第42話
「刑事が俺に何の用です?こんな中学生を捕まえに来たんすか?」
「そんなんじゃねぇよ。お陰で鬼原の奴らを一網打尽に出来たしな」
「じゃあ何です?」
「いったいあの場で何が起きた?」
「何の事です?俺達はあの鬼原って人達に仲間をひどい目に遭わされたから助けに行っただけですよ……」
「いや、それはわかってんだけどよ、あの場に居たのは鬼原達だけだったんだよ。それで妙に思って調べたらお前さんに辿り着いた訳だ」
「え?それで……俺の仲間は……矢崎透さんや、林田兄弟とかは?」
「矢崎透か……なるほど……あいつが関わってたのか……それで合点がいった。おかしいと思ったんだよ。こんな中学生が鬼原達をあそこまで痛めつけられるはずがないもんな……最初はヤクザとの抗争でもあったのかと思ったんだが、いくら探ってもその線が出てこなくてな!」
「じゃあ透さんはどうなったのか分からないってことっすね?林田兄弟は?」
「林田兄弟?あぁ、双子の奴か?それならここに入院してるぜ。あいつらも可哀想になぁ、二人共重傷だ……そいつらもお前の仲間ってことか」
「透さんは?」
「入院してないってことは無事なんだろ?鬼原はある勢力に強い恨みがあったみたいでな、チンピラもお前らのような族も全て標的にして全国各地制圧に躍起になっていたのよ。その元の原因が鬼原の慕っていたリーダー格の遠藤って男がヤクザもんに鉄砲玉として殺されたってことだ。それで自分達の勢力を大きくして復讐に燃えてたってわけだ」
「けど、そんな事したら逆に敵が増えるだけじゃないですか?」
「ああいう異常者ってのはそうは思わないもんでよぉ、力で捻じ伏せて支配したつもりでいるおめでてぇ奴等なのよ」
天斗は改めて鬼原達を食い止めることが出来て良かったと感じる。
「ま、安心しろ!鬼原達は当分シャバには出てこれねぇからよ」
土方はそう言って布団の上から天斗の腹を叩いて出ていった。
この乱闘事件のニュースはこの界隈(かいわい)で瞬く間に拡がり大きな波紋を起こした。
たかが中学生が、恐怖の存在としてのさばっていた鬼原達を壊滅に追い込んだ事は、あまりにも現実離れし過ぎてにわかには信じがたいものであった。
その出来過ぎた話を信じる者は少なく、実は天斗にはバックにヤクザが付いているという根も葉も無い噂が立つ。
その一方で真実を知る者達の話で伝説の男として天斗を称える者も少なくない。
林田兄弟と言えば、再起不能と言われるまでの重度の後遺症が残るほどの怪我を負ったが、数カ月後リハビリで歩ける程度には回復を見せている。
そして天斗のチームは、事件以来ギクシャクした空気が生まれ各派閥の頭が一人、また一人と去って行き、結局残ったのは時田という巨漢の男ただ一人となった。
「天斗……立て直すにはあまりにも厳しい状況だな……」
「時田さん、ありがとうございました。俺は最初から総長なんて身の丈に合ってない器だったんです……なんかこれで俺も背負うものが無くなって軽くなった気がしますよ」
そう言って笑顔で最後の仲間を見送った。
この件に透と薫も眉をひそめる。
「ねぇ兄ちゃん、何で天斗がメンバーの為に一人で身体張ったのに皆見限って居なくなったの?」
「あぁ、それなぁ……」
透は少し遠くを見つめながら
「まぁこれはあくまで俺の推測だけどよぉ、あれだけの凶悪な敵相手にあいつ一人で立ち向かい、尚且つ行き過ぎた暴力で圧倒した強さが逆に恐怖心を与えてしまったんじゃねぇかなぁ。
それと、チームの中でもアイツは色んな意味で突出し過ぎてたからなぁ……メンバーからすりゃたかだか中学生にそれだけ負い目を感じさせられりゃあ複雑な思いが交錯するのもわからんでも無いぜ……」
「それ、兄ちゃんが言うかなぁ……」
「何でだよ」
「それは兄ちゃんの友達に聞いてみ?」
そんな天斗の心の傷が癒える間もなく、放課後学校の屋上で剛が
「なぁ天斗、俺をお前のチームに入れてくれよ!」
天斗はもはや存在しなくなったチームに興味は無く、素っ気ない返事で返す。
「剛……俺はもう族は止めたんだ……そもそも俺には人を束ねる器なんて持ち合わせてねぇからよ……」
「フンッ、お前もそこまでの男かよ……お前のチームのメンバーが何故みんな消えたのかわかった様な気がするぜ!」
「どういう意味だよ?」
「お前には求心力が足りねえんだよ!」
「求心力!?」
「あぁ、お前は確かにめちゃくちゃ強いし仲間想いな面も認めるよ。けどよ、お前は何でもかんでも自分一人で背負い過ぎなんだよ!カッコ付けすぎなんだよ!透さんの背中を追うのは良いけどよ、あの人は一匹狼だからそれでいいかもしんねーけどお前は仲間が居るんだよ!お前が仲間を助けたいと思う気持ちと同じ様に仲間もお前を助けてぇんだよ!お前にもっと頼って欲しいんだよ!信頼して欲しいんだよ!」
「…………剛」
「しけた面してんじゃねーよ!お前の本当の伝説はここから始まるんだよ!今日から新たなチーム名考えろ!お前が総長で俺は副総長だ!いいな?中学生が総長やって何が悪いんだよ!所詮実力主義の世界だろうが!お前を捨てて去っていったメンバー達をあっと驚かす様なすげぇチームにして見返してやろうぜ!」
「チーム名……剛……何がいいかな?」
「ヨシ!その意気だ!」
二人は無い知恵を振り絞って考えてみるがなかなか良い名前が浮かばない。
そこへ過去にボス猿決定戦でボス猿に君臨するも、剛に呆気なく負けた青木が現れた。
「黒崎、武田、何コソコソしてんだよ」
「あ?今新しい族のチーム名考えてたんだよ」
「何!?チーム名?何で?解散しちまったのか?」
「天斗が身を挺して仲間救ったのによ、みんな居なくなっちまったんだとよ」
「マジかよ~……なぁ、それよりお前ら外見てみろよ……」
青木があごで校門の方を指す。
二人が校門の方へ目をやると、そこには全く知らない他校の制服を来た集団が群がり、門を出ていく生徒一人一人を睨め付けている。
「何だよあれ、何しに来やがったんだ?」
剛が集団を睨みながら言った。
「そりゃ黒崎がド派手にやり合ったから一気に名が上がって潰しに来たんだろうが!」
「あぁ!?めんどくせー……俺はそういうのが大っ嫌いなんだよ!」
「そうは言ってもお前がどんなに逃げたって今や伝説のヤンキーと巷で噂になってんだから避けては通れないぜ!」
天斗、剛、青木は校門の方へ向かう。
校門で立ち塞がる面々は、通る生徒に睨み殺すような鋭い視線を浴びせている。
青木が開口一番に他校の集団に
「よう!お前ら何そんな恐ぇ顔して立ってんだよ?」
と、肩を怒らせて睨みながら言った。
「あぁ?お前誰だよ!」
「お前こそ誰だよ?俺はここのナンバー3の青木だよ!」
「はぁ!?三下かよ……てめぇには用はねぇよ!」
そこで剛が青木の肩を掴み下がらせ前に出た。
「じゃあ誰に用があって来たってんだよ?」
「黒崎だよ!」
「あぁ?天斗に何の用だよ!?」
「お前は誰だよ?」
「俺は副総長、武田剛!よく覚えとけ!」
そう名乗ると急に他校の集団の顔色が変わり態度が急変する。
「大変失礼しました。実は俺達、黒崎さんの傘下に入りたく遠路はるばるやってきました。どうか黒崎さんに会わせて下さい!」
と一斉にお辞儀をして頭を上げない。
青木が再び前に出て
「あぁ!?お前らウチのチームに入りてぇってのか!?」
剛が天斗の方を見て青木の発言に呆れた表情を浮かべる。
「う……ウチのチームって……」
青木は気まずそうに咳払いをして
「言ってもお前らみんな中坊だろうが!ガキには興味ねぇんだよ!」
「ガ……ガキって……お前も中坊だろ!?」
「るせぇ!ブッ殺すぞ!!!」
剛がまた青木の肩を掴み下がらせ
「まぁ良い……俺がその話しを受けよう」
天斗は急な展開に戸惑い口を挟む。
「おいおい……ちょっ……何でそんなこと勝手に……」
「良いからここは俺に任せろ!とりあえず仲間増やさんことには始まらねぇ!」
剛が天斗をいさめて
「お前らウチのチームに入りたきゃウチのルールをしっかり守れ!それが鉄の掟!いいな?」
「オスっ!!で……そのおきてってのは?」
「それは天斗から……」
急に振られた天斗が目をまん丸くして動揺する。
「え!?掟!?何だろ?」
その時不意に後ろから薫の声が
「世の中の秩序!!!」
天斗、剛、青木が一斉に振り返る。
「薫!!!」
「荒くれ者の集団じゃ無いんだ!世の中の秩序を乱す者を許さない!それがたった一つ絶対に破ってはいけない掟!!!」
他校生がいきなり割って入ってきた薫を見て
「お前……誰だよ?」
と、突如現れた謎の少女に興味津々な眼差しで見つめる。
青木がしゃしゃり出て薫の背中を押して
「お前ら聞いて驚け!この小さな少女こそがかの有名な矢崎透の妹、矢崎薫だぞ!」
「えぇぇぇぇぇ~!!!」
流石に薫の噂を知らぬモグリは居ないと見えて、全員が2歩3歩と後退りしている。
他校の集団の一人が言った。
「で……伝説のお二人が……こ……コラボしている……」
「伝説!?」
「伝説!?」
天斗と薫が声を揃えて驚いた。
青木が
「あれ?知らないの?巷では黒崎はあの鬼原とかいう奴らぶっ倒してから伝説の男って皆が口を揃えて恐れているし、矢崎に関しては矢崎透の妹というだけで無く、名実ともに伝説の女として噂が拡がってんだぜ!」
「ふ…ふーん……」
薫はそれを聞いてまんざらでも無さそうにニヤついている。
一方天斗は顔をしかめて面倒な事になったと言わんばかりの表情でうつ向いている。
「ほんとにこんな小さい女の娘が矢崎薫なのか!?」
「う……噂ではひでえ身体がデカくてブスでダンプと衝突したら逆にダンプが吹っ飛ばされるって聞いたぞ!?」
「俺も矢崎薫はキングコングのような女だと聞いていた!!!」
「こ……これは……正に伝説の美少女じゃねぇか!!!」
他校の生徒らが口を揃えて言ったのを聞いて薫は
「お前ら!私の舎弟にしてやる!」
と調子に乗って口が滑ってしまった。
「はい!!!舎弟兼ファンクラブ会員にしてください!」
「俺も!」
「俺もお願いしゃす!」
薫の周りに他校生徒の集団が群がっているのを見て青木が
「お前ら……黒崎の傘下に入るんじゃなかったのかよ……」
間の抜けた表情で見つめている。
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