―第8話― 助言

 ……またか。


「ハハハ、これはまた、ずいぶんと面白いことになっていたね」

「またあんたですか」


 俺は、再び例の白い部屋に来ていた。


「まさか、あそこで吐くとは……、アッハッハ!」

「そんなに笑うことはないでしょう!」

「いやいや、ごめんごめん。だってさ、あれだけ格好よく決めておいて、最後に吐くなんて、笑うしかないだろう」

「いや、あれはしょうがないじゃないですか! いきなりでしたから!」

「……ま、自業自得なところはあるけどね」

「今、なんて?」

「いいや、何でも。それより、君の能力は本当に面白いな」

「な、何がですか?」

「町にいた冒険者総出で叩いて、傷一つもつけられなかったような奴を、たった一人で撃退したんだぜ? しかも、相手の正体に気付いてからの舐めプ。あれは面白かった」

「まあ、本体となればさすがにガチでやらないといけないですけどね」

「今の君なら、いい勝負にはなりそうだけどね」

「……ルビーさんは、僕の能力について、どこまで知っているんですか?」

「……君よりは知っていると思うよ」

「マジで何者ですか」

「さてと、ここで恒例の、アドバイス・ターイム!」


 なんかはぐらかされたような気がする。


「……恒例なんですか?」

「ここに来たら、必ず一つ以上はアドバイスをするからね」

「じゃ、お願いします」

「まず一つ目。近々、人から見れば些細で、君からすればとても大きな選択が迫られるだろう」

「抽象的ですね」

「二つ目。能力は、できるだけ無駄遣いしろ」

「無駄遣い?」

「そう、無駄遣い。ある程度の時間が経てば、この意味が分かるぜ」


 でも、眠くなるんだよなぁ。


「三つ目。自分について、もう少しだけ深く理解してみな。そうすれば、君の能力はまだ強くなる」

「結構わかってるほうと思うんですけどね」

「いいや、君は君自身について、ほとんどわかっていない。何なら、俺のほうが詳しいくらいだ」

「……ストーカー?」

「おっと、非常に不名誉な呼び名が聞こえてきたんだが。まあ、いいや。それじゃあ、四つ目。困ったら、ジャスミンちゃんを頼れ」

「それはするつもりです」

「オーケー。じゃ、これで最後だ。自分を大事に」

「最後だけ、普通ですね」

「確かに普通だ。だが、これが大事だ。何なら、今までのアドバイスよりも大事だ」

「そこまでですか?」

「そこまでだ。さて、そろそろ戻る時間だぜ」

「あ、そうだ。一つ聞きたいことが」

「いや、残念ながら、その質問に答えることはできない」


 そうだ、こいつは心が読めるんだった。


「じゃ、またな」


 ルビーが指を鳴らすと、視界が眩んだ。

 くそ、答えてくれないのか……。






 …………。


「リアー、いるー?」


 ジャスミンか。


「いるぞー」

「少し用があるから、ドアを開けてくれない?」

「了解。ちょっと待ってろ」




「……修行をつけてください」


 家に入るなり、そんなことをジャスミンは言い出した。

 しかも、普段なら絶対にしないような正座をして。


「えっと、どういうこと?」

「そのまんまの意味です」

「とりあえず、その敬語をやめてくれない?」

「あ、うん」

「それで、修行をつけてほしいって、どういうこと?」

「昨日のリアの戦いを見て、このままじゃだめだと思ったの」

「どうして?」

「これから先もリアと冒険を続けていく場合、このままじゃ、私が足を引っ張ってしまうことになると思うの」

「そうか?」

「ほぼ確実にそうなると思うわ。だからこそ、あなたに修行をつけてもらって、もっと強くなりたいの」


 うーん、どうしよう。

 こうなったら、一番手っ取り早い方法を使うか。


「よし、ジャスミン。今から移動するぞ」

「どこに?」


「それはな、『移動』」


 質問に答えるよりも先に、その答えを見せた。


「ダンジョンだよ。しかも、ラスボスの部屋」


 俺たちが来たのは、この間行ったあのダンジョンの最奥だ。

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