第21話 新国際秩序

 かくして人類は勝利をつかむことができた。とは言い難い。

 勝利による利益よりも、戦闘で喪失または損失したほうが大きかった。

 当然だろう。アフリカ大陸、ユーラシア大陸、北アメリカ大陸の3割強が犠牲になったのだ。

 まともに残っている国家といえば、ギリギリで難を逃れたイギリス、ほとんど関係なかったオーストラリア、一基一人の活躍で何とかなった日本だ。

 アメリカは西海岸の州とハワイが生き残った状態で、国としてマトモに機能していない。

 世界がこの状態であるから、まず経済が真っ先に暴落状態だ。

 さらに、アメリカ東海岸と中国が消滅したため、工業、農業が壊滅状態である。

 そのうえ、肝心の海上交通網が寸断されている状態のため、日本やイギリスのような島国にとっては致命傷だ。

 日本は、国内に備蓄している資材をどうにかしてやりくりしているものの、1億弱の人口を支えることはできない。


「それで、政府はどうするつもりでいる?」


 母船を墜とした翌朝、一基が世話人に聞く。


「現在の所、考えあぐねている状態とも言えますね。すべての物品に対して流通規制がかかっているため、まともに会議を開くことも不可能のようです。幸い、有志が集まって何とかしようとしていますが、強制にでも人口を削減するしかないとの見解を示しています」


 世話人がタブレットを持って、まとめた資料を分かりやすく一基に話す。


「人口の削減ねぇ。陰謀論ならともかく、まともな国家が取るべき方法じゃないでしょ」

「それはそうとも言えます」

「ほかに報告することは?」

「ハワイに駐留しているアメリカ軍が、アメリカ合衆国の正当な後継組織であるとして独立を宣言、ハワイ・アメリカ軍機構となりました」

「緊急事態は時に人を狂わせるんだな」

「城南大学の専門家によると、1ヶ月で崩壊すると見ています」

「日本も同じ状況にあるって考えたほうがいいと思うけどな」


 一基は吐き捨てるように言う。


「とにかく、現状は唯一被害のないオーストラリアが主導して、新国際秩序を構築することをイギリスが提案しています」

「あのイギリスが?茶番にしかならないでしょ」

「しかし、残った人類が結束しなければ、地球は死の惑星になることでしょう」

「それはそうなんだけども」


 そういって一基は残りわずかな水を飲み干す。

 そんな一基の考えとは裏腹に、生き残った人類は思っているよりも早く結束した。

 オーストラリアが主体となって、生き残った人類の救出と救援を行うための軍を結成する。

 それと同時に、組織としての新国際秩序の枠組みを決めた。1日ほどいざこざがあったものの、結局オーストラリアの国家元首、すなわちイギリス国王がリーダーとなることが決まる。ここでイギリスのしたたかな外交が生きた。

 当然、日本やハワイ・アメリカ軍機構も参加する。

 そしてやるべきことはたくさんある。

 まずは、現在生き残っている人類をまかなえる程の食料を生産して維持すること。すなわち第一次産業による人類復興である。

 次に、食糧事情をさらに解決するために、荒れ果てた農地を再利用するための道具を作ること。つまり第二次産業による人類再興の準備だ。

 そして、人類同士が手を取り合い、世界国家となる。

 新国際秩序が目指すべき最終目標はこれだ。

 こうして、人類による地球再生計画がスタートする。

 しかし、これは一基が出る幕ではない。

 一基はあくまでヘリクゼンに乗り込んで、異星人の兵器を倒すためにいる。

 一基に関わる人間や自衛官は、今回の地球再生計画には参加せず、ヘリクゼンの修理や維持に務めることになった。

 それもあってか、新国際秩序の統合軍ではヘリクゼンを人類復興の象徴と位置づけ、統合軍特殊部隊戦術長として任命される。

 ただし、この肩書はあくまで名前だけであって、実質的には左遷されている状態に近い。これは新国際秩序が、一基とヘリクゼンのことを危険視しているからだろう。

 身を挺して一つの国を救ったというのに、この仕打ちはあんまりである。

 しかし、当の本人はまったく気にしていない。

 というのも、もともと一基は上昇志向などは持たず、自分のできることをできる範囲でやるような性格をしている。

 そのため、今回のような任命を受けた所で、本人はなんら困ることはないのだ。むしろ、影に隠れることができてラッキー、くらいにしか思ってない。

 だが、人類復興の象徴として、多くの人類に一基の存在が知れ渡ってしまった。

 その影響はすさまじく、一基に救いを求める人々が絶えないほどである。

 これには一基も、困惑するしかなかった。

 そんなことがありつつも、人類は急ピッチで復興を遂げようとしていた。

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