婚約破棄されたら、突然領主に誘拐されました

kernel_yu

第1話

「リシテア。お前との婚約を破棄することをここに宣言する」


「……なっ、何故ですか!?」

突然の婚約破棄の言葉に思わず声を上げてしまう。

だって、そんなことを言われる覚えは私にはないのだもの!

「理由なら先ほど言っただろう。貴様が悪女だからだ!」

「わ、私はそのようなことはしておりません!!」

「いいや、していたさ! 俺とマリアンヌが付き合っているという噂を流していたではないか!!」

「あれは誤解です!!殿下とマリアンヌ嬢はいつも一緒におられますから噂が流れるのも無理はないでしょう!?」

「うるさい! そもそもお前が俺の婚約者でなければこんなことにはならなかったんだ! リシテア・フォン・ラインツバッハ! 貴様には国外追放を言い渡す!!」

「え……」

今なんて? 国外追放って聞こえたような気が……。

いやいやいや。流石に聞き間違いよね?

「き、聞き間違えでしょうか? 今、国外追放とおっしゃいました?」

「あぁ、そうだ! お前のような悪女はこの国には必要ない!!」

「そ、そんなこといきなり言われましても困ります!」

しかし、サモアは全く聞く耳を持たないどころか鼻で笑ってきた。

「ふんっ。どうせ何か悪事でも働いていたのであろう?」

「悪事なんて働いておりません!」

「まだ言うか。往生際の悪い奴め」

そう言ってサモアは近寄ってくる。

(ひっ)

あまりの迫力に怖じ気づいて後ずさる。

しかし、ここは壁際に追い詰められている。すぐに背中が壁にぶつかった。

「くっくっくっ。さて、どうしてくれようかな」

その顔に浮かぶのは嗜虐的な笑顔。

「な、何をするおつもりですか?」

震える声で尋ねるとサモアは答えの代わりに拳を振り上げた。

そして―――

***

***

***

「うわあああああん! どうして私が国外追放されなければならないんですかー!!!」

リシテアは泣きながら森の道なき道を歩いていた。

後ろからは馬に乗った男達が迫ってきている。

「おい! 止まれ!!」

怒鳴り声と共に馬が止まる音が聞こえる。

「お前だな!? 最近この辺りで出没するという魔物というのは!」

「ち、違います! 私、人間ですよ!?」

「問答無用!」

「きゃああ!」

リシテアは男たちに取り押さえられた。

「放してください! 私、本当に何もしてませんよ!?」

「黙れ!」

そう言って取り出した刃物を向けてくる。

その目には一切の慈悲はなかった。

「ひっ」刃先が喉元に触れる。

(怖い……誰か助けて!!)

必死に助けを求めるが誰も来てくれる様子はない。

それどころか遠巻きに見つめられているだけ。

リシテアはその現実に耐えきれず意識を失った。

次に目が覚めた時、目の前にあったのは大きな屋敷だった。

豪華な造りの屋敷だがどこか古びていて不気味な雰囲気がある。

窓の外を見ると鬱蒼とした木々が見えることから森の中にあるようだ。

「一体、ここはどこなんでしょう……」

「あら、目覚めたのね」

突然かけられた声に振り向くとそこには一人の女性が立っていた。

ウェーブのかかった銀髪に碧眼、白い肌を持つ美女だ。

「あなたは誰ですか? それに、ここは一体……」

「ふむ。まぁ、順を追って説明しようかしら」

女性はそういうと椅子に腰掛け、紅茶を飲み始めた。

「私の名前はミザリー・ラスティマ。ここの領主をしている者よ」

「領主様が私に何の御用でしょうか?」

「まず、あなたがここにいる理由についてだけど。それは私が攫ったからよ」

さらっととんでもないことを言う。

「えぇ!? なぜ私なんかを!?」

「あら、可愛い女の子がいたから誘拐した。それだけのことじゃない」

全く悪びれることなく平然と言い切る。

「そんな理由で人一人攫うんですか!?」

「ええ。そうよ。悪い?」

「いや、悪くはないですけど……」

「ちなみにこの屋敷は私の趣味で作ったのよ。素敵でしょ?」

「……え、ええ、はい」

「それで、あなたは何をして国外追放されたのかしら?」

「そ、それは……」口ごもる。

「いいから言ってみて」

促されるままに語り始める。

「私は婚約者である殿下とマリアンヌ嬢との仲についての噂を流しました。すると殿下はそれを信じてしまい、私に酷いことを……」

「なるほどねぇ。それで、噂を流すこと自体が悪いことだとは思わなかったわけ?」

「え?」

「だって、あなたのしていることはただ単に嫌がらせをしたってことでしょう? それって人としてどうかと思うわ」

「そ、そんなことありません! 私は、殿下のためにと思ってやったことなんですよ!? それを悪女呼ばわりなんてあんまりです!!」

「はいはい。分かったわ。じゃあ、もうひとつ聞きたいんだけど、あなたが今着ている服、どうやって手に入れたの?」

「これですか? これは、その、殿下が用意してくれたものです。新しいドレスだとかなんとか言っておりました。それが何か……」

「へー、そう」

「もしかして、あなたは何か知っているのですか?」

「さぁ、どうでしょう?」

意味深な態度で微笑む。

リシテアは何か知っていそうな彼女の態度を見て考える。

(彼女は信用できる気がする)

根拠はない。

でも、直感的にそう思ったのだ。

「あの、お願いします! 私を助けてください! このままでは本当に国外追放されてしまうんです!」

「助ける?」

「はい! 私、何もしていないのに国外追放なんて納得できません!」

「でも、あなたの婚約者が勝手に言い出したのよね? なら、別に構わないんじゃないの?」

「いえ! 殿下の思い込みは激しいので、何をするか分かりません!」

「なにそれ。面白いこと言うわね」

ミザリーは笑う。

「それに、あなたは私のコレクションになるのだから簡単に手放すつもりはないわ」

「……はい?」

「ふふふ。大丈夫よ。痛いことはしないから」

「あ、あの……」

「さて、まずはお風呂に入りましょうか。ずっと馬乗りになっていたせいで体中が汚れているでしょ?」

ミザリーの言うとおり、リシテアは全身泥まみれで酷い有様だ。

「お湯は準備してあるから入ってきなさい。その間にお洋服を用意しておくわ」

「……はい」

リシテアは言われるままお風呂に入ることにした。

「お待たせしました」

「はい、良く似合ってるわよ」

用意されたのはピンクのネグリジェ。

「それにしても……どうしてこんなに大きいんですか?」

「あら、失礼しちゃう。これでも大きくはない方よ?」

「えっ」

「ちなみにサイズはLサイズよ」

「……私には大きすぎると思います」

「いいのよ! そういうのが好きなんだから!」

「は、はぁ……」

リシテアの身長は150cmほどしかないため、胸元のボタンを止めるのに一苦労している。

「ちょっと手伝ってあげるわね」

「あっ、ありがとうございます」

「ついでに、髪を乾かしましょうね」

「はい。よろしくお願いします」

リシテアの髪は肩にかかるほどの長さがある。

そのため、タオルで拭いただけでは乾かない。

ドライヤーのような魔道具を使って一気に乾かす。

「あなたは髪が綺麗ね。羨ましいわ」

「そ、そうですか?」

「ええ。とてもサラツヤよ」

「それは良かったです」

「そうだわ。あなた、名前はなんていうの?」

「リシテア・フォン・フレスベルグと申します」

「あら、随分と長い名前なのね」

「はい。両親がつけてくれた大切な名ですから」「そう」

それから、二人は他愛もない話をして過ごした。

夜が更け、日付が変わる頃、ベッドの上でくつろいでいると。

「ねぇ、リシテア。あなた、私と寝てみない?」

「え?」

突然の申し出だった。

「私、可愛い女の子と添い遂げるのが夢なのよ」

「そ、それって……」

「もちろん、性的な意味でよ」

「そ、そんなこと、無理に決まっています!」

「でも、あなたはここにいるじゃない」

「そ、それは……」

「まぁ、別に無理やりしようってわけじゃないから安心して。あくまで同意があればいいの」

「そ、そんな……」

困惑する。今までの人生で異性とお付き合いしたことはおろか、手を繋いだことすらない。

そんな自分にそんなことができるわけがない。

「あの、やっぱり私は……」

「もしかして、初めて?」

「えっと……」口ごもる。

「大丈夫。優しくするわ」

「で、でも……」

「あなたはただ身を任せていればいいの」

「あぅ……」

「さ、服を脱いで」

「わ、分かりました……」

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