第23話 新たな敵

 脳内に響き渡る声。

 それは、その場にいる人間だけでなく、全人類、ひいては地球に存在する全ての生命体に響き渡った。


『我々は異星人である。先日やってきた愚か者とは違う星の出身だ。該当者を処分せずにノコノコと帰ってきた愚か者に変わって、該当者を殺害しに来た。我々の認識では、該当者を生かしておくわけにはいかない。それは我々の、ひいては宇宙そのものの存在理由を脅かすからだ。該当者を処分するまで、我々は存分に暴れまわるだろう。該当者を殺してもなお、この惑星の全ての生命体を絶滅させる。それまでに我々は怒り狂い、そして憂慮しているのだ。該当者よ、震えて眠るがよい』


 そういって声が止む。


「……今の、確実に俺たちに対する宣戦布告だよな?」


 一基は世話人に聞く。


「おそらくそうでしょう。新国際秩序総会に連絡します」


 そういって世話人は電話をかける。

 しかしその直後、上空に異変が生じる。

 そこには昼間にも関わらず、無数の流れ星が流れていた。それにしてはやけに大きい。

 その内の一つが、現在一基がいる北富士演習場に飛んでくる。

 そのまま、演習場の真ん中に落下した。

 比較的端っこのほうにいた一基は、ヘリクゼンに乗り込んだ。

 その直後、演習場の中心から何かが高速で突っ込んでくる。

 それに対して一基は、最近装備されたヘリクゼン専用警棒を構えた。

 その瞬間、ヘリクゼンごと吹き飛んだ。


「ウグッ!」


 あまりの衝撃に、軽く地面をえぐりながら100mほど滑るヘリクゼン。

 止まった時に、ヘリクゼンを吹き飛ばした原因を見る。

 そこには、全高5mのヘリクゼンを優に超える、全高30mほどのロボットのようなものがあった。


「ロボット……だと?」


 ロボットに相当する機械に乗り込んでいる一基が、そんなことを口走る。

 そのロボットは周囲を一瞥いちべつし、そして立ち上がった。


『あぁ、久しぶりの重力下は慣れないな』


 そういって、ヘリクゼンのほうへ歩み寄ってくる。


『お前が該当者か。小さいながらも莫大なエネルギーを感じる』


 その時一基は直感する。こいつは不味い、と。

 一基は息を吸うと同時に、警棒を振りかぶって突っ込む。

 それをまるで小さい子供をあしらうに、ロボットは簡単にヘリクゼンを止める。


『自己紹介してなかったな。俺らはゼシリュフクと呼ばれている。宇宙最強格の種族だ』


 そういってヘリクゼンを掴んで持ち上げる。


「クソ、このっ!」

『脅威は排除するに限る。これは我々の種族のルールの一つだ。リスクは減らしたほうが得だからな』


 そういってヘリクゼンをぶん投げる。


「グアッ!」


 衝撃でベルトが食い込み、痛みを感じる。


『ふむ。重力が邪魔だな。あとで調整してもらうか』


 そういってゼシリュフクは、関節を回しながらヘリクゼンに近づいてくる。

 一基は危機感を感じ、熱光線砲を撃つ。

 熱光線砲は、ゼシリュフクの脇腹に命中するものの、表面を焦がすだけであった。


『……なるほど。そういうタイプか』


 ゼシリュフクは、命中した箇所をさすりながらヘリクゼンに近づいてくる。

 力の差をひしひしと感じた一基は、この後どうするか考えるものの、何も思いつかない。

 その時通信が入る。


『一基様!ご無事ですか!?』

「無事に見える?」

『とにかく、一連の状況は確認しています。あのロボットは現在世界各地で確認されています。あれをゼシリュフク級と呼称することが決定しました。そして総会から特殊部隊戦術長に対して、正式にゼシリュフク級を殲滅するよう要請されています』

「それは分かるけどさ、正直勝てるような算段がないんだよね」

『それでは困ります。一基様には、ぜひとも勝ってもらわなければいけません』


 そう世話人が念を押すように言う。

 しかし、実際に勝てる見込みがない。

 それが一基を慌てさせる。


「こうなったら……!」


 一基はジェットパックを吹かして、ゼシリュフク級に突っ込んでいく。

 しかし、途中で方向転換をし、ゼシリュフク級の周りを旋回する。

 一基は、周囲を高速で旋回することで、どうにかしてゼシリュフク級の気を紛らせようとする。

 そんな状況でも、敵のゼシリュフク級は落ち着いているように見えた。

 そんな状況で、一基は熱光線砲を牽制目的で放つ。

 周囲から撃たれるものだから、ゼシリュフク級は全方位から狙われるものの、残念ながら有効なものになっていない。


『いつまでそうやってるつもりだ?』


 そういって、ゼシリュフク級は一気に動く。

 それは、高速で移動しているヘリクゼンを狙って飛んでくる。

 一基はそれを回避しようと、ブースターを噴射した。

 しかし、ゼシリュフク級はそれすらも追尾してくる。

 そしてゼシリュフク級に手で捕縛された。


「うっ!」

『追いかけっこはもうおしまいか?残念だな』


 そういってゼシリュフク級はミシミシと力を入れる。


「クッ……」


 一基は何か出来ないものかと、補助用操縦桿をめちゃくちゃにいじる。

 しかし、それでも何も反応しない。

 ヘリクゼンの全身を掴まれているため、まったく動かせないのだ。


『このまま握りつぶせば、手柄は俺のものか。ククク……』


 そういって、ゼシリュフク級は力を入れる。

 コックピットが次第に凹んできた。

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