第216話 閑話─側近としての責務
シルフィード帝国の皇太子殿下、アルベルト・フォン・ラ・シルフィード皇子は18歳。
側近の私から見ても類い稀なる美丈夫ぶりに惚れ惚れしてしまう程である。
毎朝欠かさない騎士団での鍛練と魔力の開花で身体付きも一層逞しくなり、特に魔力が開花してからは身体に宿る魔力のパワーもあってか、そのオーラと溢れ出る色気は半端なくなっていた。
誰からも愛される事は皇子としては何ものにも代え難い事ではあるが、1人の男としては本当に罪作りな男だと言える。
本人にとっては知ったこっちゃ無いのだろうが……
だから今回の風の魔力使いの事件は、これからも起こり得る事件であるとクラウドは警戒をしていた。
リティエラ様の懇願により表向きは事故として片付けられたが……
あの時に殿下の護衛に付いてた騎士達に話を聞く限りでは、あれは確実にリティエラ様に向けての攻撃で、風の魔力使いが殿下と接触していた事から、嫉妬による犯罪であった事は間違いないだろう。
それは絶対に看過出来ない問題なのである。
本来ならば婚約をしてるのだから、彼女を皇宮で保護するべきなんだが……
彼女は学生で……
最大の難関は彼女が類い稀なる活動的な……
穿った言い方をすれば……かなりのお転婆なのである。
殿下もそれは良く承知をしている様で、皇宮に保護しても彼女は街に脱け出すだろうと考えてらっしゃる。
『 レティなら牢屋にぶちこんでも脱獄しそうだ 』と話したのは先日の事である。
そして……
彼女には想像も出来ない凄い可能性がある。
殿下の御代には必ずや何かを変える……
いや、実際はもう変えていってるのかも知れない。
そんな殿下との未来に期待が持てる女性であるのだ。
まあ、何よりも殿下がこれ程の寵愛をかけていらっしゃるのだから……
「 最近はレティが大好きと言ってくれる様になったんだ! 何時も俺からだったけど、レティから言ってくれる時もあるんだよ 」
もう……デレデレである。
「 それより殿下、クリスマスパーティーの日はどんな良い事があったんですか? 」
あの夜は学園の警備も厳重にしている事から、殿下が護衛騎士を付けなかったので騎士からの報告が無いのである。
勿論、アルベルトはロマンチックなクリスマスを二人で過ごしたくて、レティが恥ずかしがる護衛騎士達を付けなかったのであった。
それが大成功したわけだが……
「 それは内緒だ 」
殿下は、リティエラ様からのプレゼントである黒の手袋を嵌めたり外したりと大層嬉しそうだ。
たまにスリスリもしている……
本当に……
殿下のリティエラ様への想いは眩しいくらいだ。
お小さい頃からお仕えさせて貰っているが、殿下は感情を表にあまり出されない皇子であった。
利発で品行方正なお伽噺の皇子様そのものであったのだ。
彼女が現れるまでは……
宮殿の者達なら誰もが信じ難い事であろうが……
リティエラ様の前での殿下は、からかったり、ウィンクしたり、投げキッスまで……
逃げるリティエラ様にキスをしようと必死に迫る事も多々あるとか……
護衛騎士達からこんな殿下の報告がされると、殿下も18歳の普通の男なのだと安心する。
リティエラ様と良い青春を過ごしているのだろう……
彼女はもはや殿下にとってなくてはならない女性(ひと)である。
だから女性関係には細心の注意をせねばならない。
リティエラ様が不快にならない様に……
それが皇太子殿下の側近である私の責務。
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