第70話 知恵袋とわんちゃん それと仲間達
現在俺はおかしな展開に巻き込まれようとしている。
しかし俺は同じような展開をすでに経験した事があったので、先ずは自分に落ち着く様言い聞かす。
「(Be cool Be cool 落ち着けぇ俺ぇ・・・)」
ニアは落ち着け落ち着けとブツブツ呟いている俺を横目に、何時の間にか俺にもくれた果物を取り出してパクパクと食べていた。
俺は何とか落ち着きを取り戻し、頭も回って来たのでニアへと話しかけた。
「(・・・ニア、しばらく一緒に過ごすってのは俺についてくるってことか・・・?)」
「うん?そうなのじゃ。最初から言っておったじゃろ?」
ニアは果汁で汚れた手や口周りをペロペロしながらそう言ってきた。しかしそんな事言ってなかった気もするのだが・・・?
いやでも、話の内容的にはそういう流れだった様な気もする。転生者の観察って事は近くにいないと出来ないだろうし、話からするに長谷川の陣営に居たのもその為だと言うし。
「(そうだったかもな・・・。因みになんだが、俺は今から長い距離を移動する気でいる。それでも付いて来るのか?)」
ニアが付いて来よう来まいが俺のやるべき事は変わらない、ごぶ助達との合流だ。ダンジョンの移動先は知っていて、ココからだと大分距離があるので一応ニアにも聞いたのだが、ニアはそれに対しては何とも思ってない様だった。
「別に構わんのじゃ。例え大陸の端から端へ行くとしても、妾にとっては散歩みたいなものなのじゃ」
「(そ、そうか。流石だな)」
余裕でついてこれるとは思っていたが、大陸の端から端へ移動したとしても散歩レベルか・・・、えげつないな。
まぁそれならそれでいいだろう。ただ付いてくるだけならば何の支障もない。
「(よし、じゃあ早速移動を始めるから、付いて来るなら付いて来てくれ!)」
恐らくニアの話も終わっただろうと判断して、早速出発しようとニアに一言かけて走り出した。
「待つのじゃ童」
「(ぐえっ!)」
しかし2,3歩走った所で俺は転び、顎を地面に打ち付けてしまう。足が動かなくなったのだが、ニアが何かしたのだろうか?
「(な・・・何だよ!?しかも止めるんならもうちょっと優しく止めてくれ!おかげで顎を打っちまったじゃないか!)」
「おお、すまんのじゃ」
「(うぅ・・・いってぇ・・・。それで、何で止めたんだ・・・?)」
俺は呻きながら立ち上がり、ニアの方を向きわざわざ止めた理由を聞いてみる。
「うむ。妾は童の怪我を治した訳なのじゃが、実の所妾は回復系があまり得意でないのじゃ。なので今日一日は休んでおいた方がよいのじゃ。それに童、お主魔力がまだ回復してないであろう?」
「(そうなのか。・・・あ、確かに魔力が全然ない・・・)」
ニアに言われて初めて気づいたが、俺の魔力は空に近い状態だった。長谷川との戦いで無茶をしすぎたせいか、未だに回復していない様だ。
「うむ。それに転生者達の諺でこう言うのがあるのじゃろ?急がば3回回って鳴く、とな。焦る気持ちも解らんでもないのじゃが、落ち着くことも重要じゃぞ童」
「(何か混ざってるんだが・・・、まあ言いたいことは解ったし、確かにその通りかもな。ポンコ・・・うちのダンジョンコアが言うには移動先は安全っぽいし、そう慌てる必要もないのかも)」
事前にポンコに聞いていた移動先はどれも安全そうとの事だった。最終決定はバタバタして急いで決めてしまったが、事前に上がっていた候補の中でも最有力地点だったので恐らく大丈夫だろう。
1つ心配なのは、予定外にも俺だけ取り残されてしまった事だ。一応事前の取り決めとして、俺とニコとミコのダンジョン遠征組が戻らない時はごぶ助達だけで移動をして、後で俺達が合流するとなってはいたのだが・・・遠征組の中で俺だけが取り残されてしまった。
移動後は何かあっても戻らないと決めていたのだが、ごぶ助あたりが戻ると騒いでいるかもしれないので、それが心配だ。
「(まぁ大丈夫だと信じよう・・・)」
「うむ。それがよいのじゃ。
あってはいるのだが、そんな難しい言葉よく知っているな・・・。お婆ちゃんの知恵袋かな?
こうして俺は今日の所は一旦休むことにして、休む準備を始めた。
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日は沈み、現在は夕食も食べ終わってのんびりとしていた。
「(いやしかし結界なんて物張れるんだな・・・。やっぱニア様ぱねぇわ・・・)」
「うむ。これを破れるものはそうはおらん、じゃから安心して休むがよいのじゃ」
のんびりできているのはニアの結界のおかげである。ニアが言うには、この結界を破る事が出来るとしたら、ニアよりも強い世界最強格くらいしか居ないのだと言う。
なので周りを警戒することもなく気を抜いていられるのだ。・・・尚、最も警戒すべき存在はすでに横にいる。
「で、童は何処まで行くつもりなのじゃ?」
「(えーっと・・・、今いるのは魔の森の南方外縁部って聞いたんだが、あってるか?)」
俺はポンコから聞いて知った情報をニアへと聞き確かめてみる。
「人間共の言う方角かや?んー・・・そうじゃな、合っている筈なのじゃ」
「(そういえば普通の魔物は東西南北とかは使わないか・・・。まぁニアは知ってたみたいだが・・・流石だな)」
「うむ。妾は転生者達とも長年接して来たしの、色々知っておるのじゃ」
やはりお婆ちゃんの知恵袋・・・、いやもしかすると・・・。
「(Hey ニア!これから言う場所の情報を教えてっ!)」
「うん?まぁ妾が知っておる場所なら教えてやるのじゃ」
これはポンコツダンジョンコアより高性能の予感・・・。期待させてもらおうではないか!
「(んでだ、今いる場所が南方外縁部だとして・・・俺が行くのは魔の森を抜けた北側だ。大陸最北にある大山脈と魔の森の間にある、大小様々な山がある所だ)」
「あー、あそこかや。知っておるのじゃ」
やはりウチのポンコツより高性能っぽい・・・。
「(流石です聡明でお美しいニア様。ささ、その場所の事をワタクシめにお教えください)」
「うむ。これでも食いながら聞くとよいのじゃ」
俺がヨイショするとまた謎の果物を貰った。これ結構美味しいんだよな。
「さて、あの場所なのじゃが、人間達は魔境地帯と呼んでおったのじゃ」
「(ずいぶん物騒だな!?ポンコはそんな事言ってなかったんだが・・・)」
「そうなのかや?まあ妾が知っている情報を教えるのじゃ。あの場所は迷宮が乱立し、人間達にとっては過酷な場所、だから魔境地帯と呼ばれておるのじゃ」
「(えぇっ!?)」
「あー、もしかしたらなのじゃが、童の所の迷宮核・・・ポンコじゃったか?まだ若いのではないかや?」
「(あ・・・ああ。そんなこと言ってたが・・・)」
「やはりの。あそこは龍脈が乱れておるのじゃ。じゃから若い迷宮核は上手く情報を取れずにあの地帯へ行く事が多々あるのじゃ」
「(うげぇ!?やば・・・やばばば・・・!)」
「うむ。更にあの地帯に入ると、若い迷宮核だと移動が出来なくなることがほとんどなのじゃ。それも龍脈が乱れておるせいらしいのじゃ」
「(え・・・えらいこっちゃぁぁぁあああ!?)」
俺はのんびり座っていた体勢から飛び起き、今すぐごぶ助達の元へ駆けようとした。
「これこれ童、妾は今日は休めと言うたのじゃ。・・・夢へと誘え眠りの扉」
「(・・・ぁぇ?)」
俺の意識は唐突に途切れ、その場でスヤスヤと眠ってしまった。ニアはそれを見て、やれやれといった表情をした。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
≪ポンコダンジョン≫
「がる!ダンジョン入口から侵入者が奥に行ったがる!」
ポンコルーム内は慌ただしく、コボルト達が走り回っていた。
「がる!ニコ!チームを率いて対処にあたるがる!」
「わう!ジョー、ワン、ニー行くわう!」
「「「がう!」」」
ニコはジョー、ワン、ニーの3人と共に転移して行った。
ニコパパはそちらに目も向けずに、ポンコから映し出されるダンジョンの内の映像を見ながら続けて指示を出す。
「がる!ミコ!入口のごぶ助に、奥に行ったのはこちらで対処すると伝えるがる!ついでに入口の防衛をしている人員を交代するがる!いけそうな奴を5・6人連れて行くがる!そしてごぶ助には罠を設置する準備はもう少しでできると伝えるがる!」
「あう!わかったあう!」
ミコはニコパパからの指示を受け、数名のコボルト達と転移して行った。
(すイマせん皆サん。ポンコガへマをシタバカリニ)
「がる、気にするながる。こういう事もあるがる」
ニコパパは謝って来たポンコにそう返す。
「がる、それにもうすでに起きてしまった事がる。過去の事を悔いるより未来に向けて動くがる。それにその内ボスが来てどうにかしてくれるがる」
ニコパパは、今ここに居ないが頼りになる自分たちのボスの事を思い浮かべ、そのボスと離れ離れになった後の事を思い出した。
・
・
・
『ズゴゴゴゴ』
「一狼ォォォォオオオオ!!」
ごぶ助の叫びがダンジョン内に木霊する。
すぐ傍にいたニコパパは最初何が起こったのか解らなかったが、ごぶ助の叫びと何処にも姿が見当たらない一狼に、遅ればせながら何が有ったのかを薄々察する。
「一狼ォォォォオオオオ!!」
「がるっ!?」
事の次第を察した後も、どうしていいか解らず固まっていたニコパパだったが、突然ごぶ助が暗くなった外に向かって走り出したのを見て、慌ててごぶ助の後を追った。
結局暗くなった外は透明な壁により出入り不可能だったのだが、ごぶ助は透明な壁を何度も殴りどうにか外に出ようとしていた。
「ごぶぅぅうう!」
「がる!落ち着くがる!それよりまずはポンコの所へ行くがる!どうにかなるかもしれないがる!」
「ごぶっ!行くごぶっ!」
透明な壁を殴っていたごぶ助は、ニコパパにそう言われると直ぐに転移を使ったのか消えてしまった。
ニコパパは慌てて走り、設置してある転移陣に飛び乗った。
「ごぶっ!いいから戻るごぶっ!」
(イイえ、事前ニ決めてアっタ作戦でハ戻ラず合流を待つとナってイマシタ。それニまだ移動先ニ着イておリマせんので、どっチニシろどうする事も出来マせん)
ニコパパがポンコルームへ着くと、ごぶ助とポンコが言い合いをしていた。
話を聞いているとごぶ助はいいから戻れの一点ばりで、ポンコは事前の作戦通り動くべきだし、まだ移動中なのでどうにもならないと言っていた。
ニコパパは取りあえずごぶ助を落ち着かせることにして、何とかごぶ助をなだめる。根気強く説得すると、何とかごぶ助は話が出来るまでに落ち着いた。
「ごぶ・・・。ニコパパ達眷族との繋がりから相棒が大丈夫なのは解ったごぶ」
ごぶ助は渋々ながらも解ったと言う。そしてそこから全員で話し合いが行われ、どうするかが決められた。
結論としては、移動した先で待つという事になった。
これは、事前の取り決め通り動かないと、互いに行き違いになったりしてどうにもならなくなるかもしれないからだった。
それに仮にすぐ戻ったとしても、あの一狼がどうにもならないのならば、例えこの場の全員が行ったところで全滅するだろう。その様な事から待つと言う結論に至った。
ごぶ助も話し合いの最中に冷静になった様で、相棒が居ない今全員を守れるのは自分しかいないと考えた様で、最後にはこの結論に納得していた。
そして話し合いが終わった当たりで丁度移動が終わったらしく、ポンコがそれを知らせて来た。・・・追加で不穏な情報と共に。
(移動ガ終ワっタ様です。・・・おカシイですね、龍脈ニ上手く接続出来マせん)
「ごぶ?」
「がる?」
(・・・接続完了シマシタ。ですガこれハ・・・?・・・!侵入者ガ現れマシタ!)
「ごぶっ!?」
「がるっ!?」
・
・
・
こうして今の状況に至っている。
更に途中でポンコが追加の情報として、何故か再びダンジョンを移動させる事は不可能だと言う事も言ってきて、状況は良くなかった。
「がる・・・。何とかボスが来るまで頑張るしかないがる・・・」
ニコパパはそう呟き、それを最後に頭を切り替えて侵入者の防衛に専念しだした。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
頑張っていきますので応援よろしくおねがいします。
「面白い」「続きが気になる」「お婆ちゃんの知恵袋すごっ!」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。
☆や♡をもらえると ニアが、質問に答えてくれます。
※カクヨムコンテストに応募中です。ぜひ応援をよろしくお願いします。
↓こちらも絶賛連載中です、よろしかったらどうでしょう。
『女の子になったと思ったら霊が見えるようになった話』 ※一応ホラーです。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859115427347
お詫び:誤字修正 2022・1・12
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