第261話 騎士─同僚

 


 皇太子殿下御一行様はボルボン伯爵領地の教会に向かっていた。


 不正が出た事によりボルボン伯爵は朝早くに皇都に向かった様で、隠さねばならない事が山程あるに違いないと一行は思った。


 次の視察の予定は教会だった。

 教会には直接に皇宮から補助金を出しているので行く必要があった。


 予定通りに教会に着くとボルボン伯爵の領地の執事が来ていて、教会の牧師達と皇太子殿下達の案内をする。


「 こんにちわーっ!」

 ずらりと並んだ子供達が元気よく挨拶をする。

 子供達の見映えをよくしようとしたのか彼等はダボダボの服を着ていた。

「 すぐに大きくなりますからね、ハハハは 」

 ……と、牧師は子供達を隠す様にして皇太子殿下に先に進む様に促した。


 レティは直ぐ様子供達の診察を始めた。

「 今からあっかんべーをするからね 」

 ……と、子供達の前に両膝を付いて跪きあっかんべーと言いながら目の下を診る。


 貧血だわ……

 ダボダボの服を捲るとか細い腕が出て来て、身体を診ると骨が少し浮き出ている。

 ダボダボの服はカモフラージュね……


 そこに慌ててシスターが飛んで来た。

「 勝手な事をされたら困ります 」

「 わたくしは医者ですわ 」

 レティはロイヤルブルーの医師証明書を見せる。


 視察に医師が同行するなんて今までに無かった事であった。

 医者が診察をするのには何ら問題は無い。

 シスターはどう対処したら良いのか分からずにオロオロする。


 子供達全員の診察を終えるとレティはシスターに子供達の部屋を聞く。

「 ちょっと一緒に来て 」

 2階だと言われたレティはたまたま横にいたロンを連れて2階に上がった。



 綺麗に整理整頓された部屋にはベッドが何台も並んでいた。

 シスターも何かされたらたまったもんじゃないと慌てて付いてくる。

「 私共は何時も清潔に生活をする事を心掛けておりますのよ 」

 …と、どうだとばかりに偉そうに言う。


「 ロンさん、何か気付かない? 」

「 えっと……何にも…… 」

 ロンがキョロキョロと辺りを見回している。


「 ベッドの数を数えてみて、そして……子供達の数を…… 」

 ロンがベッドの数を数えて、子供達の数を数える為に1階に下りた。

 シスターも慌てて1階に下りる。


「 あーっ!! 」

 ロンの叫び声にアルベルト達がやって来た。

「 何があった? 」

 ロンがベッドの数と子供達の数が違う事を説明する。


 その間レティは部屋をチェックし終わると、別の部屋にも入った。

 この部屋には刺繍しかけのハンカチやテーブルクロスなどが何枚も何枚も置かれていた。

 子供達に刺繍をさせて売っているみたいだった。


 こんな小さな子に刺繍をさせるなんて……

 自分が刺繍が苦手なので怒り倍増である。

 よく見るとかなり上手い……

 こんなに上手くなる程にやらすなんて……

 自分が少しも上達しないから怒り倍増である。


 子供達の勉強の本も無いどころか、子供達に労働をさせてるとは……



 皇宮から助成金を出されているがそれを管理するのが領主の役割なのである。

 しかしボルボンはそれを怠り、牧師とシスター達が助成金を私的に使い、子供の教育も食生活もまともにさせずに、僅かな金を目当てに子供達に労働までさせていたのである。


 こうして、ウォリウォール家の長女であるレティはあっさりと、この教会の不正を暴き出した。


 女官の格好をしているのに、熟練した偉そうな捜査官の様であった。

 子供達は食事の改善をすれば健康的になるだろうと捜査官は言った。



「 大体、子供達がこんなに痩せて栄養が行き届いて無いのに、牧師やシスター達が丸々と肥ってる時点でおかしいと気付かなきゃ! 」


 腰に手をあて仁王立ちするレティが……

 可愛い……

 アルベルトは当然だが……クラウドや騎士達全員が思った。



 こうして教会の不正まで暴いた皇太子殿下は……

『世直し殿下』と呼ばれたとか呼ばれて無いとか……



 ボルボン伯爵領は不正の宝庫だった。

 元々宝石が採掘され気候も温暖で作物も多く取れる豊かな領地だったのに、代替わりで今の無能で欲深いボルボン伯爵になってからは、領民達を不当に扱い農民達からは重い年貢を取り立てると言う常軌を逸したやり方で領民達を苦しめていたのである。


 皇帝陛下が最も嫌う案件である。



 教会での後始末は長引いた。

 アルベルトやクラウド、女官達総出で書類の作成に取り掛かり、女官の仕事を知らないレティは邪魔だと言われ、待ってる間に騎士達と子供の相手をしていた。



 ロンは3度目の人生で騎士だったレティの所属する皇宮騎士団騎乗弓兵部隊の同僚だった。

 あの僅か10名の弓騎兵でガーゴイル討伐の最前線に立った仲間の1人である。


 今のグレイ班にはロンと同い年のケチャップと2つ歳上のサンデイとジャクソンも10名のメンバーだ。


 この4人は今も未来もグレイ班長の直属の部下である。


 旅をする事で、グレイだけじゃ無くあの時の同僚達と一緒にレティは過ごす事になったのである。



 懐かしい……

 レティが20歳の時に24歳だった今のロンとケチャップは21歳で、レティより6歳年上だったサンデイとジャクソンも今は23歳で、因みにグレイは今は25歳なのである。


 昨日もロンの事を何度ロン先輩と言いそうになったか……

 ロンとケチャップはレティと1番歳が近かった事から部隊の中でも1番仲が良かったのである。


 今、グレイの班は昨夜ルーカスの元へ伝令に2名走ったので、10名の騎士しかいなかった。


 他の騎士達はアルベルトの護衛に行き、今はグレイとロンとケチャップとサンデイとジャクソンとレティの6名で子供達と遊んでいる。



「 リティエラ様、昨日の採掘場の殿下は格好良かったですよ~ 」

「 そうそう、殿下が振り向き様にドアを蹴破って鉱夫達が隠されている場所を見つけたんですよ 」

 昨日アルベルトへの護衛に付いていたケチャップとサンデイが嬉しそうにレティに話す。


 フフフ……レティは口元を手で押さえる。

「 グレイ様が殿下の代わりに蹴破りたかったんじゃ無いですか? 」

「 !?………………まあ……そうですね 」

 グレイがちょっと照れた様な顔をした。



 そう、私は知っている。

 グレイ班長は今は何時も私に敬語を使って大人な対応をして来るが……

 本来のグレイ班長は血の気の多い騎士団の中でも1番やんちゃな男なのである。


 何でもかんでも誰よりも先に突撃したいタイプで、飲み屋でも豪快に飲み歌い、その辺の酔っ払いと飲み比べ勝負を挑み、絶対に負けたことの無い豪傑なのである。


 道端で誰かが喧嘩をしようものならいきなり割って入り、どちらも殴り付けて皆を相手に喧嘩してると言う滅法喧嘩が好きで強い奴なのだった。


 レティが、ある日団員と口論になった時に、女の癖にと言われて暴力を振るわれそうになった時に、相手を半殺しにして懲罰処分になった事もある程である。


 その時より3歳も若い今の方がきっと物凄いやんちゃなのだと思うと可笑しくなった。

 それが……


 次は俺が相手だ!……と、子供達と相撲を取り出したグレイを見ながらクスクスと笑った。



 私は……

 私には思い出だが彼等には未来の事であるが為に、思い出話が出来ないジレンマと戦いながら、なるべくお喋りを控えている所である。


「 格好良いと言えば……デモンストレーションの時のリティエラ様の弓馬術は凄かったですねぇ…… 」

 ジャクソンが言う。


 おっ!勧誘のチャンス!

「 皆も、練習をすれば直ぐに出来ますよ 馬に乗る事に長けている皆さんなら全然余裕です 」


「 えっ!? 余裕ですか? 」

「 グレイ班長が弓矢を始めたから俺達も始めたんですよ!

 次は騎乗してやってみようかな? 」

 サンデイとジャクソンが興奮気味に言った。


「 是非……私も一緒に練習したいです 」

 この人達が始めてくれたら私も練習をさせて貰いたい。

 是非!!



 皇宮騎士団第1部隊は騎士団の特攻部隊で1班と2班に分かれている。

 グレイのいる1班が今回の視察に同行している。


 第1部隊は皇太子殿下の馬車での移動や他国の王族や皇族が来国した時に護衛する事の出来る、剣にも馬術にも優れた者だけがなれる騎士達の憧れのエリート部隊であった。


 馬車の横に付いて護衛する為、馬に乗る事が優れている必要がある。

 なので、実力主義の騎士団でまだ若いのに第1部隊にいるロンやケチャップはかなりの実力がある。



 それにしても……

 さっきから……リティエラ様だなんて……

 こいつらは私の事を『 チビスケ 』って呼んで、何時も鼻を摘ままれたのよね。


 私を男扱いして……

 一緒に連れションをしないか?とか、女を世話してやる!と言う嫌がらせを言ってくるのはしょっちゅうであった。


 犬の糞事件と言うのがある。

 街を歩いていたらケチャップが犬の糞を踏んづけた靴を私に投げ付けて来た。

 避けた靴を投げ返したらロンの顔に当たって、叫びながら拭いた手をケチャップに擦り付けて、それをまたサンデーに擦り付け3人で大乱闘になった。

 駆け付けたグレイ班長とジャクソンも糞だらけになりながら、3人を殴り付けて終息させたと言うハチャメチャな生活を彼等としていたのだった。



 あの糞まみれの奴等が………

 澄ました顔して『リティエラ様』だなんて………

 フフフ……ハハハ……あハハハは……

 笑いが止まらない……


 レティはヒーヒー笑い転げた。



 レティにとっては過去の事なのだが……

 自分が皇太子殿下の婚約者になった事から

 もう、この未来は無いんだろなぁと思うのであった。







 

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