第72話 軟派なわんちゃん

 現在俺と同行者一名は、魔の森の北にある魔境地帯と呼ばれる場所へと向かっていた。


 進むルートは、魔の森東側の外縁部をぐるりと回り北側へと抜けるルートである。


 魔の森の南側から出発して早5日、俺達は漸く東側へと到達しようとしていた。


 ・

 ・

 ・


「(今日はこれくらいにしておくか・・・ニア!)」


「うん?なんなのじゃ?」


「(今日はこれくらいにして休もうと思う)」


「解ったのじゃ」


 もうすっかり日も落ちて真っ暗闇になり疲労もそこそこ溜まったので、今日はここまでにして休もうとニアへ提案した。

 流石というか、ニアはまったく疲れた様子を見せていなかった。しかしあくまでニアは俺を観察する為に付いて来ているので、俺が休むと自動的にニアも休みをとるという事になっていた。


「ほれ、早うあれを出すのじゃ童」


「(はいはい)」


 移動を止めて立ち止まると、ニアは俺にあれを出せと言ってくる。俺はそれに了承し、スキルを発動させた。


『ポンッ』


 俺がスキルを発動させると、そんな音と共に黄色い楕円形の物が出て来た。


 それはレモン型の入れ物・・・『レモンの入れもん』スキルである。


「うむ、では許可を出すのじゃ」


「(はいはい。・・・、できた、もう入れるぞ)」


 俺がそう言うと、ニアはレモン型の入れもんに触れてスキルの中へと入って行った。


「(しかし、ニアに掛かれば俺の情報丸裸だな・・・。観察する意味あるのかね・・・)」


 この『レモンの入れもん』スキルなのだが、当初は使うつもりは無かった。

 何故なら、ニアが積極的に攻撃を仕掛けて来る性格ではないと解ったものの、何かの拍子に敵に回るかもしれない、俺は未だにそう思っていたからだ。


 しかし魔境地帯へ向かい出して初日の夜、今と同じように休もうとしたらニアに、『レモンの入れもん』スキルに興味があるから出せと言われたのだ。


 スッとぼけようとしたのだが、全てを見透かすかのようなニアの目に負けてスキルを使ってしまい、しかも解っている事を詳しく説明させられたりもした。


「(こうして休む時は毎回レモン空間で休むことになりましたよ・・・っと)」


「うん?何か言ったのじゃ?」


 レモン空間を使う事になってしまった経緯を心の中で愚痴っていたら、最後は念話が漏れていたようだ。

 俺は何も言ってないとだけ返事をしてご飯の準備をすることにした。


「(まだ残っていたはずだが・・・お、やっぱりあったな)」


 黒い穴を呼び出し、それに触れてメニュー表を見る。そして残っていた調理済みの肉を取り出した。


 そしてそれを俺とニアの前へ並べればご飯の準備は完了だ。それぞれご飯前の挨拶をしてから食べ始めた。


「(モグモグ・・・そういえばニア、もうちょっとで東側の領域に入るんだよな?)」


「そうなのじゃ。あと半日程で入ると思うのじゃ」


 俺達は雑談をしながらご飯を食べていた。

 ニアは以前観察するだけと言っていたが、意外と質問には答えてくれる。手は出さないけど口は出す、そんなスタイルの様だ。


「(基本隠れて進んで見つかったらスキルを使って逃げる、そんな感じで行こうと思うけどいいか?)」


「うむ、妾もスキルを使って隠れるのじゃ。恐らく奴らには見つけられぬので、奴らに見つかったとしたら童のせいだと思うのじゃぞ?」


「(む・・・解った・・・)」


 確かにニアならば大抵の者に見つからないスキルとかも使えるだろう。まあ強さ故にあまり使う気はないと思うが・・・。


 しかしニアは永く生きているだけはあるのか、様々なスキルを持っている様だ。これはあの頼み事をしてみるべきだろうか?


「(ところでニア、一つ頼みがあるんだが聞いてくれるか?)」


「話によるのじゃ。とりあえず言うてみるのじゃ」


「(ああ、実はな・・・道中少しでいいから鍛えてくれないか?)」


「ふむ・・・」


 俺がニアに頼みたかった事・・・鍛えてもらう事だ。


 俺達魔物は大体がそうだと思うが、強くなるには自己流で鍛えるしかない。親や群れの長に鍛えてもらったりも出来るだろうが、所詮それもその種の知識や力の域を出る事は無い。

 しかしニアという圧倒的な個、それに蓄えられた知識や力は恐らく並の種族には到達できないものだろう。

 で、あるならば、ニアに鍛えてもらえば力はともかく知識は相当に増えるのではないか、俺はそう考えた。


 取りあえずスキルのとっかかりや効率的な使い方、後は魔力についての知識がほしかった俺は、それをくれるかもしれないニアの答えを待った。


「うーむ・・・」


 しかし唸るニアの感じからあまり手ごたえは良くない。


 ココは俺の対ニア用の必殺技が火を吹く場面か!?・・・さらにマシマシでいったらぁ!


「(いやな・・・実はそれは口実でもあるんだ・・・)」


「うん?」


「(実は俺は・・・ニアともう少し仲良くなりたくて・・・な?)」


「何・・・?」


「(聡明で美しく気品もある。そんなニアともう少し仲良くなりたくて・・・それで鍛えるのを名目に近づこうと思ったんだ・・・。許してほしい世界一の美の至宝ニアよ!)」


 どうだ!俺の必殺ヨイショ!後プラスして・・・ナンパスキル?

 前世ではキモイだの無いわーだの言われていたが、やはりだめだろうか?


 俺はヨイショだけにしとけばよかったかもと今更ながら後悔し、少し駄目かもと思いながらニアの反応を待つ。


「・・・」


 ゴクリ・・・


「仕方がない童なのじゃ!妾が手取り足取り教えてやるのじゃ!」


 勝った!!


「(ありがとう!やはり貴女は美しく、そしてとても優しい!)」


「本当の事を言っても何も出ないのじゃ。けど偶々果物が余っていたので上げるのじゃ。ほれ、食え童。いや、食べさせてやるのじゃ!」


 チョロスギないかニアよ。これが前世なら、俺の言葉がSNSで拡散されてあだ名がキモ男になる所だぞ?


 俺はニアに、ぷにぷにの肉球でなでなでされつつ果物を食べさせてもらいながら、そう思っていた。


 ・

 ・

 ・


「うむ、それでは本日より移動しながら少し鍛えてやるのじゃ」


「(あ、はい)」


「嬉しいのは解るが硬いのじゃ一狼よ」


「(あ、はい)」


 チョロスギて怖いです。


 現在は朝、移動を始める前なのだが・・・。


「どうかしたのじゃ?」


 ニアは俺の傍にやって来て、頭をポンポンと肉球で叩きながら問いかけて来た。


「(何もないです)」


「そうかや?」


 俺がそう言うとニアは尻尾をふりふりしながら俺から離れていく。


 実は昨日の夜からあんな感じで、寝る時も「仕方がないから妾が添い寝してやるのじゃ」とか言ってくっ付いて寝たりしていた。


 急に「もう興味がないのじゃ」とか言って攻撃されないために、もう少しだけ友好的になれればな、との打算もあって昨日ああやって言ったのだが・・・効き過ぎでは?


「それでは移動する前に少し話をするのじゃ、よいか一狼?」


ニアはニッコリと笑いながら、心なしか優しい声でそう言ってきた。


「(あ、はい)」



 俺は、少し間違ったか?と思いつつ、ニアの言葉を大人しく聞いた。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。今回短くてもうしわけありません。

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