ミチとサエとリカ

白井 くらげ

第1話

ガラス店が新しく出来ていた

ティーカップや食器に始まりガラス細工のアクセサリーステンドグラス風に飾られたランタン

朝日が差し込んで緩く透けたそれらは白いテーブルに色水を差したが如く極彩色に輝いていた

「この色が好きなの」

リカはいつもスマホで写メを取りSNSにあげていた

上げるたび、フォローもいいねも増えていき彼女は学生のくせに有名人のような扱いを学校でうけていた

でもリカはそんな事気にもしていなかった

皆が見てくれて嬉しい、といつも言う

私たちはいつも3人でいた



「ねぇ、今度このカフェいかない?」サエは黒髪を束ね白いタートルネックに花柄のスカートを揺らし講義終わりにスマホをかざす

「かわいいねー行きたい」

リカが同意した茶色に染め、巻いた髪が気になるのか指で梳き整えている

「ココなら午後からでも行けるね」ミチが言う足を組みかえたタイトスカートが人の目を引いた

3人は学部では浮いた存在だった

人目を引く容姿にいつも3人で行動していたからだ

リカはいつも私たちを見て楽しそうにしていた

毎週オシャレな店で講義のノートを見せ合い週末はカフェに行き大学では流行りについて話しメイクや服を見に行く

文化祭やイベントでは3人で行動した

ある時リカと2人になるとリカが言った

「わたしね、この前彼ができたの」

彼女はとても幸せそうでふふ、と笑う

「紹介したいし会ってくれる?」

私がうんと言うとより目を細めた

彼女は公園で青い芝生を踏みながら朝日に髪が透けて綺麗だとただ、そう思っていた


私はおそらく彼女を友達として愛している


でも何故かわからないけど彼女に恐れを抱いた







目の前で黒いジャケットを着た男が早足に近づいていたリカはそれに気が付かないようだった

私は視線の端に捕らえていたけど気づかないフリをした

手をポケットに入れていて何かを取り出してからリカにぶつかった

ように見えた、が男は銀色に輝くナイフをリカに突き立てていた

ずぶり、と腹に沈むそれを眺めていた

何処かから悲鳴が上がる

私は倒れたリカに駆け寄るふりをして手から落としたスマホを拾う

悲鳴はミチだった金切り声をあげる猿のようで不愉快だと思いながら私も血を厭わずリカを抱き上げた

男は私たちに近づいてきていてソレが私目当てだと分かる私は彼に小さな錠剤を渡した

そのまま駆け足で逃げる男

私たちは警察で事情聴取をうけた

その夜私は夜空を取りSNSにリカを装い上げた美しい夜空に感動とか銘打って

すると沢山のいいねが着いていく

笑いがこみ上げてくる

この人たちは私がリカを殺した事も知らない私がリカでないことにも気づかない

なんて愚かなのだろうと

私は彼女がいい人間だと知っている

けれど彼女は私の事を知らない


きっと私が彼女に対して向けていた感情を知らない


何も、彼女が羨ましいわけでもない


私には彼氏がいるしSNSのフォロワーもリカよりいる

容姿が良いのは彼女だけではないし私たちは歩けばスカウトされた程には同レベルだった


じゃあ何が理由なのだろう、と考えた


私は何故彼女を殺したのだろうと

正確には私が殺したわけでもない

ただ彼をドラッグに手を出すように仕向け売人の振りをしていた私から購入していた

ないと死んでしまう身体になった

でも私は売人ではない。そんな証拠はない


初めは大学で利益のある人脈を作ろうとしていた

それは功を成した

彼女もそのうち1人

よく出来たお人好し

ガラス店を思い出した。水色のティーカップがお気に入りで手に取るリカが手に透けた光を見て美しいね、と言った

私は、それを理解出来ない


なるほどと理解した

私はリカが美しいとかわいいと思う事が理解出来ないのだ、と

そして彼女が愛した些細な幸せは私には感じ取ることが出来ないのだ、と

だから証明したかった

彼女でも私でも変わらない事を

誰もその違いに気が付かない事を



スマホのバイブが何度も響きいいねを伝えてくる

私はそれをゴミ箱に捨てた

もう、彼女は居ない


私は恐らく犯罪者だろう

でも誰も其れを証明出来ないなら私は犯罪者ではない

私の空虚は私だけのもの他の誰にもわからない

リカも私も誰も判別が出来ない

なら私はリカをもう恐れたりしなくていい

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ミチとサエとリカ 白井 くらげ @shikome

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