第6話 ヘリクゼン
翌朝、御殿場にある北富士演習場に到着する。
「それで、俺はこれからどうすればいいんだ?」
「来るべき時のために、ヘリクゼルを使った訓練を行ってもらいます。それによって、一基様専用兵器の仕様が変更になる可能性がありますので」
「それって、これまでの研究で何とかならない?」
「それでも問題はありませんが、個別に専用のデータを回収することで、より精密な設計が出来るというものです」
「……そ。じゃあさっさとデータ取ってよ」
「お望みのままに」
こうして一基は、ヘリクゼルを使った実験をおこなうのだった。
一晩かけて集められたデータは、すぐさま八菱重工に送られる。
そこで連日連夜に及ぶ設計作業が行われた。
製造現場も混乱を極めつつも、何とか形になっていく。
その間にも、世界は混乱に包まれていた。
『こちらニューヨーク中心部ですが、人の気配が一切ありません。先ほど、ニューヨークを訪れていた方に話を聞いてみましたが、この後睡眠薬を使って自殺を図るとのことです』
『異星人と思われる存在が宣告をしてから2週間ほど経ちましたが、日本でもその混乱は見られています。コンビニやスーパーなどでは強奪などの犯罪行動が横行し、治安は最悪と言ってもいいでしょう』
『日本政府は国民に対して、あくまでも理性的な行動を心がけるように要請するように呼びかけを行いました。実際社会は停滞し、経済も底なしの奈落に落ちていくような状態です』
そんな、悲観的な状況のみが伝えられる。
実際渋谷では、これ以上無意味な社会活動を終了することを政府に求めるデモ行進が行われ、その混乱は随所でも見られた。
しかし、そんな状況であっても、八菱重工と関連会社、そして子会社、孫会社は未来を確保するために、全力で一基専用の機体を製造する。
そして宣告から25日という時間で、機体が北富士演習場に送られた。
「これが俺の機体?」
「その通りです。機体の説明をしますか?」
「よろしく」
「では、大まかな話から。この機体は正式名称を『ヘリクゼン』としています。二足歩行を根幹とした搭乗型のロボットです。ハード、ソフト面では未完成となっていますが、一基様のヘリクゼルに対する特殊能力を使えば、問題なく動作出来ると思います。主兵装は弾薬無限供給型レールガン2門、ヘリクゼル熱光線砲1門、短距離飛行ユニット1機を搭載しています」
「なるほど。よく言えば、俺のヘリクゼルの能力を最大に引き出せるロボットっていうことね」
「その通りです。しかし悪く言えば、それだけ一基様に負担をかけることになりますが」
「いや、問題はない。後は実際に乗り込んでみないと分からないし」
そういって一基は、組み立て作業の行われているヘリクゼンの元に向かう。
ヘリクゼンは二足歩行による搭乗型のロボットだ。高さは約5m、無骨で角ばった姿は、まさに機能美を追及した形だろう。
「流石は八菱重工だな。二足歩行ロボットを造らせたら右に出るものはいないね」
そういって組み立て現場を見学する。
早速、訓練が翌日から始まった。
『一基さん、聞こえますか?』
「問題なし。いつでもどうぞ」
専用のヘルメットをかぶり、コックピットに乗り込む一基。
八菱重工の設計部の人間が出向き、直々に説明する。
『まずは歩くことをしてみましょう。一基さんの思考と足のペダルを使用しているので、スムーズに動く事が出来ると思います』
そういって一基は、まず右のペダルを踏み込む。
すると、ヘリクゼンの右足が前に出る。それと同時に、一基が歩くという考えを持っているため、右足は問題なく足を出す。
『その調子で少し歩いてみましょう』
そう言っているそばから、一基はヘリクゼンの歩行を簡単に行っていた。
「なるほど……、なるほどな。こうすればいいのか」
そういって、一基は次第に走り出す。そのまま飛行ユニットも使って、前方2回宙返り1回半ひねりを決める。
その様子を見ていた八菱の職員は口をあんぐりと開けていた。
「直観的に操作出来る。こいつはいいや」
それに反するように、一基は上機嫌だ。
『え、えー……。では、次に武装の操作と行きましょうか』
そういってヘリクゼンの前に標的が準備される。
『まずは、両腕の代わりに装着されているレールガンを使用してみましょう。この弾丸にはヘリクゼルが使用されているので、一基さんの力を使って複製、増殖させて使用してください』
そういうと、一基は目標を定めて弾丸を装填させる。
エネルギーの供給は、ヘリクゼルから直接行われるため、バッテリーや機関の搭載がいらない。
純粋なエネルギーから電気エネルギーを取り出し、それをレールガンに充填する。
そのまま弾丸を発射する。
爆音と共に、弾丸が目標に向かって飛んでいく。
そして見事命中した。
『いいですね。では次は連射してみましょうか』
その指示通りに、一基はレールガンを連発する。
弾丸を複製し、それを砲身に装填、そしてヘリクゼルからのエネルギー供給によって弾丸を発射する。
この作業を、0.5秒ごとに繰り返す。
だいぶ忙しくなるものの、問題はない。
『では最後に、熱光線を使用してみましょう』
ヘリクゼンの頭部にあたる場所。モニターに表示させるためのセンサー類や通信機器が詰まっている頭部に、小さく砲が乗っている。
そこにヘリクゼルから供給されるエネルギーを集結させ、一気に放つ。
それによって、超高温の熱光線が発射される。
それは着弾と共に、その地点を超高温に熱した。
『各武装については以上になります。後は訓練を続けて、一基さんの物にしてください』
一基は、その日ずっとヘリクゼンに乗っているのであった。
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