第391話 皇子様の従兄妹

 



「 アルベルトお従兄妹様ぁ 」

 執務室で、公務中のアルベルトは見ていた書類を文机の上に置いた。


 グランデルから来た3人は母親の母国語であるシルフィード語を話せる。

 5ヶ国語が話せるアルベルトはグランデル語も話せるのであった。



「 お早う、昨夜はよく眠れた? 疲れてない? 」

 美しい顔が柔らかく微笑んで、自分を気遣う優しい言葉を掛けられてリズベットは赤くなる。


「 宮殿の案内をして欲しいの 」

「 そうだね……クラウド! 今は大丈夫か? 」

「 はい、少しなら構いません 」


 書類を丁寧に片付けて、アルベルトは席を立った。

 アルベルトは整理整頓は自分でする皇子。


 あら?

 お従兄妹様はきちんと片付けるのだわ。

 こんな事は側近がすべきよ!

 片付けなんかした事の無いリズベットはクラウドをキッと睨んだ。


「 ? 」


 アルベルトは上衣を女官長に着せて貰うと、リズベットに手を差し出した。

「 では、ご案内しましょうか……リズベット王女様 」

「 リズと呼び捨てで呼んでも良いわよ! 私達は従兄妹なんだから 」

 リズベットはそう言ってアルベルトの掌に手を乗せた。


「 では、リズ……行きましょう 」

 アルベルトはクスリと笑って、リズベットをエスコートしながら歩きだした。



「 この皇太子宮から案内して欲しいわ 」

「 ここはもうすぐ改装に入る予定だ。リズの滞在する皇宮を案内するよ 」


 ええ~!?

 宮殿は昨日お兄様と一緒に案内して貰ったし、侍女を呼べば何でもしてくれるんだから宮殿なんか覚える必要は無いんだけど……

 アルベルトお従兄妹の住む皇太子宮を案内して欲しかったのに。



 ちょっと剥れていると……

「 宮殿の案内はして貰った様だね、では母上自慢の庭園を案内するよ 」

「 はい!嬉しいわ 」


 あら?

 何で宮殿を案内して貰った事が分かったのかしら?


 アルベルトはある程度の人の心を読める。

 顔に出やすいリズベットの考えている事なんかは、何となく分かるのであった。



「 叔母上はどう? 体調を壊してない? 」

「 お母様は今朝から腰が痛いって、ベッドから起き上がれないのよ 」

「 長旅だったからね。身体を厭わないと……リズは元気だね 」

「 わたくしは若いですもの 」

 ハハハハと2人の笑い声が、宮殿を明るくする。


 2人の後ろを歩くリズベットの侍女達も、警備員や、通り過ぎるスタッフ達の皆が2人を微笑ましく思うのだった。


 可愛らしい従兄妹の王女様を連れて……

 皇子様が嬉しそうだ。




 ***




「 素敵だわ 」

「 王女様、お顔が赤いですよ 」

「 だって! アルベルトお従兄妹といるとドキドキするんですもの 」


 散歩が終わり部屋まで送って貰ったリズベットは、侍女から出されたおやつを食べながら、アルベルトの大人な所作を思い出してうっとりとしていた。


 学園に入学前であり、デビュタントもまだの箱入り王女のリズベットは、父と兄と護衛騎士としか親密には関わった事が無かった。



 お話上手で……声も素敵で……

 何時も私を優しい眼差しで見てくれるのよ。



「 グランデルでも毎朝お庭をお散歩してると言ったら、アルベルトお従兄妹が毎朝お庭に一緒に行こうって仰ってくれたの 」

「 ? 王女様はお散歩なんかされてませんよね? 」

「 それは……嘘も方便って言うじゃない? アルベルトお従兄妹と親密になるチャンスだわ 」


 リズベットはまだ14歳。

 可愛らしい様相とは裏腹にしたたかな女だった。




 ***




「 アルベルトお従兄妹様ぁ! 今日は街に行きたいわ 」


 それからもリズベットは、毎朝の散歩だけでは無くしょっちゅうアルベルトの執務室にやって来ていた。


「 そうだな、毎日退屈だろうしな……クラウド! 調節出来るか? 」

「 昼からなら大丈夫です 」

 朝は今日中に決済しなければならない案件がありますからねと、クラウドは書類の束をアルベルトの文机の上に置いた。


「 じゃあ、リズ! 昼過ぎに迎えに行こう 」


 え~!!

 今行きたいのに。

 クラウドは意地悪だわ。


「 嬉しいわ。お洒落して待ってるわ 」

 リズベットは部屋の外で待機している侍女と執務室を後にした。




「 えっ!? ……この馬車で行きますの? 」

 リズベットはちらりと皇太子殿下専用馬車を見た。


「 あの素敵な白い馬車に乗りたいわ 」

「 あの馬車は私と妃しか乗れない馬車なんだ 」

「 まあ!? グランデルにはそんなしきたりはありませんわ! どうしても駄目ですか? 」


 乗ってみたいの~と、必殺技の上目遣い攻撃をする。

 お父様もお兄様もこれをしたら、絶対にわたくしのお願いを聞いてくれるんだから。


 アルベルトはニッコリと美しく微笑みながら、リズベットの手を取って馬車に乗せた。

 皇室の馬車に。


 アルベルトは前の馬車に乗り、騎士団に囲まれて2台の馬車が動き出した。



「 わたくしとアルベルトお従兄妹様が同じ馬車に乗って、お前たちがもう1台の馬車に乗ると思っていたわ 」

 ……と、リズベットは頬を膨らませる。


「 どうして一緒の馬車に乗らないのかしら? 」

「 それは……女性と2人っきりにはなれないからですよ。良かったですね。皇太子殿下は王女様を1人の女性として見てくれているのですわ 」

「 まあ! そうなの? 」

 リズベットは両手の指を胸の前で組んで頬を赤らめた。


 1人の女性……

 背伸びをしたい年頃の娘には甘美な響きであった。




 街と言っても、ホテルにある皇室御用達の店は、リズベットには早すぎる店である事から、皇都の街の個人店に行く事になっていた。


 14歳の女子の好きそうな雑貨屋さんと、ジェラードの店はレティの行き付けの店。



 皇子と王女が訪れるのである。

 広範囲を通行止めにして、雑貨屋とジェラードの店は急遽貸し切りになった。


 馬車から降りると、手を差し出して皇子様は王女様をエスコートする。


 皇子様だけでも見掛ける事は珍しい事なのに、グランデルの王女様も一緒だ。

 遠巻きに2人を見ている群衆から歓声が上がる。



「 お従兄妹様! これも良いですか? 」

「 ああ、好きな物を買いなさい 」

「 お母様のお土産も買っても良い? 」

 目をキラキラと輝かせて、縫いぐるみとハンカチを買って貰った可愛らしい王女だった。



 そして……

 ジェラード店では初夏の特製スイーツを2人で食べる。


「 美味しいですわ! こんな店で食べるなんて初めて! 」

 そう、王女は14歳。

 学園に入学する前は、貴族の子供達は家で過ごす事が常である。

 王族なら尚更だ。



 恋人同士の様にテーブルに向かい合って座る楽しげな皇子と王女の姿がそこにあった。




 ***



 

「 王女様? この縫いぐるみは何処に置きますか? 」

「 袋に詰めておいて! 」

「 えっ!? 皇太子殿下が買って下さったのに? 」

「 わたくしを子供扱いしてるんだわ 」


 1人の女性として見てくれていると思ったリズベットは、連れて行かれたファンシーな雑貨店にガッカリして、ベッドの枕に顔を埋めた。

 ジェラードの店は美味しかったけれども……



 次は絶対にドレスか宝石を買って貰いたいわ!

 アルベルトお従兄妹様の瞳の色であるアイスブルーの宝石を。


 自分の瞳の色の宝石を贈るのは愛情の印。




「 アルベルトお従兄妹様! わたくしを宝石店に連れて行って! 」

「 君にはまだ早いんじゃない? 」

「 お姉様達にお土産を買いたいの 」

「 ああ……それなら案内をしよう 」



 その日は馬車でホテルの皇室御用達の店に行った。


「 いらっしゃいませ 」

 支店長達は……

 お口にチャック。

 おべっかもお世辞も……

 余計な事は一切合切喋りません!


 支店長を始めスタッフ達も、ニコニコ微笑みながら2人を見ている。



「 私が彼女達のお土産を買ってあげるよ 」

「 本当に? 嬉しいわ 」


 リズベットは興奮していた。

 自分で宝石を選ぶなんて初めてだった。

 まだ、舞踏会にも出た事が無いので宝石も身に着けた事は無い。


 お友達は皆宝石を着けてお茶会に来るのに、お母様はまだ早いって言って宝石を買って下さらないんだもの。


 リズベットは嫁いだ姉と王太子妃のネックレスを選んだ。

 ダイヤのネックレスで、値札の無い店だからお値段は分からない。

 王女だからそれを気にする事もないが……



 リズベットはショーケースの中を熱心に見ているアルベルトに気が付いた。

 支店長が熱心に説明をしている。


 何を見ているのかしら?と、こっそりと見る。


 アルベルトの見ているそれは……

 アイスブルーの宝石とバイオレットの宝石とパールが鏤められた豪華なネックレス。



 素敵!

 なんて綺麗で豪華なネックレス……

 アルベルトお従兄妹様の瞳の色の宝石。


 もしかして……

 わたくしへのプレゼントかしら?

 わたくしのお誕生日はもうすぐだから……


 リズベットは……

 そのネックレスをこっそりとオーダーしているアルベルトに気付かない振りをした。



『1人の女性として見てくれている』

 リズベットは胸がドキドキと高鳴るのであった。




 ***




 アルベルト皇太子殿下とリズベット王女が2人でいる所が色んな所で多く目撃される様になった。


 宮殿の堀の周りにある遊歩道を2人で歩いていたり、皇室御用達のレストランでの食事。


 全てが貸し切りで、2人の周りには騎士団が警備していたからか余計に2人の姿が人々の目に焼き付いた。



 これが1度や2度なら従兄妹同士の微笑ましいデートなのだが……

 程に見られる様になると話が違ってくる。


 それに……

 皇宮では毎朝2人で手を繋ぎ庭園を散歩をしている事も、既に噂になっていた。



 アルベルトにとってはリズベットは妹。

 だけど……

 従兄妹同士は結婚が出来るのだ。



 楽しげにデートをしている所を度々目撃される様になれば、あらぬ噂をされる事になるのは必然的だった。



「 皇子様は……王女と結婚をするのか? 」


 アルベルトは20歳。

 リズベットは14歳。

 後2年したら結婚が出来る年齢になる。



「 じゃあ……婚約者の公爵令嬢はどうなるの? 」

「 側室制度は廃止になったんだよね? 」

「 やっぱり王女と結婚するんだよ 」

「 従兄妹なら問題無いからね 」




 そんな噂が流れ始めていた。




 その頃………

 婚約者の公爵令嬢は……


 生徒会行事の釣り大会で優勝していた。







────────────────



本当は、国により色んな制度が違うのでしょうが……

面倒だから全てを同じにしています。__(^^;)ゞ


言語も……

グランデルから付いてきた家臣達もシルフィード語を話せる者が付いて来たと言う設定です_(^^;)ゞ


全てをゆる~く読んで頂けたら有難いです。


誤字脱字方向も有り難うございます。

読んで頂き有り難うございます。

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