第158話 目覚め
右手に炎をまとわせた長剣を持ったまま、少女は殺戮を始める。訳も分からず闇の中で逃げまどう人間を見つけては、ただただ突き刺す。その作業に迷いはない。
人間は罰を受けて当たり前である。ペストを殺し続けた愚かな奴らは、神の天罰を受けなければならないのだ。
闇がだんだん晴れてくると、切り裂かれあちこちに散らばった人間の体の残骸で、血みどろになった会場が姿を現した。
そんな彼らも自分たちのボスが殺しをやめてから、剣を鞘にしまう。
だが、カメリアはそのまま殺しを続けた。会場には関係ないただのスタッフもいた。
「おい、誰かカメリアを止めろ!」
デルマーの叫びで、キーランは少女にとびかかるが、彼女の炎の能力で傷を負う。カメリアは止まらず、自分の頭を抱えて叫びだす。
『うるさい! 触るな! 邪魔するな! 人間は殺さなければならない! なぜなら劣等だからだ! 劣ったものと優れたものは共存できない! 嫉妬と殺意が生まれるからだ!!』
普段の口調とは全く違う言葉で、カメリアはわめいた。それはもちろん彼女の言葉ではない。この考えを広めた
『立場のわきまえない愚か者は滅すべきだ! さあ死ね!!』
「カメリア!!」
彼女の目に憎き人間はもはや映っていなかった。そのかわり、長い金髪に青い目をした30代くらいの女性が目の前に立っていた。表情は冷たく硬い。だがその声は、どこか懐かしい響きをしていた。
『真莉』
女ははっきりと彼女が自分の名を呼ぶのを聞いた。
『私はあんたを人殺しのために育てたんじゃない。いい加減に目を覚ましなさい』
はっと少女は我に返る。結局あの女が誰なのかは思い出せなかったが、そこでカメリアは自分がしたことの罪の重さを自覚した。
彼女はすぐに押さえつけていた人間から離れ、あたりを見回す。見えるのは血、血、血、血。鮮やかな赤ばかりである。鼻につく生臭い匂い、人間の体の残骸もう動かない虚ろな人間の目を見た彼女は、思わず吐いてしまった。マルチナが来て、彼女の体をさする。呼吸を整えながら、カメリアは自分自身を嘲笑した。
(ああ……なんで嘔吐してしまったのだろう……この惨状を作ったのは私なのに)
そう、人を殺したのは自分だ。相手が死のうと生きていようと、刺して刺して刺し続けたのも自分だ。ああ、なんていうことをしてしまったのだろう……。もう「あの子たち」には姿を見せられない。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
少女の口から出たのは謝罪の言葉。殺したことに対して出た無意識のものだった。それを耳にした
この子は懺悔しているのか。人を殺したことを後悔しているのか。
(
デルマーは彼女に近づく。少女は涙を流していた。やはり、と青年は考える。彼女を信じるべきなのか……。
「キーラン、マルチナ」
「俺は……俺たちは彼女に期待してもいいと思うか」
キーランとマルチナはお互いの顔を見合わせたが、やがて小さく頷いた。
「……信じてもいいと思う。洗脳されているのにここまで人間を思って涙を流せるなんて、こんなの初めて見たよ」
「ああ、俺も賛成だ」
デルマーはふぅと息を吐き、目をしばらくの間つぶった。それから何が起こっているかわからず戸惑っていたカメリアのそばに座ると、そっと話しかける。
「大丈夫か」
少女は涙で汚れた顔で、首を横に振った。
「辛かったか。人間を殺してしまって苦しかったか」
「……はい」
少女は肯定するが、すぐに頭を突っ伏して泣き言を言う。
「でも、これおかしいですよね。だって人間はペストにたくさんひどいことをしたんですもの。私は……殺し続けなきゃいけない。神に忠実でいなきゃいけないのよ」
「カメリア、俺たちの今から言うことを誰にも言わないでくれると約束してくれるか。このことが誰かに知られたら、俺たちは殺されることになってしまう」
カメリアは目を瞬かせてデルマーを見つめたが、最終的にこくりと頷いた。
「俺たちは……『神の僕』の考えに賛成していない。人間を無差別に殺すのは間違っていると思っている。つまり俺たちは____
差し出された手を真莉は見つめ続けた。だが最後に彼女はそれを握った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます