オリガタリ

神山遊哉(旧・烏丸れーもん)

#1 キッカケ

突然だが、私の贔屓のプロ野球球団、オリックス・バファローズの25年ぶりのリーグ優勝を記念して、同球団について語るエッセイの連載を始めていきたいと思う。


普段Twitterをメインの生息地としている私れーもんだが、140字以内でバファローズについて語るのは無理があるので長文で語れる場所を作りたいと思い、今回のエッセイの連載を開始した所存である。

自己満足度マックス!オリックス!なエッセイになりますが、ご拝読いただければ幸いでございます。


第1回の今回は私がバファローズのファンになったきっかけを話すことにしよう。


この球団のファンになる前まではバファローズと同じ関西圏にある超人気球団・阪神タイガースのファンだった。当時の私はバファローズに対して「話題性のために賞味期限切れ前後のベテランや助っ人を寄せ集めただけのどちらかといえば弱いチーム」というあまりよろしくないイメージがあり、特にこれといった興味もなければ応援しようという気持ちも持っていなかった。


そんな私が球団自体に興味を持ったのは、2014年の頃。

当時のバファローズは前年オフに大型補強を敢行した福岡ソフトバンクホークスとの熾烈な優勝争いを繰り広げていた。

阪神と同じ関西の球団ということもありパ・リーグはバファローズに優勝してほしいという気持ちがあったのはもちろんのことだが、その関西圏にありながらバファローズに目を向けず阪神だけを執拗に持ち上げる在阪メディアに嫌悪感を抱いている私は「バファローズが優勝すれば、煩い阪神贔屓のマスコミやタニマチが半分近く流れて減っていく。そうなれば、阪神の選手達はのびのびとプレーしやすくなって強くなる。」と言う邪まな考えを持ちつつ、バファローズを一時的に応援していた。


ただ、2014年は阪神の方も優勝戦線に食い込んでいて、まだ阪神ファンだった私自身も「どうせまた終わりごろに失速して終わるやろ」とネガティブになりつつ優勝を期待して応援していたこともあり、バファローズは結果またはハイライトのみを見て応援している程度のにわかに等しいものだった。

しかし、案の定阪神がシーズン終盤恒例の失速劇を見せ優勝が絶望的になった途端、バファローズの優勝を期待しながらプロ野球を見る方向へと切り替えていった。


そして同年の10月2日。

バファローズはホークスとのシーズン最後の直接対決を敵地ヤフオクドームで迎えた。バファローズはこの試合に勝ち尚且つその後の残り2試合のうち1つでも勝てばリーグ優勝。逆に負けてしまうと、ホークスの優勝が決定するという緊迫した試合。

私はこの試合をニコニコ生放送で視聴していた。


1点ビハインドで迎えた7回表。

2アウトランナー2塁の一打同点のチャンスで、代打の原拓也が打席に立つ。

ピッチャー森唯斗が投げた一球を打ち返し同点タイムリーを放ち、私も思わずよっしゃあ!と喜声を上げていた。

そのまま試合はロースコアの展開が続き、延長10回ウラ。

松田宣浩のサヨナラタイムリーにより勝負は決着。

バファローズは18年ぶりの悲願をあと1歩のところで逃してしまった。


この時、バファローズの選手もファンも皆、長く待った悲願を逃し、悔し涙を多く流していた。

阪神ファンの私もその姿を見てもらい泣きをしていた。

それから束の間、当時のバファローズの監督だった森脇浩司がナインを引き連れて、最後まで優勝を信じて全身全霊で応援してくれたレフトスタンドのファンの元へとビジター最終戦の挨拶に向かった。

もしこれが阪神ファンだったら「ふざけんなやアホ!」「毎年毎年ええ加減にせえやボケ!」などと言った罵詈雑言のオンパレードだっただろう。

しかし、バファローズファンは違った。「ここまで来れただけでもよくやった!」「クライマックスで下克上や!」とチームをたたえる声の方が多かった。

この時私はバファローズの選手、首脳陣、スタッフ達全員の「来年こそはやってやる」というリベンジに燃える姿と、ファンの野球観戦を心から楽しむ姿勢を見てバファローズという球団に惹かれていき、「サブの贔屓球団」という位置づけで応援するようになり、「来年は阪神とバファローズの関西シリーズ見てみたいなぁ」という大きな期待を抱いた。


しかしそんな私を含むファンの期待とは裏腹に、バファローズは優勝争いに絡むことなくチームは低迷期に入っていった。

それと同時に、私のバファローズに対する熱も冷めていき、メインである阪神の応援へと気持ちが戻っていった。


そして時は少し進み、2017年。

社会人2年目となり使えるお金に余裕ができたことや、当時WBCが開催され野球に対する熱が高まっていたこともあって「現地で野球を見てみたい」という欲が強くなっていた。

ただ、阪神戦を見に行くにしても、人気球団故に試合のチケットを取ることなど至難の業であった。

こう書いてしまうと全国170人のバファローズファンの方々から大バッシングを受けてしまうかもしれないが、バファローズなら当日券が余裕で手に入るくらいにガラガラだから快適に試合を見れるだろうと、京セラドーム大阪へ足を運んだことが本格的なバファローズ沼にハマり始めた全ての始まりとなる。


自費で初めて見に行った試合は、東北楽天ゴールデンイーグルスとの開幕カード2戦目。

この日の試合は楽天の打線が後の親会社モバイル事業参入を予言するかの如く繋がりまくり大爆発を見せる一方で、バファローズは見せ場と言える見せ場が全くといっていいほど無く、4対13の大敗だった。

しかし私は、球場に行って実際に野球を見ることの楽しさを実感した。

中毒性のある魅力的なメロディが大阪紅牛會によって奏でられる応援歌、味はシンプルながらも個性のクセがすごい球場飯、BsGirlsによるイニング間のセクシーでスタイリッシュなダンスパフォーマンス、そして何よりドーム内に響き渡る打球やミット、声援などといった複数の音によって演出される臨場感……魅力を挙げるとキリがなかった。だからまた見に行こうと、その後もドームに何度か足を運んだ。


前述した現地観戦特有の魅力の他にも、来場者特典のイベント限定デザインのユニフォーム目当てでドームに来たり、近鉄バファローズ時代や阪急ブレーブス時代など前身となる球団時代の復刻ユニフォームを着用して試合を行うイベントが面白そうだったのでドームに来たり……来る回数が重なるごとに、バファローズという沼の奥深さにハマっていった。

しかしその間、私がバファローズの勝ち試合をドームで見れたことは1回もなく、「俺が見に来てるせいで勝てないんじゃないか?」と自らの疫病神ぶりを疑いながら見に来るのをやめようと思いつつも、「次は勝つかもしれない」という一抹の期待を抱きながら、ドーム通いを続けた。


そして2018年5月2日。

この日のバファローズは選手、首脳陣らが阪急ブレーブスの復刻ユニフォームに身を包み、埼玉西武ライオンズとの試合に臨んでいた。

この試合をキッカケに私のこ心に変化が起きた。


試合開始時刻の18時に仕事を終えた私は会社から電車で約30分ほどかけて移動し、ドームの席についた4回表終了時点で、この日先発のブランドン・ディクソンが炎上し、0対5とリードされた状態。

「流石は山賊打線。今日もダメみたいですね…」とため息をつきながら引き続き試合を観戦していた。

その途端、クリス・マレーロの2ランから反撃が始まり、吉田正尚のタイムリー、福田周平のタイムリーで一気に同点に追いついた。

この時私はまだ同点ながら、「今日こそ勝てる」という期待を抱きながらも、「終盤あたりに山川穂高か中村剛也あたりに一発打たれて負けそう」という不安も半ば抱きながらチューハイを片手に試合を見続けていた。

その後無得点のイニングが続いてラッキーセブンの7回ウラ。

ステフェン・ロメロのホームランでついに勝ち越しに成功。

現地観戦初勝利に大きく近づく一発を目の当たりにして、立ち上がりそうな喜びが私の中には確かにあったが、そこは後ろで座っている客を考慮して、席に座ったまま両手をあげてはしゃいていた。

その後は当時高卒2年目にして絶対的な「8回の男」を務めていた山本由伸が完璧に抑え、9回は増井浩俊が締めてゲームセット。

京セラドーム大阪で初めてバファローズの勝利を自らの目で見ることが出来た私は、大いに喜んだ。


ここで少し話が変わってしまい申し訳ないが、暗黒時代から広島東洋カープや横浜DeNAベイスターズを応援していたファン曰く「負けると思って応援すると、勝った時の喜びが倍増される」とよく言っていたことを思い出す。

彼らはチームがどれだけ弱くても応援し続けた。

そしてその結果、カープはリーグ3連覇を成し遂げ、ベイスターズも2017年にクライマックスシリーズを勝ち抜き、見事日本シリーズに出場した。

その時カープファン、ベイスターズファンは長年の悲願が叶い、狂喜乱舞したことだろう。


たった1勝しただけでこれだけの喜びを味わえるのならば、優勝した時はあの時カープファンやベイスターズファンが味わった喜びをはるかに凌駕するレベルの喜びを味わえるかもしれない。

基本的に弱いチームなので、応援していてつらいと思うことがあるかもしれない。

けれど、応援した先にある「暗黒の向こう側」の空気の味を知ってみたい。

この日、現地で初めて勝利の美酒を味わい、「たまに勝つこと」への壮大な喜びを知ってしまったことこそが、私がバファローズを全身全霊で応援していこうと決意したキッカケである。


そして最後に悔し涙を流して7年、本格的なファンになって3年の時が経った今年。

そこに至るまで、現地にしろインターネットやテレビの前にしろ観戦方法問わず、記憶から消し去りたい試合を多く見てきた。

しかしその分、記憶に残る名試合も見てきた。

もちろん試合という場所以外でも良い思い出や悪い思い出をたくさん作ってきた。


チームの顔となる主力選手の多くが他球団に移籍した時、フロントと親会社の怠慢に怒りの感情が抑えられなかった私はファンを辞めてやろうかと思った。

それでもファンになってまだ年も浅く、ここで「暗黒の向こう側」を知らずに辞めてしまうのはもったいないし、むしろこの暗黒の地獄を楽しんでやろうと応援を続けた。


山本由伸の先発再転向後初となる先発のマウンドに登った試合を現地で拝見し、本人は相手打線を9回1安打無失点で抑える好投を見せるも、打線が1点も援護することが出来ず勝ちが付かなかった時も応援をやめてやろうかと思った。

しかし、その神のごとし投球を見て「彼は後に球界を代表する絶対的エースになる」と期待を抱いて、追っかけついでにチームの応援を続けた。


新型コロナウイルスの影響でシーズン開幕が遅れた昨年の2020年。

そんなファンが長く待たされたシーズンの序盤に前年までお得意様としてきたはずの千葉ロッテマリーンズ相手に同一カード6連敗された時も応援する気力のほとんどを削がれた。

しかし初の有観客試合となった同年7月10日の試合、アデルリン・ロドリゲスが9回ウラの土壇場の場面で放った逆転サヨナラ3ランホームランをスターダイナーの席から目の当たりにした時、ごく稀に勝つ時にこういった劇的な勝ち方をしてしまうバファローズの魅力を再認識して「これがあるから辞められない」と応援を続けた。


これらの暗黒ぶりを他球団ファンがTwitterや某実況掲示板などで煽りまくって馬鹿にしてきた時もファンを辞めた方が楽かと思った。

しかし、この暗黒地獄を乗り越えることなく栄光の光を見ずにファンを辞めてしまえば負けだと自分に言い聞かせファンを続けてきた。


そんな一喜一憂を数多く繰り返して、2021年10月27日。


私はようやく辿り着いた。「暗黒の向こう側」へと。


よそのチームの優勝のニュース映像でしか見ることのできなかった選手や監督らの胴上げや祝勝会の様子。

それを贔屓の球団で見ることができた時、とても嬉しかった。

「2014年の悔しさを知る中堅やベテランはその雪辱を果たせないまま球界を去ってしまうのだろうか」

「素晴らしい才能を持った若手たちは優勝の美酒の味とポストシーズンという大舞台に立つ緊張感と誇りを知らずに野球人生を過ごしていくのだろうか」

あまりにも勝てなかったこのチームを応援していてそんなやるせなさを抱いていた。この日の歓喜の光景を見た時、それらの苦しみが長い年月を経て報われた気分になり、私の少し熱くなっている目頭を両手で抑えた。


そして、私の中でまた新しく求めるものが出来た。

それは無論、チームが日本一となり中嶋聡監督を大観衆の前で胴上げすることだ。

私はその瞬間をほっともっとフィールド神戸で見ることになるのか、

東京ドームのビジター席で見ることになるのか、

どこかしらのスポーツバーで見ることになるのか、

もしかすると家のテレビの前でひとり寂しく見ることになるのか……。

いずれになるかはわからないが、ここまで来たのならバファローズが日本一の称号を手にする瞬間まで私は見てみたい。

これは私以外のバファローズファンの大半にも同じ気持ちがあると思う。


そのために単なる球団のファンの1人でしかない私が出来ることといえば、今まで通り引き続きバファローズを全身全霊で応援することのみである。

応援したからと言って必ずしも勝てるわけではない。

しかし、ここで書いたように応援することは苦しい時もあれど楽しい時もある。

そして勝った時はその楽しさが倍増する。

日本一の瞬間を球場で見ることが出来たら狂喜乱舞するかもしれない。

本格的に応援し始めてまだ3年と、まだまだ浅い年月ながらも、チームに対してここまでの愛情を築き上げ、私をここまでの感情にさせてしまったことこそが、バファローズファンであり続ける所以である。


そんなわけで、日本一という真の頂点に向けて、私は今日もバファローズを応援する。

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