灰狼の受難

銀紫蝶

本人の知らない所で




気候穏やかな、花の国フィージュにて。


「フィージュ国王女、フィーラ・ミラ・フィージュと申します」


栗色の淡いふわふわした髪と、飴色の瞳の可愛らしい美少女と。


「レイシーバン第一王女、カテリエ・シーラ・レイシーバンですわ」


濃い金髪の豪奢な美女と。


「……リーザと申します」


藍色のサラサラ髪の大人しそうな美人と。


「…………ユーキ、です───」


目の覚めるような、金髪金眼の神秘的な美少女と。


丸いテーブルを囲んで、ぴりぴりした緊張感をはらみ、秘密裏なお茶会が開始されたのだった。


(なんでこーなった──!!!)









事の発端は何であったか。


元々、花の国には灰狼が資金提供して建て直した孤児院があり、国の王女も足げく通っていたとか。


住み込みで新しい生活先として、孤児院で働きはじめたリーザの様子を、たまに灰狼が見に来ていたりとか。


帝国の侵略戦争時に果実の国にギルド本部を移し、その際に第一王女が灰狼に虜になっただとか。


元々、秘密の婚約者がいたとかいないとか──。


(婚約者設定は潜入時のだろ! 灰狼じゃないじゃん! なんでオレまで……っ)


巻き込まれたのだろうか。







「灰狼さまは昔から強引な方で、私よく泣かされましたの……懐かしい」


それは多分、相手が王女だろうと言葉を選ばず、はっきり物を言っていたのだろうし。


「私も、先日の侵略戦争時に恐ろしい思いを致しましたが、灰狼様がおひとりで帝国軍を迎え撃たれ、私を護って下さったのです!」


王女を、ではなく地域全体だし、厳密には一人ではなかったはずだが。


「……私を救ってくれたのは、彼だけです。一生を捧げても感謝仕切れません……」


……うん。やっぱり知り合いを応援しようとリュウキは頷く。


「……」


三人から視線が飛んできたが、お菓子に手を伸ばして気付かない。


(あ、うまいこのクッキー)


ポリポリポリ。


(……やっぱり既に婚約者なら、余裕ですのね……)


(……私よりも華奢で綺麗だなんて……っ)


(……ユーキさんと一緒なら、安心だわ)


三人の視線がかち合う。


「灰狼さまは、とにかく格好いいのっ! 子供たちに優しいしっ! 軟弱な貴族子息とは比べ物にならないわ!」


「ギルドの色つきだし、噂では精霊から加護をもらっているとか。特別な方なのよ。野性的で素敵ですし、素っ気ないのはきっと恥ずかしがってらっしゃるのだわ!」


「……手を握ってくれたの。たくましいし、あのアイスブルーの瞳で見られると……」


もう手を握ってたのか。意外と手が早い。やっぱりリーザが一歩リードだろうか。


ごくごくごっくん。


紅茶が美味しい。


(……それにしても。全員お姫様じゃん。モテ方が一味違う? ギルドのおねーさん方にも人気なんだよなー)


自分も、その分類だと、お姫様グループである。


「ですから……っ、声も格好良いですのよっ」


「あら……っ、私は──」


「ええと……」


メイドがお茶のお代わりと、お菓子の追加を持ってきた。


「我が国、特産の花茶ですのよ」


「まあ、素敵な香り。少し分けていただける?」


「美味しいですね」


ぴりぴりがなくなって、ほわほわしてきた。


よかったよかったと、ケーキをぱくつく。食べられる花びらが美しく飾られた、綺麗なケーキだ。


幸せそうにお菓子を食べるリュウキを眺めて、三人の姫君達はため息をついた。


「……ひとりも四人も一緒かしら」


「……そう、ですわね」


「……逃がさないように、策をねるべきかと」


なにか、不穏なセリフが聞こえた気がしたが、リーザを見るとにっこり笑われた。


「協力してくださいね?」


「えっ……うん?」


話をちゃんと聞いていなかったので、適当に頷いた。


最後は三人とも、うふふと微笑みあいながら、お茶会はお開きになったのだった。







灰狼が逃げきれたのかどうかは……誰も知らない。


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灰狼の受難 銀紫蝶 @ginsicyou

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