第12話
サントラ大尉が赤チャンネルで指令を飛ばした一方、クロイスンはといえば、
「フォックス中尉! 待ってください! 命令はその場で待機と!」
「待てるか! 手柄を立てるチャンスだぞ! それに、どうせ森を抜けてくるやつなどいない!」
「フォックス中尉!」
クロイスンが止めるのも虚しく、フォックス中尉は一人森へと突入していく。
上官の命令は絶対遵守。違反すれば銃殺も免れない……だが、報告せざるを得ず、クロイスンはマリンシーバーへと手を伸ばす。
「ティリー大尉! フォックス中尉が森へ突入しました!」
『なに……いや、問題なかろう。フォックス中尉も貴族だ。武勲を立てたい気持ちも理解できる……フォックス中尉、いくからには手柄を立てろよ』
『了解!』
ティリー大尉は咎めるどころか、背中を押す始末。
軍には、たまに貴族であるが故に奢る人間がいる……おそらく、本作戦の総司令官である大佐にならバレても問題ないと思っているのだろう。
……もしかしたら、白部隊に二人も貴族が混じっていたのは、 貴族として国に貢献したというアピールのためか。
司令部にも、作戦には参加させるが、後方の安全な場所にいてほしいという意図があったのかも知れない。
ともすれば、ティリー大尉とフォックス中尉は、この編隊を組んだ大佐と懇意にしている可能性すらある。
「………まあ、大丈夫か」
クロイスンは焦るどころか、むしろ冷ややかな視線を、森へと消えていくフォックス中尉の背中へと向けていた。
当然ながら、戦術的には全くよろしくない。
このままフォックス中尉が直進すれば、おそらく黒、赤部隊と合流することになるだろう。
連携の取れない不純物が一人混ざるだけでも、兵士達は非常に動きづらくなる。
では何が大丈夫なのか―――。
『こちら赤! 敵は何かしらの固有魔法を使っている! 突如現れては消える! まるで蜃気楼だ!』
時折送られてくる、サントラ大尉からの情報によれば、どうやら、ゲリラ的な立ち回りに苦戦しているようで、なかなか敵を捉えられずにいるようだった。
『緊急時により失礼! 森から魔族が出現! 司令部を囲もうと動いている様子です! それも奴ら全員、銃を持っています!』
一方で、唐突に、共通チャンネルからエリア中尉の焦る声が聞こえてくる。
『馬鹿な、黒部隊の穴から抜けたにしては早すぎる!』
『わかりません! しかし、南東の敵はおそらく陽動かと!』
『包囲に気づかれていたか! くそっ………司令部はこれより撤退する!』
『大佐!? それでは通信制御装置が壊されます!』
『うるさい、命令に従え! 私が死んでは作戦もなにもない! 作戦は続行! 異論は許さん! 白部隊は全員、司令部の敵を―――どがんっ!』
状況的にもはや作戦は崩壊しているのに対し、愚かにも諦めようとしない大佐だが、銃声が鳴ると同時、突如、共通チャンネルのから声が聞こえなくなった。
おそらく、魔族の弾が司令部に置かれた、マリンシーバーの通信中央装置に命中したのだろうが……。
(森から司令部はさすがに距離があるはず……偶々あたったか?)
―――違和感を覚えるクロイスンだったが、どうあれ、もはやマリンシーバーは使えない。
つまり、軍は連携を取れなくなった。
「命令違反は銃殺、だったな」
共通チャンネルで、中途半端とはいえ、たしかに白部隊に命令が出されていた。
ならばそれに従わなければならないと、クロイスンは司令部へと駆けだす。
……魔族の装備はボルトアクション式のみとはいえ、司令部の兵士は少ない。数の暴力で押し切られることは明らかだろう。
クロイスンが司令部に辿り着くまで、急いでもおよそ10分はかかる。
「……まあ、間に合わないよな」
無感情にぼやくクロイスンだったが、その足を止めることはなかった。
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