第16話 王都へ向かう
「オーギュスト様、準備が整いました。」
パオロが呼びに来てくれる。すでにハシンタからもカトリナ嬢の準備が出来ているとの旨の報告を受けている。
「それじゃあ、気乗りはしないけど行こうか。」
王城の夜会に出席するためにバチェフ侯爵領領都ハックルムに向かってクレメントおじさんとゴットフリート伯爵と合流後、王都トナケートへと向かう。道中はしっかりと宿泊施設を予約している。他の貴族の世話になりたくないからね。
おじさんとゴットフリート伯爵は付き合いの関係上、その領地の貴族の館に泊まることになる。カトリナ嬢?勿論、僕と一緒だよ。修練中だからね。座学で詰め込むだけ詰め込むよ。
「いやあ、カトリナ嬢、調子はどうかな?」
「・・・今から馬車で休めると思うとサイコーですわ。」
「残念!!座学があるからね。往路も復路もしっかりと詰め込もうね。」
そう言うとガックリと頭を垂れる。僕はそんなカトリナ嬢を見て微笑みながら先日買った芦毛の2頭の馬、ロイドとカリスに声をかける。
「今日からよろしく頼むよ。」
“任せて。”
“魔物なんて敵じゃないしな。”
そうなんだよね。元近衛騎士のパオロと一緒に2頭で遠乗りしたら、自分たちより体高の低いゴブリンなんかを普通に踏みつぶし、後ろから跳びかかるウルフ系は足蹴にするし、重量級のオークも体当たりで吹っ飛ばすとかなりの活躍をしてくれた。でも、鑑定しても種族は“馬”なんだよねぇ。
そんな2頭を撫でているとパオロが出発の準備が出来たと報告してくれる。御者はパオロに任せて、僕とメイドのハシンタはカトリナ嬢と一緒に馬車に乗る。馬車が動き出すと同時に僕はカトリナ嬢の座学を始める。
昼頃にクレメントおじさんの屋敷に着いた時には、カトリナ嬢は口から魂が抜けているような状態だった。昼食時もそんな感じだったからクレメントおじさんは苦笑いして侯爵夫人のヘルミーナさんとゴットフリート伯爵夫妻は心配していたけど、僕が理由を話したらクレメントおじさんは大笑いし、ヘルミーナさんと伯爵夫妻は深く溜め息をついた。そして、昼食後にようやくカトリナ嬢は正気に戻ったよ。
「はあ、でけぇ馬に馬車だなぁ。いつもの魔法を使ったのか?」
「そうだよ。おかげでいい馬車と馬が手に入ったよ。馬の名前はこっちがロイドでこっちがカリスだよ。賢い
「こんな立派な図体の馬に喧嘩を売る馬鹿何ていねぇよ。なにを食わせている?」
「草食だからね。
「ほう、そうか。うちにも欲しいな。」
「馬車用?」
「いや、騎兵隊用にだな。選抜した連中にやってもよいかもしれんと思ってな。」
「まあ、威圧感はあるよね。でも、ダメ。」
「だよなぁ。後が続かんしな。よし、諦めた。んじゃ、王都に向かうか。オーギュストの馬車が先頭な。」
「はいはい。露払いは引き受けますよ。」
そう言って僕は馬車に戻る。露払いを引き受けたのですぐに出発する。クレメントおじさんの馬車を挟むようにゴットフリート伯爵の馬車と護衛の騎士たちが後衛につく。護衛の騎士の人数はクレメントおじさんが出しただけでも50はいるから襲ってくる賊はいないと思うんだけど、魔物にはそんなの通用しないからね。獲物が沢山来たとしか思われないよ。
というわけで、僕の馬車の秘密の仕掛けを展開していく。銃のある世界の馬車だから、防御性能は勿論だけど、攻撃用の仕掛けがあるんだよね。銃眼というのがあってそこから銃身を出して攻撃をするんだ。前後左右、斜めの8カ所にあるよ。僕はそこに鉄の筒を置いていく。
「それは何ですの?」
カトリナ嬢がきいてくる。
「んー、簡単に言うと魔力を収束させて魔法に指向性を持たせるモノかな。この筒の先から攻撃魔法を放つと意識して魔法を使用すると、魔力が周囲に散らなくなるんだよ。」
「それは、なぜですの?」
「さっきもいったように指向性だね。通常の魔法。例えばファイヤーボールとかは僕みたいに熟達した魔法使いが使えば、目標に当たるまでに散ってしまう魔力が少ないんだけど、慣れていない人だと目に入る周囲の景色に無意識下で気をとられて、目標に当たるまでに魔力が散って発射した時よりも威力が落ちてしまうんだよ。それを強制的に無くすのがこの筒さ。覗いてごらん。」
「筒の中にガラスが仕込んでありますのね。それに十字の模様が描かれていますわ。」
「そう。その十字の交わるところに目標を捉えて筒の先端から攻撃魔法を放つのさ。これなら無意識下でも余計なモノに目を奪われる率が低くなるからね。」
「ということは、これは
「そうだよ?僕には必要ないからね。それに道中で何にも襲われなければ無用の長物さ。ちなみに名前はそのまんまで“収束筒”だよ」
「・・・小休止の時に試させてもらっても構いませんの?」
「もちろん。意欲的なのはいいことだよ。じゃあ、勉強の続きだよ。」
そう言うとカトリナ嬢の顔から表情が消えた。そんなに嫌かー。
宿泊予定の町まであと3分の1というところで小休止をとる。早速、カトリナ嬢は収束筒を試すみたいだ。用意をしているとみんなが集まってくる。暴発の危険はないだろうけど少し僕の馬車から距離をとってもらう。
「放ちます。」
馬車の中からカトリナ嬢の声が聞こえて、一拍置いて収束筒の射線上にあった木が吹き飛ぶ。おお、凄いね。成功だ。
「カトリナ嬢、今のはウィンドアローかな?」
「い、いえ違いますわ。ウィンドボールですわ。」
「ほう、ボールであれだけの威力になったかあ。凄いね。」
ちなみにパオロとハシンタ以外の人は口をあんぐりと開けて驚いている。女性陣は流石に口を覆っているけどね。
「・・・おい、ありゃあ、魔道具か?」
クレメントおじさんが尋ねてきたのでカトリナ嬢にした説明と同じことをする。他のみんなも聞き耳を立てているみたいだね。んで、全部を聞いたおじさんが言う。
「そんな話しは初めて聞いたぞ。お前、論文かなんかにしていたか?」
「しているわけないじゃない。めんどくさい。」
「他の家の奴らには絶対に教えるな。いいな。」
「はいはい。」
「オーギュストだけではない。今の話しを聞いていた者もだ!!よいな!!」
「「「はい、閣下!!」」」
使用人から騎士にいたるまでが礼をする。それを見て満足げに頷いたクレメントおじさんがポツリとこぼす。
「・・・ったく。戦場が変わるぞ、ありゃあ。」
僕も同感。まあ、戦場に出たことはないんだけどね。ああ、でも人は殺したことがあるよ。冒険者業で賊を数十人ね。そういえば、罪悪感なんて無かったなぁ。そんなことを考えていると周囲は小休止が終わり、出発の準備に入っていた。僕はすぐに馬車に乗り込み、背もたれに全体重を預けてリラックスする。
宿泊予定の町につくとユベール家のみんなとカトリナ嬢はお高い宿に泊まる。ああ、カトリナ嬢とはもちろん別室だよ。僕は部屋で収束筒に改造を施している。見た目はアサルトライフルみたいな感じにして引き鉄もつける。その引き鉄を起点にして魔法が発動するようにしてみたんだよね。これなら、詠唱をする人も無詠唱で使えるようになるはず。まあ、世間には公表しないけどね。
さて、物騒なモノは収納魔法にしまいこんで、寝ようか。王都に着くまでは今日みたいな感じだろうなあ。
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