第31話 またいつものように



「本当に申し訳ありませんでした」



 レイチェルは深く頭を下げて謝罪する。


 ギルドのテーブル席に座る男たちにレイチェルは頭を下げていた。その側にはレオナルドもいる。彼らはレイチェルが迷惑をかけたギルドのメンバーだ。ツバキはその様子をイザークと共に遠目から見守っていた。


 レイチェルはやり直すと決め、迷惑をかけたメンバーに謝りに回っていたのだ。本当はツバキも側にいたかったのだが、大勢で行っては謝罪相手を困らせしまうだろうとレオナルドが代表で同行することになったのだ。


 彼女はまだカラムーナに来て日が浅く、すぐにレオナルドとも出会ったので被害にあった男性というのは少なかった。


 謝罪に行けば煙たがれたらり、文句を言われたりもしていたがレオナルドが間に入って場を取り持ってくれていた。今、謝っている男たちで最後のようだ。



「レオナルドさんって面倒見が良いのね」

「面倒見が良い方だが、放っておけない質なんだ」



 困っている人もそうだが、自分を慕っている存在を無碍にすることはできないし、放っておくこともできない。だから、面倒を見てしまうのだとイザークは話す。



「レイチェルはレオナルドをえらく慕っていただろう。だから放ってはおけなかったみたいだな」


「……意外とレイチェルさんの押しって通用してたのかしら?」

「通じていたと俺は思うが」



 そう言ってイザークはレオナルドを見遣る。彼はレイチェルを連れて戻ってくるところだった。視線に気づいてか、「どうした、イザーク」と首を傾げる。



「いや。お前は相変わらず面倒見が良いなと」

「仲間なのだから当然だろう」



 何を言っているのだと言うレオナルドにイザークは小さく笑う、騎士団時代を思い出したようだ。ツバキはレイチェルに「大丈夫?」と問う。彼女は「大丈夫ですぅ」と返事をする。



「信じてもらえないのも、何か言われるのも覚悟の上ですしぃ」

「ちょっとへこんでるみたいだけど?」

「へこみますよ、少しは」



 覚悟の上であってもへこむ時はへこむのだ。元気なさげに狐の尻尾を垂らすレイチェルにツバキはよしよしと頭を撫でてやる。


 今日は休みにしようとツバキたちは建物から出ると、ヴァンジールと鉢合わせる。彼は「あぁ、此処にいたのか」と声をかけてきた。



「ツインスネークの退治ありがとう」

「いや、気にすることはない。俺たちも森には用があったからな」


「そのことなのだが、狐の獣人をあそこまで連れて行ったメンバーはしばらく謹慎処分にした」



 ヴァンジールの言葉にレイチェルとツバキが首を傾げる、どうしてそうなったのだろうかと。彼は「あのメンバーは君を脅かすためにそこまで連れいったんだ」と訳を話してくれた。


 ツインスネークが森にいることをあの小太りな男たちは知っていた。適当に森にはいって脅かしてやろうと思ったらしい。そこにツインスネークがやってきてしまい、慌てて逃げたとのことだった。



「ツインスネークの痕跡を見せて脅すつもりだったらしい。パーティを組んでいた少女が話してくれた」


「あの子が?」

「助けてもらったのに黙っていることはできなかったようだ」



 体を張って助けてくれたレイチェルに、少女は自分達がやろうとしていたことを恥じた。黙っていられなくなってヴァンジールに懺悔しにきたのだという。ヴァンジールは事情を他のパーティメンバーにも聞いて、事実だと判明したことで謹慎処分にした。



「喧嘩だけならばまだいい。けれど、命に関わることに関してはきっちりと罰を受けるべきだ」


「それは……」


「狐の獣人の君も、あまり酷いようなら忠告する予定だったよ。しかし、君は良い仲間に出会えた」



 仲間たちに感謝しなさいとヴァンジールは言って建物へと入っていった。話を聞いてレオナルドは「やはり一人で判断するのはよくないな」と呟く。



「一人で判断しないようにな、レイチェル」

「も、もちろんです! レオナルド様!」

「ツバキもちゃんと相談してくれ」

「わかったわ」



 ツバキとレイチェルが頷けば、レオナルドとイザークは安堵したように表情を緩ませる。



「ツインスネークを退治した後だ、疲れただろうから休もうか」

「イザーク、ならお茶がしたいわ」

「あー! なら良いお店知ってますよぉ」



 レイチェルが手を上げる。ツバキは「そこに行きましょうか」と返せば、彼女は「こっちですぅ」とレオナルドの腕に抱きついて案内を始めた。



「レイチェル、僕は逃げないから引っ張らないでくれ!」

「レオナルド様の足が遅いんですよぉ。こっちですわ〜」

「元気がいいわねぇ」

「そうだな」



 レイチェルに引っ張られていくレオナルドを眺めながら、ツバキとイザークは小さく笑った。



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