標準魔法~周りから劣等扱いだった家出少女は新たな世界で優秀を目指す~

@chachakotaro

第1話 導き 1

ーーーーーーなんであなたはこんなこともできないの!!この恥さらし!!








ーーーーーーこんなのが姉妹だなんて………………、ちょっと勘弁してほしい。









ーーーーーーもっと努力しなさい。もっと。もっと!もっと!!









「うわっ!!!」



銃声のように発せられたこの声が山びこのように広い空間に響き渡る。何回か声が帰ってきたあと、少し遠くの司書席からカエルを睨む蛇のような冷たい視線を感じ、今さら意味もないのに慌てて彼女は口を両手で押さえた。



(………………やばっ。声に出てた………………?)



冷たい視線が切れた後、それとは違う冷たい風が肌に触れ、少し身震いをした。その原因を見つけるため周りを見渡してみると、北風が吹く季節なのに窓が開いている。そこからは沈みかけている夕日が差し込んでいた。



(そういえば私、図書館で本読んでたんだっけ?)



と、少しずつさっきまで何をしていたのか少し思い出していく。たとえあまり思い出したくないものであっても。

彼女の名前は出雲鈴奈。出雲の父は有名スポーツ選手であり、母は有名選手を発掘するスポーツトレーナー、そして姉の華鈴は全国大会出場の看板を持ったバスケ部のキャプテン。

しかし、出雲自身は何の称号も持っていない。

嫉妬はしまいと思っても、してしまうほどの大きな存在。

次第に出雲は家族の中で劣等感を抱き、また家族は出来損ないの妹を軽蔑した。



出雲は両親や姉の重圧に耐えきれず、朝早くから家出してきたのだ。家のテーブルの上に[家出します。今日から一人で生きていきます]と書いている置き手紙を残して。

しばらく学生服で近くを彷徨った後、普段から出雲の拠り所である図書館に逃げ込んできたのだ。



(というか、こんな時間!!急いで帰らないと)



帰らないと、と言っても何処へ?何も言わず出てきた家へ?家に帰るとしてもウチはどんな顔をすればいい?



自分で抜け出してきたというのに、またそこへ戻ろうという考えがよぎったことを自分自身で恨んだ。

結局、自分は強い意志を持つことすらもできない。



(………………ったく、何やってんだ、私)



そんな考えを振り払うかのように出雲は首を左右に振った。

自分は絶対に一人で生きていくんだ、と。決意を固めてきたのだ。

その証拠に出雲が座っているテーブルには『中卒からでも成功する方法』や『お金を素早く稼げる方法』などといったタイトルが書かれている本が置かれている。



(よっし、今から読み漁るぞ!!)



と、出雲は意気込みながら、机に重ねた本に手をかけた。

その瞬間、無情にも図書館の閉館の鐘が鳴り響いた。



(えっ!!嘘!!)



出雲は絶対的に間の悪い鐘の音に驚き、図書館の壁際に置かれている古時計を見た。

図書館の閉館時間が4時半。

そして、古時計の短い針が指しているのは4と5の間、長い針が指しているのは6の場所。

間違いなく閉館時間だった。



出雲は唯一の心の拠り所から出ていくしかなかった。

まだ何も得てないというのに。

一日目の成果は何もない。

これから生きていく方針も、お金を稼ぐ方法も何も決まっていない。




出雲は何も考えずに家を飛び出してきたため、黒色の厚手のコート、電池が赤表示のスマートフォン、5000円しか入っていない財布しか持っていなかった。ここら辺で泊まれるホテルはないし、泊まれたとしても貴重な5000円を食事以外に使いたくはない。沈んでいく暖かな光がこのままでは希望がないことを示しているようだった。



上の方に掲げられている消えそうな電光掲示板には気温0度と書かれており、少し風が吹くたびに震えてしまうくらいだった。

毎日、曲がりなりにも豊かな生活を送っていた彼女はこんな寒さは耐えきることは困難だった。この時期は暖かい部屋で毎日を過ごしていたのだから。

そして、街には出雲には眩しすぎるくらいの街灯やクリスマスに向けてのイルミネーションが飾られていた。



しかし、彼女をここまで寒くさせるのは他にも理由があった。それは街を行く人々の冷酷な目線。1人寒そうに歩いている少女に誰も手を差し伸べようとはせず、ただ黙って通り過ぎるか追い抜くだけ。通りすぎる人々がちらりと見るだけであっても、彼女にとってはとても冷たく感じてしまう。

全て彼女が選択した悪い道だとしても。



出雲はそんな目線を無意識のうちに避けるようになり人通り少ない道へ進んでいく。

この行動は出雲の癖だ。

いつも他人の目線や評価ばかり気にしていた出雲は、家の中でも、学校でも、人の目に入らないように、人の興味を引かないように努力してきた。

そんな出雲は無意識の内に人気のない場所へ足を進めていた。



そんな彼女の癖は彼女の人生史上最大と言えるほど発揮されてしまっていた。



出雲はふと気が付くと、見知らぬ場所へと足を踏み入れてしまっていた。

先ほどとは打って変わって、今にも消えそうな街灯があったり、クリスマスのイルミネーションが飾られている場所があったりはしなかった。

今にも消えそうな街灯がかろうじてついているだけで薄暗く、左右にはコンクリートで出来た2mくらいの灰色の壁が聳え立ち、前と後ろには奥へ行けば行くほど真っ暗だった。



(あれ?ここどこだ?)




気が付いたときはもう遅かった。

どこを見てもここがどこだかわからない。

住宅街ではあるのだが、壁の向こう側にあるであろう家の部屋からの電気の光は出ておらず、ろうそくで照らしているような小さな赤い光が外に漏れていた。少し、前に進むと街を少しながらも照らしていた街灯は完全に消え去った。



こんな不気味なところにいつまでもいれるはずもないが、どこに行けばいいのかわからない。スマホを取り出し、マップを開いて現在地を確認しようとしたが、マップを開いた瞬間、画面から光が消え去った。



(あっ………………電池切れた。でも、一瞬だけ見えた。……少し信じられないけど、ここ地図に載ってない場所なのかもしれない)



さっき彼女の目に映ったスマーフォンの画面は、ただ真っ白だった。



普通の女子高生ならこの状況で冷静ではいられないだろう。どうにかしてスマートフォンの電源を入れようとしたり、助けを呼ぼうと叫んだりするだろう。

それか真っ白だった地図をスマートフォンのバグだと思い、現状を信じないようにするだろう。

しかし、彼女は違った。



(ここまさか違う世界?)



と、ふと出雲の脳裏によぎった。家出をする前まで異世界に関係した本を読んでいたから、そう思ったのかもしれない。

理由なんか些細なことでいい。

今、起こってしまっている現状を何となく理解ができたのだ。



その瞬間、後ろに誰かがいる気配を感じ、後ろを向くと、きれいな黒色の長髪を揺らし、黒一色のドレスのような服を着ている、見た目20歳前後の可愛らしい女性がどうゆう原理かふわふわと浮いていた。



そんなおかしな状況にふと言葉がこぼれた。



「あなた……誰?」



「あたしは魔神ユピテル。あなたをここへ導いた者だよ」



魔神ユピテルは不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

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