第12話 解析

 対馬駐屯地にある隊員食堂にて、夕食を取る一基とタックスリーダーの面々。

 しかしそこにあるものは、備蓄用の缶詰と水のみである。


「……これが現実か」

「食料が自給出来ない関係上、どこもこのような食事になっています。どうか我慢なさってください」

「いいよ。御殿場で慣れちゃったし」


 そういって、一基は缶詰を開け、冷たいまま食べる。

 今は水も貴重。ゆっくり湯に浸かるどころか、湯煎の水さえ確保するのに四苦八苦する状況だ。贅沢は言ってられないだろう。

 食事が終わると、一基は宿舎に設けられた自室に戻る。

 小さいながらも一人部屋を充てられた。

 ベッドに横たわると、一基はそのまま入眠してしまう。

 初陣の疲れが残っていたようだ。

 翌日。太陽も昇らない内に、世話人に起こされる。


「一基様。起きてください」

「……何?」

「警戒に当たっていた海自から連絡です。兵士級飛行型の活動を確認したそうです。対馬到着予定は1時間半後と推定されています」

「了解……」


 そういって一基は、眠い目をこすりながら主戦場たる対馬空港に向かう。

 夜を徹した整備作業で、ヘリクゼンは万全の状態である。

 ヘリクゼンに乗り込み、戦闘体制に移行する一基。

 そして夜明けと共に、兵士級の姿が確認される。


『ヘリクゼン、戦闘を開始せよ』

「了解!むんっ!」


 気合を入れて攻撃を開始する一基。

 前日同様、圧倒的な弾幕によって飛行型を撃墜していく。

 しかし、前日と比べて数が多い。


『昨日より数が多い。要注意せよ』


 レーダー上でも確認できたようだ。それだけ異星人の勢力も環境に適応しているということなのだろう。


「数が増えても、全部墜とせば問題ないっ!」


 そういって一基は、発射速度をさらに早める。これによって、毎分1000発を超える連射速度を記録する。

 当然、そんな速度でレールガンを撃っていては、前日のように赤熱を始める事だろう。

 そんな状況でも、一基は自分の能力でヘリクゼンを修理しながら撃ち続ける。

 こうして、敵の第一波は何とか防いだ。


『レーダー上に敵影なし。第一波の収束を確認』

「はぁ、はぁ、はぁ」


 これだけ長時間能力を行使することはなかった。

 そのため、一基の体にものすごい負荷がかかった状態になっていた。


『ヘリクゼンに通達。第二波が来るまで、警戒体制を維持。しばしの休憩だ』


 そう通信が入る。

 その指示を聞くと、一基はヘリクゼンを座らせ、自身は楽な姿勢を取る。

 その間、陸自はあるものを対馬島から運び出そうとしていた。

 それは、兵士級の残骸である。

 現在、イギリスでも解析は進められているが、日本独自の情報も欲しいところだ。

 そのため、津軽海峡で運行している高速フェリーを徴用したのである。

 高速フェリーはいくつか港を経由して、茨城県にある物質・科学研究機構に運ばれるのだ。

 その高速フェリーが出港したタイミングで、敵の第二波がやってくる。


『ヘリクゼン、敵を確認した。迎撃に移れ』

「よく来るな畜生が!」


 一基は悪態をつきながらも、迎撃に回った。

 こうして飛行型の迎撃が日常的になる。

 一方、物質・科学研究機構に運ばれた兵士級の残骸は、すぐさま解析に回されるのだった。

 それを調べた研究者は驚く。


「これは、まるで生物のようではないか」


 研究者はすぐさま、近くにある生物学に精通した学者を呼び寄せる。幸い、産業技術総合研究所があったため、対応は早かった。


「……なるほど、サンプルを少し持ち帰ってもいいですか?」

「構いませんよ」


 すぐにサンプルを持ち帰った学者は、それを詳しく観察する。その破片ともいうべきものは、肉体のようにも見えたのだ。

 学者は試しに、遺伝子解析を行ってみた。2060年代にもなれば、遺伝子の解析は数時間程度で終了する。

 遺伝子を見てみると、これまでに見たことない配列をしていることが判明した。


「これは……」


 学者はさらに、この遺伝子配列を利用してシミュレーションをしてみる。

 この時代ともなれば、パソコン上で生物の遺伝子情報を用いて演算を行うことも可能なのだ。

 それによると、兵士級は遺伝子操作によって誕生した一種の生物兵器であることが分かった。

 体内で機械の塊であるミサイルを製造できる器官を有し、太陽から得られるわずかなエネルギーを増幅させて活動していることが分かった。そのため、日が落ちた後は活動が出来ないようである。

 さらに、限界まで活動したり、水にふれると、その部分が崩壊することも判明した。

 その情報は、すぐさま総理大臣である大河内おおこうち詩優しゆうの耳にも届く。


「総理。兵士級の件で、少しばかり進展がありました」


 そういって、これまでの経緯を聞く大河内総理。


「なるほど、分かった。イギリスからの情報と合わせて、国連安保理に報告してくれ」


 こうして、情報は安保理へと集約される。

 人類にわずかな光が注いだ。

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