第41話
「おい、お前らこいつを抑えろ!」
鬼原が仲間に指示したが、男達は天斗に恐怖しなかなか近づく事が出来ない。
天斗がゆっくり鬼原に近付く。
「おい!お前ら!」
その声に3人は慌てて天斗を取り抑えようと両サイドと後ろから掴みかかる。
天斗は先に右から来た男の腕を取り、思いっきり引いて反対側の男にぶつけて重なった二人を蹴り飛ばす。
そして後ろから羽交い締めにかかってきた男の方へ振り向き手を払いのけた瞬間、背後から天斗の首に鬼原の回し蹴り!!!
“ガッ”
天斗は不意をつかれぶっ飛んで倒れた。
鬼原はその隙を見逃さず馬乗りになって顔面を殴り続ける。
“ガッ、ゴッ、ボコッ、ゴッ、ゴッ、バキッ”
「クソガキィー!死ねや!」
天斗の顔が見る見る血まみれになっていくが、相変わらず不気味なほどの無表情が返って鬼原の目には恐ろしく映る。。
「ハァ、ハァ……いい加減くたばりやがれ!!!」
鬼原が大きく振りかぶり渾身の一撃を振るおうとしたとき、天斗がその拳を左掌で受け止め固く握り潰す。
“ミシミシ”
人とは思えない程の握力で握りつぶされる力に鬼原は悶絶する。
「うがぁ……」
こめかみから汗が流れ落ち、腕がしびれて力が入らない。
天斗はマウント状態からゆっくり起き上がり、反対の拳で鬼原の顔を殴りのけぞらせ、更に胸の辺りを蹴り飛ばした。
お互い立ってしばらく睨み合いが続いたが、先に動き出したのは鬼原だった。
鬼原は回し蹴りからの後ろ回し蹴り、大きく振りかぶって右フック、左アッパー、前蹴り、更に飛び膝と、怒とうの連続攻撃を繰り出す。
“ドッ、ガッ、バコッ、ゴッ、ドッ、ドスッ”
鬼原の攻撃全てクリーンヒットするも、天斗は表情一つ変えずに受け続けた。
「この野郎……どんだげタフなんだよ!」
やがて天斗の目つきは完全に座り、ニヤリと不気味な笑みを浮かべフッと鬼原の視界から消えたと思った瞬間、背後に回り込んだ天斗の左足が死角から現れ首を捉えていた。
“ガッ”
鬼原は後ろへのけ反る様に天斗に体重をかけられるが、踏ん張ってそれを返そうとする。
しかし、今度は右膝が鬼原の背骨を打ち、ブリッジ状態で脳天を地面に強打した。
更に天斗は左足で鬼原の首を抑えたまま、右足を高く振り上げてみぞおちにカカトを思いっきり振り下ろした。
「ぐはぁ~……」
その強烈な痛みと同時に襲う苦しさに鬼原の身体がビクッと跳ね上がる。
天斗は立ち上がり鬼原を見下ろしている。
「クソ……ガキが……」
鬼原もみぞおちを手で押さえながら何とか立ち上がった。
鬼原の仲間達は天斗の中学生離れした異常な強さに恐怖に満ちた視線を送っている。
「マジ……かよ……」
「鬼原さんが……まさかこんなガキに……」
天斗はゆっくりと詰め寄り、鬼原は無意識に後ずさる。
クソ……俺がこんなガキに手も足も出ないなんてことがあるのかよ……
いったい何なんだよこいつ……
鬼原は生まれて初めて死というものに対しての恐怖感を感じていた。
一方天斗は血に飢えた虎の様な不気味な眼光で鬼原を見据えながら詰め寄る。
「クソ……完全に正気を失ってやがる……」
鬼原は全身から汗が吹き出し、自分ではどうすることも出来ないほど手も足も震えている。
壁際まで追い詰められた鬼原は前蹴りを繰り出すが、天斗はスルリと横へかわしざま鬼原の足首を掴んで引き、伸び切った膝に自分の膝を乗せ、足首を思いっきり上に持ち上げながら膝に体重をかけて膝関節を曲がってはいけない方向に曲げた!
“グキリッ”
「うおあぁぁぁぁぁぁぁ~……」
「おい、こいつマジでヤベェぞ……」
「あぁ……このままだと鬼原さんが……殺されちまう……」
鬼原の仲間達は天斗を止めたいが、無言、無表情な姿が返って恐怖心をあおり近寄ることさえ出来ない。
倒れ苦しむ鬼原の首を後ろからヘッドロックの体勢に入り容赦無く締め上げ始めた。
“ギチギチギチ”
鬼原の目は力無く白目をむき、口からよだれを垂れ流している。
「天斗!もう止めて!!!その人が死んじゃう」
薫……何を言ってるんだ……
「天斗!目を覚まして!!!」
薫?
「天斗!!!お願い!!!目を覚まして!!!ほんとに人殺しになっちゃうよ!!!」
“パァン”
薫は思いっきり天斗の頬を引っぱたいた。
「正気を取り戻してよ……その人ほんとに死んじゃうよ……」
「え……薫?」
ふと我に返った天斗の目の前には鬼原の首を締めている天斗の腕を必死に引きはがそうとする薫の姿があった。
「薫…………」
天斗は腕を離して茫然と立ち尽くす。
「天斗……どうしてこんなことしちゃったの……やり過ぎだよ……みんな重傷じゃん……」
天斗が辺りを見回すと、あちこちに腕や足の関節があらぬ方向に曲がっている者や、頭から血を流して倒れている者が沢山居ることに気付き背筋に戦慄が走った。
これは……いったい……
「あっ!透さん!?」
天斗が透の姿を探すと、そこには薫だけでは無く、天斗のチームの仲間達と剛が集まっていて、透の手当をする仲間の姿が目に映った。
「天斗……これ……もしかしてお前がやったのか?」
「剛……」
「まさかとは思うが……本当にお前がやったのか?」
「わからない……途中から完全に記憶が飛んで……透さんが誰かに殴られて……それで急に……何も覚えていない……」
さすがにこの修羅場と化した状況に、チームのメンバー達も戦慄を覚えた。
天斗がふと石田のことを思い出し見回すと、近くにまだ意識を失っている石田の姿があった。
「石田……」
その瞬間、天斗は自分のあばらに激痛を感じ、更に首や足にも悲鳴を上げたくなる程の痛みが走り身体全体が震えだし力無くその場に崩れ落ちた。
「天斗!」
薫は天斗を支え強く抱きしめながら泣いている。
「薫……」
すまない……俺は……俺は……
取り返しの付かないことをしてしまったのか……
「天斗……無事で良かった……」
「薫……多分無事では無いと思う……全身がしびれて自分の身体じゃないみたいだ……どこがどう痛いのかもわからないぐらい痛い……」
「でも生きてる……兄ちゃんも今回ばかりは相手が悪いって言ってた……だから凄く不安だった……」
「薫……」
お前は今でも俺のことそんなに心配してくれるんだな……
ありがとう……
でも……
ほんとにこのまま死んでしまうかもしれない……
もう……
目を開けてられないよ……
「天斗~~~~~!!!!!」
「天斗!?おい天斗!?薫!急いで救急車呼ぼう!」
薫は動揺しスマホを持つ手が震えている。
剛が自分のスマホを取り出しすぐに救急車を呼んで到着を待っている。
天斗のチームのメンバー達は、まるで地獄絵図の様な状況に、ある複雑な思いが交錯する。
天斗が意識を取り戻したのはそれから2日後だった。
目を開けるとぼんやりとした視界には真っ白な天井らしき光景……
まだ残る全身の痛みに表情が歪む。
病院のベッドの上で顔は包帯でグルグル巻にされて寝かされていた。
透さんは……どうなったんだろう……
病室の中を見回すが他に見知った顔は無い。
そこへ廊下を通り過ぎる看護師さんが部屋の様子を覗き、天斗が目を覚ましていることに気付き近寄ってきた。
「黒崎君!目が覚めたようね。全然意識が戻らなかったから心配してたのよ!先生はしばらく動けないだろうから絶対安静にって」
言われるまでもなく身体が全然言うことを聞かない。全身しびれて身体中の筋肉組織が悲鳴を上げているようだ。
あのとき、薫に殴られて意識が戻り、辺りを見回した時の光景は今でも鮮明に覚えている。
絶対に敗北を喫する訳には行かなかったが、怒りに呑まれ行き過ぎた暴力を行使してしまった事は決して誉められたことではない。
それは天斗自身深く反省している。
しかし、鬼原との闘いに於いては全く記憶が無く、気付けば自分以外に鬼原をあそこまで追い詰めることが出来た者が他に居なかったから自分が倒したのだと自覚せざるを得ない状況だった……
それは正にまぐれ勝ちというだけで、決して自分の力量が鬼原を上回った訳では無い。
まともにやり合っても次に勝てる確率などゼロに等しい。
よほど無意識に無理な闘い方をしたに違いない。
「あの……矢崎透さんは……ここに来てないですか?」
「矢崎透さん?さぁ、多分ここには運ばれて来ては居ないと思うんだけど……だって、君がここに救急搬送されてきた日はものすごく沢山大怪我した人が居てね、ウチの病院だけでは足りなくて、あちこちの病院に手配して搬送される大変な日だったのよ……だから、もしかしたら他の病院に送られてる可能性はあるかもしれないわね!」
「そう……ですか……」
「黒崎君……もしかして喧嘩に巻き込まれてこんな大怪我を?」
「え……まぁ……」
それから一時間が過ぎ、天斗の病室にいかつい顔をした男が現れた。
男は眼光が鋭く、背広の上からでも伺い知れる鍛え抜かれたガッシリとした体格で、髪型はスポーツ刈りとテレビでよく見るいかにも刑事といった風貌である。
「おぉ、少年!ようやく目が覚めたようだな」
強面の男はニヤリと笑いながら太い声で話しかけてきた。
「少年!お前、随分と派手にやらかしてくれたな!ガハハハハハ……」
男は天斗の枕元で豪快に笑いながらも、目だけは座っている。
「少年!お前がぶっ倒した相手が誰だか知ってるか?」
「さぁ……」
「お前は随分と厄介な集団を壊滅に追い込んだよんだよ!全く信じられないぜ!」
「そうなんですか……」
「そうなんですかじゃねーよ!奴らはな、ヤクザですら避けて通る実に面倒な相手でな、世の中のルールの枠から大きく外れた荒くれ者達よ」
「それってヤクザと変わらないじゃないですか……」
「バカ、ヤクザにはヤクザのルールがあり、一応建前上は社会のルールにのっとって生活してるだけまだ大人しいもんよ。だが、奴らは完全なる無法者集団!働きもせず略奪、暴行の限りを尽くす。警察も黙って野放しにしてたわけじゃ無いが、なかなか奴らを追うのに骨が折れてな……」
やはり警察か……
「おぉ、名乗るのが遅れたな、俺は刑事の土方だ」
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