―第11話― プレゼント
えーっと、ジャスミンの家は確かここの角を右に曲がって……。
……ここ、どこだ?
俺は今、絶賛迷子中だった。
「適当な奴に声かけるか」
ちょうど、適当な奴がいるしな。
「おーい、リーズ!」
「ローズだ! いい加減、名前ぐらいちゃんと呼べ!!」
「お前、ジャスミンの家知ってるか?」
「ん? 一応知ってるが……」
「よし、こいつを運んでくれないか?」
「は? って、ジャスミンさん!? 何があったんだ!?」
「じゃ、あとよろしくなー」
「おい! リアトリス!」
喚き続けるローズを無視し、俺は帰路に就いた。
「……てか、どうやって帰るんだ?」
迷子なの忘れてた。
「やあ、ジャスミンちゃん」
「あ、ルビーさん」
私は、久しぶりにあの部屋に来ていた。
「さて、修行はどうだったかな?」
「はい。リアのおかげで、大分強くなれたと思います」
「うん。それはいいことだ。ところで、最後のは覚えてるかい?」
「最後……。うーん、リアの攻撃をかわし切れなくて……、えーと……」
「いや、覚えてないならいいんだ。よし、アドバイスの時間だ!」
「お、お願いします!」
「まずは一つ目。今日から三日間は、なるべく魔力を使わないようにすること」
「なぜか、とかって聞いてもいいですか?」
「単純に、魔力の使い過ぎ。今の君、魔力がほぼないからね」
「え!? そんなに魔力使いましたっけ……」
「修行自体がハードすぎるんだよ。それに、最後にド派手にやってたしね」
「何のことですか?」
「さて、二つ目に行こうか」
なんか、はぐらかされたような気がする。
「明日、リアトリス君が君のうちに来ようとして、まったく違うところで迷うから、迎えに行ってあげて」
「わかりました」
「場所は、サンビル一のレストランのところだからね」
真逆じゃん。
「それでは、最後に一つ。詠唱の時は、なるべくイメージを固めておくこと」
「?」
「じゃ、また会う時まで」
そう言ってルビーが指を鳴らすと、前みたいに視界が歪んだ。
「あ、いたいた。おーい!」
あれ、今の声ジャスミンか?
よかった、探す手間が省けた。
「ちょうど良かった。お前を探してたんだよ」
「なんか用事でもあったの?」
「とりあえずついてきてくれ」
そう言って俺は、半ば強引にジャスミンを目的地まで連れて行った。
「ほら、ここだ」
「ここって、武器屋?」
「ああ、そうだ。おっちゃん、調子どうだ?」
「おお、リアトリスとジャスミンか。注文の奴なら、ついさっき完成したところだぜ」
「おお、ありがと!」
「注文?」
「お前の言うとおりに作ったが、こんな感じでいいか?」
そう言って店主が持ってきたのは、純白の鞘に納まった長剣だ。
「おー! さすがの仕上がりだな」
「あたぼうよ! でも、こんな剣を扱えるのか?」
「いいや、これはこいつ用のだよ」
俺は、その剣をジャスミンに手渡した。
「え!? 私!?」
「ほら、昨日、お前の剣を折っただろ? 代わりというか、お詫びというか……」
「いや、こんな高そうなの、貰えないよ!」
「もう代金は払ってんだ。俺に返されても、速攻で質に入れちまうだけだからな」
するとジャスミンは、しばらく悩んだ後。
「ありがとう、大事にするね」
そう言って、こちらに向かって微笑んできた。
「よかった。俺が丹精込めて打った剣を質に入れるとかいう、物騒な会話が聞こえたからな」
「大丈夫。一割は冗談だから」
「おい、ほとんど本気じゃねえか!!」
俺たちが馬鹿な会話を繰り広げている間、ジャスミンは剣を抜き、剣身を眺めていた。
「剣の具合はどうだい?」
「なんか、手にしっくりくる感じがするわ」
「そりゃあよかった。……そうだ。リアトリス、お前にも渡すもんがあるんだった」
「あ? なんだ?」
「ほらよ!」
「うわっ!!」
店主が投げ渡してきたのは、革製の鞘に包まれた短剣だった。
「ほら、お前って、弱っちいだろ? そんなお前でも、多少の戦力になれるようにな」
「……これ、結構いい奴じゃねえのか?」
「あ、お代はいらねえぜ」
「いや、払うよ!」
「いらねえっての。お前のポーションには、いつもお世話になってるからな」
「……今度、割引クーポンでもやるよ」
「ありがとな。それと、その短剣のちょっとした効果について教えてやるよ」
「効果?」
「そいつにはな、少し特殊なコーティングを施してあるんだ。ほら、鞘から抜いて、魔力を流してみな」
言われたとおりに短剣を抜き、魔力を流してみる。
「「おわ!!」」
横から覗いていたジャスミンと、ほぼ同時に叫び声をあげる。
剣身が、赤く光り出したのだ。
「そいつは、少量の魔力を込めるだけで、魔法剣と同じ働きをするようになってるん
だ。今は、ただ魔力を込めただけだから、少し切れ味がよくなる程度しか変化しねえが、少し頑張れば、魔法を打ち出したりできるんだぜ」
「……。マジでありがとうな。おっちゃん!」
「いいってことよ。これからも頑張りな。それじゃ、毎度あり!」
店主の豪快な笑い声を背に、俺たちは店を出た。
「えっと、リア。この剣、本当にありがとうね!」
「どういたしまして。ま、大事に使ってくれよ」
「もちろん!」
心の底から嬉しそうな表情を浮かべるジャスミンを見ると、俺のほうまで嬉しくなる。
後でおっちゃんには、ポーションを箱で上げようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます