第79話 賢者のわんちゃん
「ぐぅぐぅ・・・・・・お・・・おぎゃ・・・っは!?Bボタンッ!」
寝起きからオギャリかけてしまったが、なんとかオギャリキャンセルが間に合ってホッとしていると、ママ・・・いや、ニアが声をかけて来た。
「朝から元気なのは良い事なのじゃ。おはようなのじゃ一狼」
「おはよう・・・」
「何故いきなり元気がなくなるのじゃ?まぁ良い、飯を食うのじゃ」
何故ってそりゃああんた・・・、まぁニアのせいではないんだけど、いやニアのせいなんだけど・・・あぁぁぁああああ!
俺は少し気持ちをリセットさせる為に、ニアに断って少しご飯を待ってもらう事にした。
了解を貰うと魔法を使い大きな水球を作り、そこにダイブ!
「ごぼぼ・・・ごぼぼぼ・・・」
(観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時・・・)
そして頭から邪念を取り除くように、水球の中で聞きかじった事のある般若心経を呟き続けた。
「朝から変な事をしておるのじゃ。まぁだからこそ観察のし甲斐があるのじゃがな」
ニアがご飯を食べながらそんな事を言っていると露知らず、俺は水球の中で頭を冷やし続けていた。
やがて頭も冷え、気持ちがリセット出来たところで水球を解除する。
「・・・ふぅ」
さながら今の俺は賢者と言った所だ。
「びしょびしょなのじゃ。乾かしてやるのじゃ」
「いや、大丈夫ですよニアさん」
賢者の俺は慎ましくニアの提案を辞退して、自力で体を乾かし始める。体が乾くとニアがご飯を差し出してくれたので有り難く頂いた。
「ありがとうございますニアさん」
「うむ、しかしなんだか気持ち悪いのじゃ」
「ハハハ、これはお酷い」
ご飯を食べている最中、ニアは何故か俺から少し離れた位置で待機していた。
何でだろうね?
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「さて、今日から『隠密』の練習をするってことだよな?」
「普通に戻ったか。うむ、そうなのじゃ」
ご飯を食べてから声をかけると、離れた位置にいたニアは俺に近寄って来た。
何故かホッとした表情をしていたが・・・本当になんでだろうね?
「さて、昨日『隠密』は直ぐできる筈と言ったのじゃが覚えておるかや?」
「あぁ」
俺がオギャリかける前言ってたな。
「うむ、その理由なのじゃが『隠密』の修行法にあるのじゃ。解るかや?」
問いかけられたので少し考えてみるのだが、修行法ね・・・?
『隠密』と言えば気配を薄くしたりして姿を隠すスキルだと思うのだが、気配を薄く・・・
「もしかして、魔力を周囲に溶け込ませるとか・・・?」
俺はなんとなく頭に閃いた答えを言ってみる。直ぐに出来ると言っていたし、魔力を制御したりする方法なのではないかと思った訳だが・・・。
チラリとニアの顔を伺うと、おぉーと言った感じの表情をしながら頷いていた。
「大体正解なのじゃ。やるではないか一狼、ほめてやるのじゃ」
当たっていたみたいで、ニアはまた俺の頭でも撫でようと思ったのか近づいてきたのだが、俺はニアが近づいてきた分後ろに下がる。
「うん?何で下がるのじゃ?撫でてやるから近うよるのじゃ」
「あ・・・後で!後で褒めてくれ!」
「うん?解ったのじゃ」
不思議そうな顔をして撫でるのを諦めてくれたが・・・助かった。
またニアに頭をなでなでされたらオギャってしまうかもしれない、それは阻止せねば・・・。
如何しようかと考えていると、ニアが『隠密』の習得の話の続きを話し始めたので考えは中断されてしまった。まぁ後で考えればいいか・・・。
「周囲に魔力を溶け込ませる、これで半分は正解なのじゃ。後は周囲の魔力の動き等も確認しそれに合わせて制御する、というのも必要になるのじゃ。これらは今までの修行に通ずるものがあるのじゃ。故に直ぐ出来る様になる、と言ったのじゃ」
「なるほどな・・・」
話を聞く限りでは今までの修行で行ってきた魔力の制御、これが出来ていれば確かに出来そうな気がする。
納得して頷いているとニアも頷き、早速修行を始めることになった。
「まずは魔力を制御し、隠れてみるのじゃ。妾は3分間だけここで待つのじゃ」
「わ・・・解った」
俺はニアが高笑いしながら虐殺を始めないかと少し恐怖したが、流石にそれはないなとその考えを忘れ、昨日からそのまんまになっている石柱の影から影に移動して、ニアの目から隠れる。
そして魔力を制御して自分の周囲に薄く広げ、周りに溶け込ませるように魔力を調整していく。
レモン空間内で行っているからか俺の魔力は驚くほど周囲に馴染み、自分の存在が薄くなったのを何となく感じた。
「おお、一発で成功しておるのじゃ。しかも『隠密』がすでに習得出来ているのじゃ」
しかしニアにとってはそんなモノ何の意味もなかったみたいで、いきなり真横から話しかけられた。
少し驚いて目を抑えて固まっていると、ニアが「ほぉ」「なるほどな」と一人で何か納得していたので不思議に思い目を開け、何をそんなに納得する事があるのかを尋ねてみた。
「いやな、魔力を周囲に馴染む様に調整するのにもう少し時間が掛かると思ったのじゃが、レモン空間で行う事によってこうなるのじゃなと感心しておったのじゃ。今後も何かを修行する時には使えるかもしれんのじゃ」
ニアはどうやら、レモン空間で俺が魔力を拡散させると驚くほど周囲に馴染む事、に関心していた様だ。
そしてこれが今後にも応用出来ると言っているが、確かに同じような感じで修行できるスキルになら応用できそうだ。
「ふむ、スキルは覚えたが、あまりにもあっさりだったのでもう少し修行を続けてみるのじゃ」
「ん?解った。スキルを使って隠れればいいのか?」
「いや、魔力の制御も同時に行うのじゃ。今度は妾が周囲の魔力を変化させるので、『隠密』スキル自体は発動するのじゃが魔力の制御は先程よりかは難しい筈なのじゃ」
スキルを発動するだけでなく、また魔力の制御も行うらしい。
これは、スキルと同時に魔力の制御も行う事で『隠密』の効果を高められるから、だそうだ。
そういう事なら、と俺は再び石柱の影から影へと移動しニアから隠れて、スキルの発動と魔力の制御を行う。
しかし、今回は上手く魔力を周囲に馴染ませる事が出来なかった。
成程、こういう事か・・・。
「うむ、そうなのじゃ。この様に普通は少し苦労をするものなのじゃ」
再び真横から声をかけられたが、今回は解っていたので驚かなかった。
「と言っても、直ぐに出来る様になると思うのじゃ。さぁ、ドンドン行くのじゃ」
また3分間待ってくれるそうなので、急いで隠れてスキルと魔力の制御を行う。
しかしまた直ぐに見つけられ、再び隠れる。
俺達は一日ずっとこれを行った。
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「長いようで短かった10日間がようやく終わったか・・・」
現在はレモン空間に入って10日目の夜、ご飯の後の休憩タイムである。
俺は『隠密』の修行が終わった後の食事中に、予定していた『索敵』と『隠密』の習得が終わったがこれからどうする?と聞いて見たのだが、残りの時間は二つのスキルをもう少し練習するのと少し戦闘訓練もつけてくれるとの事だった。
なのでそれからの時間はそれらを行い、今はそれらが終わった10日目の夜だ。
「明日の朝になったら問題なく外に出れるんだよな?」
「その筈なのじゃ」
ニアが『レモンの入れもん』に使った時魔法は明日には効力を失い、晴れて外に出れるらしい。
それにしても・・・
「意外と慣れるもんだなこの空間にも・・・。いや、石柱とかがあるからか?」
俺は10日間ですっかり慣れてしまったレモン空間を見渡す。周りには白に混じって茶色がぽつぽつと混じった不思議な光景になっていた。
「うむ?そういえばあれらはもう必要ないのじゃ。消しておくのじゃ」
俺の視線に気づいたニアが石柱はもう不要だという事に気付き消していくのだが、別に消さなくてもよかったのに・・・。
「あぁ・・・」
ニアが石柱を消すと、周りは再び白一色の空間に戻ってしまった。
やはり慣れたと思ったのは、あの石柱があって白一色の空間に変化があったからだったみたいだ。
俺はたちまち落ち着かなくなり、この白一色の空間の中で唯一色がある物に目を向けた。
「ん?何を不安そうにしておるのじゃ?む・・・なるほどなのじゃ」
俺に見られていることに気付いたニアは察してくれたみたいで、うんうんと頷いていた。
「わ・・・解ってくれたのか・・・。なら頼む・・・」
俺はニアにもう一度石柱を出してくれるように頼んだのだ。
「仕方のない奴なのじゃ・・・」
ニアはやれやれといった表情になり近づいてきた。
「いや・・・すまんな・・・どうもな・・・」
白一色の何もない空間と言うのはどうにも慣れないのだ。というかこんな空間で慣れる奴がいるのか?
「うむ」
「ん?ニア?」
ニアは何故か俺にぴったりとくっ付いた。一体何だ?
「ほれ、仕方がないから一緒に寝てやるのじゃ」
ふぇ・・・?
「ふぇ・・・・?」
「さぁさ、明日の為に早く寝るのじゃ」
そう言ってニアは俺を寝かせて、その周囲を包み込むように寝転んだ。
「うむ、さぁ寝るとするのじゃ」
ニアはその艶やかな尻尾で俺の体を撫でて来た。
そ・・・そんな事をされたら俺は・・・
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作者より:読んでいただきありがとうございます。この後めっちゃ○○○○た。
「面白い」「続きが気になる」「おぎゃ・・・」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。
☆や♡をもらえると ニアが、ママになります。
※カクヨムコンテストに応募中です。ぜひ応援をよろしくお願いします。
↓こちらも絶賛連載中です、よろしかったらどうでしょう。
『女の子になったと思ったら霊が見えるようになった話』 ※一応ホラーです。
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