最弱の冒険者と呼ばれてますが、この世界で最も強力な能力を隠しているだけなので本気を出して相手に無双します!……と言いたいところだが面倒くさいので今日は寝る。お前ら、邪魔するなよ?

ランド

―第1話― 最弱の冒険者

 「こら、リア! いるんでしょ? 早く出てきなさい!」


 誰だ、こんな朝っぱらからうるさく叫ぶのは。

 ……まあ、俺みたいな変わり者を訪ねる変な奴なんて、一人しかいないわけだが。


「俺はまだ寝てるぞ、ジャスミン」

「そんなに堂々と嘘をつく暇があるなら、いい加減に出てきなさい! じゃないと、ドアを蹴破るわよ?」

「おい、待て! ここ、借家なんだから! これ以上物を壊したら、俺が追い出されるんだが!?」

「それが、いやなら、早く、出て、来なさい!!」


 ただでさえ、ぼろが来ているこの家。

 あのバカ力が本気で蹴れば、ひとたまりもないだろう。

 ということで、あわてて身支度を済ませ、ジャスミンの元へ走った。


「あら、ずいぶんと早かったわね。後三秒遅かったら、このドアをただの木片に変えてさしあげようと思っていたのだけれど」

「マジで洒落にならないから、やめてくれ」


 このアマ、ニヤニヤしやがって!

 だが、ここでこいつに反撃しようものなら、フルボッコにされるだけだ。

 こいつ、聖職者のくせに、無駄に力があるし。

 ……よし、やめておこう。


「で、今日は何しに行くんだ?」

「モンスター退治よ!」

「いやだ!」

「いやだ、じゃないわよ! あんた、ただでさえ弱いのだから、こうやってレベル上げでもしないと……」

「お前、俺が弱いのを分かっているなら、なおさら連れて行くなよ!」

「ほら、もう決めたから行くわよ」


 と、半ば強引に山に連れていかれている、俺ことリアトリスは、ここ、冒険者が集う街『サンビル』屈指の弱さを誇る冒険者だ。

 そして、男の俺が抵抗しているにも関わらず、易々と俺を引っ張っていくこの怪力女は、ジャスミン。

 俺とは逆に、サンビル最強の冒険者と名高く、信仰心なんてかけらもないくせに聖騎士なんてやっている変人だ。




「さて、着いたわよ」


 そうして、ジャスミンが指さした方向にあったものは……。


「お前、話が違うじゃねえか! 洞窟探索だなんて、俺たちにできるわけがないだろうが!」

「別に、嘘なんてついてないわよ。この中でモンスター退治をするのだから。それにここは、私が見つけたダンジョンで、まだ誰にも探索されていないのよ!」

「で?」

「つまり、財宝がたくさん眠っているのよ!」


 うわあ、この聖騎士様、金で頭がいっぱいだよ。


「ま、まあ、未探索の洞窟は、少しの探索でも報奨金がもらえるしな」


 ……ここにも、金の亡者が一人。

 そうして俺たちは、洞窟の中へと入っていった。




「おい、ジャスミン! お前のまいた種なんだから、自分で何とかしやがれ!」

「そ、そんなこと言ったって、私にどうもできるわけないじゃない!」


 俺たちは今、大きな岩が転がってくるという、洞窟あるあるを体験していた。


「大体お前は、なんでこんなにも簡単な罠に引っかかるんだ!」

「だって、あんなところにボタンが置いてあったら、普通の人は押すわよ!」

「後でお前に話がある! とりあえず、そこの曲がり角に逃げ込むぞ!」


 なんとか岩を回避した俺の後ろで、岩が砕ける音が響く。


「おい、アホ。お前のせいで、脱出不可能になったぞ」

「す、すいません」

「帰るときには、お前があれを撤去しろよ?」

「はい」


「アアァァァ」


「お前、何か喋ったか?」

「何よ、急に怖いことを言わない……で……」


 ジャスミンの目が恐怖に染まり、俺の後ろを見つめたまま固まった。

 いやな予感がした俺は、恐る恐る後ろを振り返った。


 そこには、ゾンビの大群がいた。


「「ぎゃあああああ!!!」」


 二人同時に逃げようとするも、先ほどの岩で、出口が閉まっていることを思い出す。

 今度ばかりは、マジでやばい。

 こうなったら、奥の手を……。

 いや、そういえばこいつ。


「お前、一応聖職者だろ?こいつらを浄化できないのか?」

「……あ、そういえばそうね!」


 こいつ、聖職者の自覚がなさすぎるだろ。


「『ホーリー・エクソシズム』」


 流石はサンビル最強の冒険者。

 あれだけの量いたゾンビどもを、一瞬で浄化した。


「ねえ、どうだった? かっこよかったでしょ?」

「はいはい、かっこよかったよ」

「何よ、その適当に流す感じは!」

「それで、どうする? まだ、探索するか?」

「当り前じゃない。まだ、宝の一つも見つかっていないのだから」

「マ、マジすか」

「マジよ」


 まあ、今の戦闘の感じなら、別に大丈夫か。




 迂闊だった。

 ジャスミンがいくら強かろうと、あいつのアホさ加減を考えれば、簡単に罠にひっかっかることぐらい想定できたはずだ。

 しかも、あいつの触れた魔法陣は、ジャスミンもろとも跡形もなく消えている。

 罠のタイプから見て、ダンジョンに入ってきた人間の人数を減らすためのものだろう。

 そして、そいつの思い通りの状況になっているわけだ。

 こうなったら……。


「俺も、本気出すしかないか」


 超絶面倒なのだが。




 前方に、大量のゾンビを発見。


「『浄化』」


 瞬間、淡い色の光にゾンビどもは包まれて消えた。

 この辺りには、それほど強力なモンスターはいなさそうだ。

 ……前言撤回。


「ウォオオオオオオ」


 ゴーレムか。

 これは、少々厄介だが……。


「『崩壊』」


 その言葉とともに、ゴーレムの体は崩れた。

 このゴーレムからは強い魔力を感じるし、時間稼ぎ程度にしかならないだろうな。

 だが、その間にここは突破できる。

 それに、これだけのゴーレムがいるならば、ボスの部屋も近いだろう。

 まあ、目の前に豪華な装飾が施されている扉もあるし、この中にいるんだろうな。


「たのもー!」


 俺の声に、ダンジョンの主と思わしき奴が振り返った。


「ほう、まさか、この部屋までたどり着けるものがいようとは……」


 見た目からして、相手はウィザードだろうか。


「おい、御託はいいから、さっさとジャスミンを出せ。あの魔方陣のトラップに引っかかったアホだ」

「ああ、あの娘か。吾輩を倒せたならば、返してやろう」

「約束だな?」

「は? あ、ああ、約束しよう」

「よし、それじゃあ、『爆発』」

「ぎゃああああああ」


 ウィザードを中心に爆発が起こる。

 よし、これで倒せたな。

 お、本当にジャスミンが現れた。

 しかも、都合よく気絶してくれている。


「『脱出』」


 よし、地上にも戻ってこれた。


 さてと、自己紹介をし直さなくてはだな。

 俺の名はリアトリス。

 人呼んで、最弱冒険者。

 恐らく、この世界で最も強力な能力を持っている者だ。

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