―第2話― デメリット

 「おい、ジャスミン。『起きろ』」

「ああ、おはよう……。あれ、なんでこんなところで寝てたんだっけ?」


 あ、やばい、言い訳考えてなかった。


「『改変』」

「……確か、洞窟に入ろうとしたときに転んで、そのまま頭を……。……あんたが運んでくれたの?」

「ま、まあ、そうだな」

「ありがとう」


 ……罪悪感がすごい。


「なあ、大事を取って、今日は帰らないか?」

「えー……。……うーん、それもそうね。それじゃあ、帰りに居酒屋にでもよりましょう」


 よっしゃっ!!


「了解。いつものところだな」

「ええ。それじゃあ、またあとでね」


 そう言って、ジャスミンは走って帰っていった。


「はぁー、疲れた」


 俺も早く帰って、ひと眠りするか。

 今日は、能力を使いまくったしな。




 俺の能力は、非常に便利なものではある

 しかし、一つだけデメリットがあるのだ。

 それは……。


「おい、リアトリス。私との約束を破るとはどういうことだ。しかもその理由が、寝坊だと?」

「はい、申し訳ありません」


 そう、デメリットというのは、燃費が悪いせいか、睡眠時間が非常に多くなってしまうことだ。

 そのデメリットの影響で、昨日は一日中眠ってしまい、居酒屋に行くことができなかった。


「いや、最初はさ、少し昼寝をしようと思っただけだったんだよ。それがいつの間にか、がっつり寝てしまったんだよ」

「……私、二時間ぐらい待ってたんだけど」

「申し訳ありません」


 深く、深く土下座した。

 そこで俺は、あることに気がついてしまった。


「なあ、少しいいか?」

「何?」


「お前、パンツ見えてるぞ」


 ジャスミンからの本気の蹴りにより、俺は失神した。

 ……いや、別に俺悪くなくね?




「なあ、ジャスミン。俺が悪かったからさ。無視はしないでくれよ」

「……」


 なんだかんだで仲の良いこいつから無視されるというのは、なかなかに応える。


「ほら、この通りだ。何でもするからさ、許してくれよ」


 するとジャスミンは、くるりとこちらを向き、

「今、何でもするって言ったわよね」


 いたずらっ子のような笑みを浮かべながら、そんなことを言ってきた。




「なあ、こんなことして、何が楽しいんだ?」

「いいから、早く座りなさい」


 俺は今、とある場所まで連れてこられていた。


「それでは、ステータス診断を始めます」


 ステータス診断所。

 体力、知力、筋力など、様々な要素の測定を行え、冒険者カードというものを作成することのできる場所だ。

 そして、能力を所有しているものは、ここでどのような能力なのかを調べることもできる。

 そう、そこが問題なのだ。

 俺は面倒ごとが本当に嫌いなので、今まで能力を隠し、最弱冒険者として生きてきたのだ。

 しかし、ここで調べられてしまえば、今までの努力も水の泡となってしまう。

 それを避けるためにも、今までここには来ていなかったんだよな。


「あんた、いつまでたっても冒険者カードを作ろうとしないじゃない。それにほら、もしも能力があれば、あんたも最弱の座から脱却できるのよ!」


 別に望んでいないからいいんだが。


「それでは、この水晶玉に手をかざしてください」


 まあ、ジャスミンに何でもするといったのだ。

 それを守らなくてどうする?

 覚悟を決めた俺は、思い切って水晶まで手を伸ばし……。


「『破壊』」


 伸ばしたと同時に、水晶玉が砕け散った。

 まあ、能力を使っただけだが。

 でも、これでステータスを見られることはない。

 そしてついでに、



「『改変』」


 これで水晶玉は、“不慮の事故”によって割れたことになった。


「ああ! 申し訳ございません」

「いえ、また今度計りに来ますので。ほら、ジャスミン。早く出るぞ」


 なぜか不満の表情を浮かべているジャスミンを連れ、俺たちは診断所を出た。


「あーあ、なんでこういう時に限って、水晶が壊れるのかしら」

「それだけ、俺の運勢が強いということだ」

「なんでそんな頑なに、ステータスを計ろうとしないの?」

「だってよー、俺がステータスなんて計ったりしたら、とんでもなく低い数値が出て、また他の冒険者にからかわれるだろ」

「それは、あんたが鍛えようとしないからでしょ」

「そんな面倒なことは嫌いなんだよ」

「あ、あんたってやつは……」

「俺は眠いから帰るわ。それじゃ、またな」

「寝坊するくらいまで寝てたくせに、まだ寝れるの!?」


 ま、能力を使ったからな。

 さてと。今日は一日中寝ていようかな。

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