’s gate

 そも、平安京の羅城門を羅生門と呼ぶのは後世の謂いである。羅城門という言葉には大した意味はない。「羅城、すなわち城壁に開かれた門」という程度の名前がついているに過ぎない。


 さて、その後、老婆は死に瀕していた。下人が老婆に負わせた傷は深いものではなかったとはいえ、彼女はそもそも、老い先の長い身の上ではなかった。深く、臓腑を病んでいるのである。


 臓腑を病んでいても腹は減るし、腹が減ったら飯を食わねばならんからかつらなどを作ってはいたが、体が弱っていたところに乱暴無体の所業をされたので、彼女は一気に病み衰えた。かろうじて他の死骸から剝ぎ取った着物を着てはいるが、羅生門から這い出すこともできずに、そこで寝込んだままになっている。


 そして五日ののち、老婆の呼吸は止まった。老婆のEgo-identityは、淡く輝く光の門の中に吸い込まれていった。川ではないのか、三途を渡るのではないか、というのが、老婆の老婆としての最後の思索であった。

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