第262話 騎士─護衛

 


 シルフィード帝国の皇宮騎士団には騎士団と特別騎士団がある。


 この特別騎士団は皇帝陛下と皇后陛下を守る部隊である。

 騎士団と同様に第1部隊と第2部隊がある。


 皇帝陛下が小さい頃から騎士団として護衛して来た騎士達が、主君が皇帝陛下に即位した時に特別部隊として組織された、騎士団の団員達の憧れの部隊である。


 だから……

 今いる騎士団の団員達はアルベルトが即位して皇帝になれば、そのまま特別部隊として任務にあたる事になる。


 今の騎士団はアルベルトの為に存在するので、それは騎士にとって生涯、唯一無二であるただ1人の主君に強い忠誠心を持って仕える様にと考えられたシステムであった。



 騎士団には第1部隊から第4部隊まであって、第1部隊はグレイのいる特効部隊で第2部隊は護衛部隊である。


 何時も日常のアルベルトの護衛をしているのがこの第2部隊だ。

 24時間体制で交代で護衛をする。

 また、アルベルトが公務をする時の人垣の整理なども第2部隊が行う。


 アルベルトの小さい頃から護衛をしていたクラウドはこの第2部隊に所属していた。

 クラウドは第1部隊に行くつもりだったが、まだ小さい皇子を守る為に、騎士団で1番剣術に長けて誰よりも強いクラウドに白羽の矢が当たったのであった。


 最近では休日のレティの護衛もしており、彼女の護衛は騎士達の間で人気があるのは言うまでもない。





 ***





 教会への視察が終わり、ホテルに戻って翌朝の出立の準備をする。


 アルベルトには直接の世話をする侍従がいる。

 名前はテリーでアルベルトが小さい頃からプライベートの世話をしている。

 しつこい様だが皇子様もパンツは自分でちゃんと履いている。



 この日の途中からテリーの調子が悪いと部屋で養生していたので、女官達が誰がアルベルトの部屋に行くかの相談をしている。


「 私が行きます。ずっと殿下の側にいましたので…… 」

 ジルが当然の様に手を上げた。


「 貴女はクラウド様の女官なんでしょ? 殿下の女官では無いわよね? 」

「 殿下の女官なら私達と行動を共にしてる筈ですものね 」

「 殿下のお世話は殿下の女官のわたくし達が致しますわ 」


 女官達の不満がここで爆発した。

 日頃の公務ではスルー出来ている事でも、旅で四六時中一緒にいるとスルー出来ないものである。



「 だけど、女官長がおられない時は何時も殿下のお世話は私がしていました 」

 クラウド様も線引きをするならはっきりとして貰わなければなりませんわね。……と、女官達は旅の3日目にして今までの違和感を口にした。


 ここでの口論に時間を使えば、殿下のお世話に支障が出ては困るとばかりにナニアが結論を出した。


「 リティエラ様に行って貰いましょうか…… 」

 それが良いですわとうんうんと頷きパチンと手を叩いた。


「 ……でも…… 」

「 ジル! 殿下の部屋には若い女性は行かせられませんよ 」


 そこにテリーの診察を終えたレティが戻って来た。

 少し疲れが出たから安静にしていたら大丈夫だとナニア達に言うと……

 女官達の間に何やら怪しい空気を感じる。

 ナニアが経緯を説明をした。


「 なので……リティエラ様、お願いします 」

「 えっ!? 私ですか? 」

 私も若い女性なのに?


「 はい、絶対に殿下がお喜びになります 」

「 リティエラ様は婚約者様ですから 」

「 ………はい……分かりました 」

 ジルを見ると……彼女の顔は無表情で何を考えているのかは読み取れなかった。



 サマンサがワゴンを押して来た。

「 殿下がお風呂に入られましたら洗濯物の交換と、お茶の準備をお願いします 」

「 えっ!?お茶も? 」

「はい~~お2人分用意してますので殿下を癒して差し上げて下さいませ~ 」

 さあさあ、これを運んで下さいね……と、ワゴンを渡された。


 行ってらっしゃ~い

 ごゆっくり~

 ……と、皆で手をヒラヒラして見送られた。



 カラカラとワゴンを押す。

 お茶をいれるのは下手クソなんだけどなぁ……


 洗濯物は殿下がお風呂に入ってる間に交換するの?

 殿下がお風呂に入ってる間は部屋で待っていなきゃ駄目なの?

 あら!?

 じゃあ、どのタイミングでお茶を出せば良いの?


 女官の仕事ムツカシイ……

 緊張でどうにかなりそうだ。



 殿下の部屋の前には今夜の護衛のグレイとサンデイがいた。

「 あっ!? リティエラ様…… 」

「 女官のお仕事で来ました 」


 ワゴンを押してきたレティは2人に頭を下げる。

「 えっ!? リティエラ様が殿下のお世話を?」

「 サンデイ、黙れ! 任務中だ 」


 コンコン……コンコン……

 ドアをノックしても返事がない……

 あの……これは入っても良いの?

 ……と、目でグレイとサンデイに聞く。

 サンデイは無言で頷く。


「 し……失礼します…… 」

 レティはドアを開けてワゴンをカラカラ押して部屋に入った。


 パタンとドアが閉まる。

「 これは……何かありますよ…… 」

 サンデイがワクワクしている。

「 ………… 」

 グレイは息を1つ吐いた。



 カラカラカラ……

 あら……誰も居ないわ……


 えっと……お茶セットをテーブルに置いて……

 着替えを……

 何処に?

 殿下は何処で着るの?

 いや……落ち着け……脱衣場に決まってるじゃないの……


 脱衣場は……

 いや落ち着け……隣の私の部屋と同じよ同じ……

 いつの間にか抜き足差し足をして忍び足で歩いている。


 こそ~っと、こそ~っと……着替えを置いたら……

「 テリー? もう体調は良いのか? 無理はするな!ここは良いから休んでいなさい 」


 アルベルトの声に……ドッキーン! 心臓が飛び出た。

 次の瞬間に……ガラッ!!

 風呂場の戸が開いた!!


 出て来たアルベルトとレティの目が合う……

 一瞬二人は固まった。

 レティの視線が……

 裸のアルベルトの下に……


「 キャーーーーっ!!! 」

「 うわーーーっ!!! 」

 2人は同時に叫んだ。


「 殿下! 何かありましたか!? 」

 ガチャガチャバタンとドアが開く。


「 大丈夫だ! 問題ない! 下がれ! 」

「 はっ!! 」

 ドアがパタンと閉まった。


 レティは叫び声を上げたままの形でまだ固まっている。

 アルベルトは慌ててレティの手からバスローブを取り、羽織って帯を締める。


 レティはまだ叫び声を上げたままの形で固まっている。


「 レティ? 」

 はっとして、アルベルトを見てもう一度叫び声を上げそうなレティの口を塞ぐ。


「 ☆#※×*※#×#* 」

「 レティ、落ち着いて! 」

「 #×*☆#・☆#×*※ 」

 レティは真っ赤になっていた。


 見られたのは俺なんだけど……


「 もう、叫ばない?」

 レティは真っ赤な顔をしてコクコクと頷いた。

 口を塞いでいた手を退けるとレティはふう~っと深呼吸をする。


 気まずい沈黙が流れる……

 アルベルトはタオルを取り頭をゴシゴシと拭く。


「 ……えっと……取りあえずお茶でも飲もうか……」

 タオルを首に掛けたまま居間に歩いて行く後ろを、籠を抱えたレティが付いて行く……


 お茶はアルベルトが入れた。


「 はい、どうぞ 」


 皇太子殿下にお茶をいれさせるのはレティだけである。

 世話をしに来たのに世話をやかれるレティなのであった。


 ソファーの端っこの端っこにちょこんと座ってカップを持ち、お茶をコクコクと飲むレティが可愛らしい。


「 見た? ……もしかして全部見たの?」

「 見た……もうお嫁にいけない…… 」

 真っ赤な顔をしたレティは両手で顔を隠す。


「 僕のお嫁さんになるんだからお嫁にいけるよ 」

 結婚したら毎日見るんだからねと、ソファーに座るレティの横に座り顔を隠した彼女の手を取り、悪そうな顔をして彼女の顔を覗き込むアルベルトに………


 レティはまた叫び声を上げそうになり、アルベルトは慌てて口を塞ぐ。


「 *☆×…※*☆#×* 」

 アルベルトはクックッと笑いながらレティのおでこにチュッとキスをした。


「 ☆#×*☆×#※*」

「 もう、叫ばない? 」

 レティはコクコクと頷く。


「 ナニアに持って行くように言われたの? 」

 レティはまたコクコクと頷く。


「 ナニアに礼を言わなきゃね 」

 アルベルトはそう言ってカップを手に取りお茶をコクリと飲んだ。


 髪を掻き上げたので濡れた髪が後ろに流される。


「 !? 」

 唐突に、濡れた髪を掻き上げた色っぽい皇子様御輿が担ぎ上げられた。

 全裸皇子様御輿も同時に担ぎ上げられそうになったが、無理やりねじ伏せた。


 ワッショイワッショイと濡れた髪を掻き上げた色っぽい皇子様御輿に混じってたまに全裸皇子様御輿が担ぎ上げられそうになる……


 無理……

 頭の中では御輿がワッショイワッショイと騒ぎまくっている。


「 では……任務が完了しましたのて、失礼します 」

 頭を下げ籠を持ち、立ち去ろうとするレティの腕を掴む。

 前髪が後ろに流れ額が露になっているのをチラリと上目遣いで見る。


「 駄目だよ、まだ帰っちゃ! 」

 髪の何本かが額に垂れて色っぽ過ぎてドキドキする。


「 わ……わたくしの仕事は終わりましたが…… 」

「 終わったのなら……もう少し一緒にいて…… 」

 アルベルトがタオルを頭から被ったからか……

 濡れた髪を掻き上げた色っぽい皇子様御輿はなんとか終息してきた。


「 レティ……昨日はごめん…… 」

「 ? 何? 」

「 君に酷いことを言った…… 」

 レティの手を握りタオルを被ったままアルベルトは跪いた。


 跪くアルベルトに驚きながらレティは少し考えて笑った。

「 私はちょっとは役にたった? 」

「 感謝する……全ては君のおかげだ 」

 良かったと言って笑うレティをアルベルトは抱き締める。


 ええっ!?

 ガウンがはだけている!


「 あまり2人っきりにはなれないけれども……ずっと君と一緒にいられるのが嬉しい……」


 ええっ!?

 アルの直胸………バスローブの下は……裸……


「 レティ……好きだよ……大好きだ……」


 アルベルトの告白なんか何ら頭に入って来ないレティの頭の中に、いきなり全裸皇子様御輿が担ぎ上げられた。


 仁王立ちをした全裸の皇子様が頭の中でワッショイワッショイとやっている……


 無理……死ぬ……


 レティは真っ赤になり、抱き締めるアルベルトの腕からするりとすり抜け、俯きながら籠を持って部屋から出た。(←ちゃんと忘れずに仕事はする)


 部屋から出ると……「 無理ーっ 」と叫びながら駆けていった。


「 無理って……何があったんだろう? 」

 叫びながら駆けて行くレティを目で追いながらサンデイが少し赤くなる。


 普段の護衛をしていない第1部隊は、2人のイチャラブなバカップル振りを見慣れていないのでどうしても気になって赤くなってしまうのであった。



「 ……………… 」

 グレイは目を臥せたまま立ち尽くした。








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