第6話

 一週間後。


 首都東門にある駅のホームに、100人程度の軍服を着た集団が列をなして並んでいた。

 それぞれ肩に連写式魔力銃(サブマシンガン)を抱え、日差し除けのためのベレー帽をかぶっている。

 この規模の人数がいるにもかかわらず、騒めきは一切なく、全員が一つの方向へと注目していた。


「ジジールニール大佐のお言葉である! 各位、傾聴ー!」


 注目の先、彼らと対面するようにしていた男が後ろ手に手を組んで、そう叫ぶ。


 直後、その斜め後ろに立っていた、脂肪の塊を腹に抱えた中年の男、ジジールニール大佐が「こほん」と喉を鳴らす。


「諸君! まずは諸君らと本作戦を共にできることを嬉しく思う!」


 彼は兵士を見渡し、息を大きく吸い込んで、続ける。


「此度の作戦では地方都市の要請により『魔物』の駆除を行う! 敵は魔物である! 繰り返す、敵は魔物である! 肝に銘じ、作戦に臨むことを期待する!」


 教国において、解釈によっては魔族は魔物と定義されることがある。

 今回の作戦の目的は、魔族の虐殺。ジジールニール大佐は、兵士の罪悪感を消すためかはわからないが、そう念押ししていた。


「魔物に言葉は通じない! 殺さなければ殺される! 誰一人欠けることなく作戦が達成されることを私は望む! 主のご加護が諸君らにあらんことを!」


「「「「「「「はっ!!!!!」」」」」」」


 ジジールニール大佐の激励が終わると同時、打ち合わせたように敬礼を向ける兵隊達。


「………」


 ――――その中の一人であるクロイスンは、それを冷めた目で見つめていた。


 大佐が先に列車に乗り込むと、その下にいた男が、


「それでは各位、規定の列車に乗り込むように」


 そう言い残し、続いて列車へと乗り込んだ。


(とりあえず、自分の隊に合流するか)


 クロイスンは切り替えるように頭を振ると、周囲を見渡した。

 それぞれ示し合わせたようにから15人から20人程度の集まりができ始めており、おそらくあれらは同じ隊の人間なのだろう。


「君、もしかして訓練兵?」


 タイミングを見ていたかのように、クロイスンの隣にいた少女が話しかけてきた。

 金髪紅眼の少女で、年は同じくらいだろうか。

 首元には中尉であることを表すバッヂがつけられていた。


「確かに自分は訓練兵ですが……」


 クロイスンはちらりと少女の左腕の二の腕を見る。

 ……そこには、白の腕章がまかれていた。


 隊を色で分けることは、教国においては基本である。

 彼女は白の部隊ということだろう。


「なるほど、同じ隊の方でしたか」


 クロイスンも、同じ白の、後方支援の部隊だった。


「私は先輩だからね。色々教えてあげる―――ほら、あっち」

「ありがとうございます」


 少女が指さす方向には、3人の男がいた。

 キツネ顔の男、背の高い男、さらには髭の男だった。

 全員、同じ白の腕章を二の腕に引っ提げている。


(ん………?)


 その中で一人、見覚えのある人物がいた。

 髭の男、首元のバッジはこの中で一番階級の高い大尉。

 彼だけ白の腕章に星がついているから、おそらく白の部隊の隊長だろう。


「遅いぞ、エリア中尉」


 クロイスン達が3人の下へ歩いていくと、その男は高圧的に声をかけてくる。

 ―――大尉は、一週間前、クロイスンが魔族の少女を買い取った紳士服の男だった。


「すみませーん。でも、この子が迷子にならないようにと思って」

「なるほど? そいつが例の訓練兵か。チッ」


 大尉は嫌悪感を隠そうともせず、続ける。


「子供の世話など――――ん? 貴様はどこかで……」


 大尉ははクロイスンのほうを見ると、目を細めた。

 何かを言われる前に、クロイスンは敬礼を向け、口を開く。


「『お初にお目にかかります』。自分はクロイスン訓練兵であります。此度の作戦では一時的に二等兵の階級を与えられております」

「……そうか、精々足を引っ張ることのないように励みたまえ」

「はっ!」


 隊長の男が「さっさと乗るぞ」と、一人列車へと乗り込んでいくと、他の二人の男もクロイスンを睨むように一瞥し、「ふん」と鼻を鳴らして列車へと乗り込んだ。


 どうやら、白の部隊は合計で5人らしい。100人に対してこの人数は流石に少ないと言える。

 今回の作戦において、後方支援は重要視されていないということだろう。


「ほら、いこ、クロイスン君?」

「はい」

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