第30話 発信
琵琶湖湖底を掘削し、ドーム状に建造された水中ドック。
その土木技術には、目を見張るものがあるだろう。
「ようこそ。琵琶基地へ」
そういって、自衛隊の業務車が先頭を走る。
それについていくように、ヘリクゼン関係車、そしてヘリクゼン本機が続く。
ある程度進んだ所で、業務車が止まる。
その先には巨大な構造物があった。
「あの飛行船が新国際秩序の最後の切り札、深宇宙特殊攻撃艦『神武』です」
無骨な長方体に、パーツをいくつかつけたような、シンプルな見た目をしている。
「これが本当に浮くのか?」
一基が尋ねる。
「理論上は問題ないはずです」
「でもテストはしてないんだろ?」
「それが心残りではあります」
「……まぁいいや。さっさと乗り込もう」
そういって一基はせかす。
「格納庫まで案内します」
業務車に案内され、艦底に向かう。
そこにあるハッチから、艦内の格納庫にヘリクゼンは収容された。
「さて、準備が整いましたね。早速出発しましょう」
一基とその関係者は、神武の艦橋に上る。
そこには、自衛官と、イギリス軍士官の姿があった。
「自衛隊が運用するんじゃないのか?」
「以前説明しましたが、日米英による共同の艦です。運用も共同で行います」
「ふーん」
そのうち、艦橋が騒がしくなる。
「船体固定具解除」
「エンジン始動、出力25%」
「|Start of on-board gravity control《艦内重力制御開始》」
「反重力航行モードへ移行。操舵開始」
その時、艦が若干揺れる。
「船体上昇。最終アンカーケーブルは想定通り機能しています」
「|Workers must leave the site immediately《作業員は速やかに退避せよ》」
「CICとの情報伝達は正常通りに作動」
「出航準備よし!」
「艦長、出航準備整いました」
「よろしい」
そういって艦長は、艦内放送をかける。
『これから向かう先は、我々も見たことのない世界だ。宇宙に進出する最初の戦闘艦として、総員が十分に神武の性能を引き出せるように努力してほしい』
一呼吸置き、艦長は号令をかける。
『出航する!錨上げ!』
それに合わせて、艦橋の空気が変わる。
「非戦闘員は所定の退避口へ急げ!命の保障はない!」
「爆破ユニット動作確認」
「機関出力上昇。アイドリング状態を維持」
アンカーケーブルの軋む音が聞こえる。
「非戦闘員の退避完了を確認」
「爆破ユニット、最終安全装置を解除」
「爆破用意!」
「最終アンカーケーブル解除!」
その瞬間、神武が大きく揺れる。
どうやら、3次元操舵に慣れていないようだ。
しかし、数十秒で安定する。
「神武発進!」
「発破!」
その瞬間、天井が爆破され、大量のがれきと水が押し寄せてくる。
しかしそれらは、神武の周囲の空中で停止した。
「機関出力90%」
「神武上昇します!」
反重力推進機構から漏れ出した反重力が、周辺のがれきや水に反応しているようだ。
そして、そのまま勢いよく湖面へと浮かび上がっていく。
地上から見れば、まるで水中で爆破があったような光景を目にすることだろう。
水柱の中から、巨大な艦船が姿を現す。
まさに、映画の中のワンシーンのようだろう。
「現在、高度200m。上昇を続けます」
そして、宇宙空間に向けて神武は上昇を開始した。
「これがヘリクゼルを使った艦か」
「ヘリクゼンと比べて乗り心地はいかがでしょう?」
「……別に。そんなの気にしないし」
艦長の質問にも、ぶっきらぼうに返す一基。
そんなことはつゆ知らず、神武はぐんぐん上昇していった。
「現在、高度5000m」
「艦内気圧調整します」
そして1時間もすれば、宇宙空間へと到着する。
「こんな大人数で宇宙空間に到達できるとはな。感慨深いものだよ」
そう艦長は誇らしげに語る。
「さて、目的の異星人の母艦はどこにいる?」
「イギリスからの情報ですと、現在は地球を挟んで反対側にいるとのことです」
「そうか。なら、こちらからお出迎えしなければな」
そういって艦長は指示を出す。
「目標、異星人の母艦!前進せよ!」
「前進強速。対空警戒を厳となせ」
そうして神武は、異星人の母艦を目指して、高度を上げ続ける。
一方そのころ、異星人の母艦では、対地球攻略の算段を検討していた。
「司令官、このままではジリ貧です。応援を要請しましょう」
「そんなことをしてどうなる?我々の種族のプライドに傷がつくだけだぞ」
「しかし、この艦は指揮管制用。まともな攻撃手段を持っていません」
「おまけにまともな戦力であるゼシリュフク級も、忌々しいアイツによってすべて破壊された……」
「撤退した所で、我々は生き残ることはできないでしょうな」
「ならどうするのだ?」
「先の例のように、我々も突撃するべきでしょう」
「だが、あれは戦闘艦だからできたことで、指揮管制用の艦ではなんともならないだろう?」
「方法はあります。イエローストーンと呼ばれる地域に突撃し、噴火を誘発すれば、惑星規模の大災害になることは試算済みです」
その時だった。
「指揮官!連中がやってきます!」
「なんだと……?」
異星人たちは身震いした。
あの狂気のロボットがやってくることを理解したからだ。
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