―第5話― デート(?)

 ……遅い。

 昨日、突然来たジャスミンから、明日遊びに行こう、と誘われたはしたが、当の本人が一向に来ない。


「お待たせ~」

「おい、遅い……ぞ」


 そこにいたには、ワンピース姿のジャスミン。

 いつもは鎧姿でいるため、こういった服を着たジャスミンを見ると、少々驚いてしまう。


「お前、いつもそういう服を着とけば、多少はモテるだろうに……」

「なんか言った?」

「何も言ってない。それより、今日は何をするんだ?」

「特に決めてないわ」

「そ、そうか」


 うーん、それじゃあ……。


「よし、その辺の店でも巡ってみるか。クレープ? とやらが売っている店があったはずだ。そこに行こうぜ」

「あんたの奢りで?」

「お前のほうが稼いでるくせに」

「いいじゃないの。こういう時は、男が奢るものよ」

「ま、いいか。今は多少金に余裕もあるし」

「やった!」




「……うまいな」

「でしょう?」


 俺は今、生れてはじめてクレープなるものを食べたのだが、その美味しさに軽い感動を覚えている。


「この店のクレープは私のお気に入りで、休みになったらちょくちょく来てるのよ」


 確かにわかる。

 俺が今まで食べてきたものの中でもトップクラスにうまい。

 これは、俺もリピーターになりそうだな。


「さて、これ食い終わったら、別のところにも行くか?」

「お、リアも乗ってきたわね~」


 たまには、こういう甘いものを食べる時間があってもいいかもしれないな。




「ねえ、次はこの喫茶店に行ってもいい?」

「もう勘弁してください」


 こいつが行く店行く店で遠慮なしに頼むせいで、財布の中身がスッカスカになってしまった。


「な、なあ。そろそろ夕方だし、この辺で解散にしないか?」

「……最後に、一か所だけ行きたい場所があるの」

「本当に、そこで終わりだな?」

「…………うん」

「その間は何だ」

「ほら、こっちよ! ついてきて!」




 しばらく歩き、俺たちがやってきたのは、観光地として有名な湖だった。


「……なるほど、観光客が集まるわけだ。これは……、すごいな」

「でしょう? ここの景色を一度見てみたいと思ってたのよ」


 湖底に生息している生物の影響なのか、湖全体が光り輝いて見え、幻想的な景観を生み出していた。


「……ねえ、リア」

「どうした?」

「あの、えーっと……」

「おい、早く言えよ」


 するとジャスミンは、少しためらうような素振りを見せて。


「…………リアって、何者なの?」


 は?

 ……は?

 ちょっと待てよ?

 どういう事だ?


「"改変"だっけ? あんたが私たちに使った能力って」


 こいつ、気付いてたのか!?

 いや、それよりも、俺の能力が効かなかったのか!?

 今まで、こんなことは一度もなかった。

 いや、そんなことはありえないはずだ。

 ……一応試すか。


「……『改変』」

「ねえ、なんであなたはそんなに能力を隠そうとするの?」


 ……これは、確定だな。

 こいつの記憶に干渉できなくなってる。

 ジャスミン自身に能力が発現したのか?

 いずれにせよ、過去最大級のピンチだな。


「えっと、何か話したくない事情があるなら、無理に話さなくても……」

「……違う」


 もう、こいつの記憶をいじろうとしても無駄だろう。

 ……だったら、こいつ一人に明かすぐらい、いいのではないのだろうか。

 こいつは、人格的にも、口の堅さにも信頼がおける。

 ……こいつには話しておくべきではないだろうか。

 それが最善であるはずだ。

 覚悟を決めた俺は、俺の能力について話し始めた。

 ……いや、話し始めようとした。


『緊急事態発生! 緊急事態発生! 冒険者の方々は、至急城門に集合してください!』


「……後で話す。今は目の前の問題を片付けるぞ」

「……約束よ」


 そう言って俺たちは、城門のほうまで走っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る