第195話 皇帝陛下の贈り物




皇宮の大広間では、華やかな舞踏会が開かれている。


皇帝陛下のお言葉を賜り、楽団がメロディを奏でると、皇帝陛下と皇后陛下のファーストダンスが始まる。


皇帝陛下が皇后陛下に、踊って頂けますか?と手を差し出すと、皇后陛下がニコリと微笑んで、お受け致しますと手を添える。


二人はホールの中央まで赴き、ダンスを踊る。

時々何かを話しながら、クスクスと笑いながら……

本当に、何時までも仲睦まじい夫婦である。



二人のダンスが終ると、皇太子殿下が招待客である各国の王女や令嬢達と踊るのが常であった。


アルベルトが16歳の成人を迎えてからは、若いアルベルトと踊りたいだろうと、皇帝はダンスのお相手は全てアルベルトに任せて、ファーストダンスを皇后陛下と踊るだけであった。


皇后陛下は、その身分の違いもあって、他国の国王や皇帝としか踊る必要はない。

しかし、他国の国王や皇帝は、まず自国を離れる事は無いので、皇后陛下も皇帝陛下としか踊る事は無かった。


各国の王子や令息達とのダンスは、本来ならば皇女か皇太子妃がお相手をするのであるが、皇女がいないシルフィード帝国では、この接待公務を、レティが将来皇太子妃になる事になれば、その役割を担う事になるのである。



両陛下はダンスを終えると、各国の要人達や大臣達と飲食をしながら、歓談をするのが常である。


しかし……

皇帝陛下は、皇后陛下を座席まで連れていくと、アルベルトと一緒にいるレティの前まで静かに歩いて行った。


「 皇太子の婚約者殿、余と踊って頂けますかな? 」

そう言って、レティに手を差し出した。


ホールにいる全ての人が驚きの声をあげ、注目した。

勿論、レティが一番驚いていた。


固まったレティをアルベルトが踊るように突っつく。

「 はい……お受けいたします 」

レティは皇帝陛下の手に、手を添えた。

皇帝陛下はアルベルトにウィンクをして、ホールの中央まで、レティの手を引いて歩いた。


中央で、レティにお辞儀をし、レティはドレスの裾を持ち、完璧な礼をする。

音楽が鳴り出すと皇帝陛下はレティの手を取り、腰を引いて二人は踊り出した。



今、私は皇帝陛下とダンスを踊ってるの?


レティは騎士であった。

3度目の人生では学園を卒業後、寄宿制の騎士養成学校に入校し、1年間に渡り騎士になる為の心得と、皇族への忠誠心の教育を叩き込まれたのである。



皇帝陛下とダンス?


ダンスはパートナーの目を見つめ合い踊るのが基本である。

レティは畏れ多く感じるも、震えながら皇帝陛下の顔を見た……

こんなに近くで見るのは勿論初めてだった。


目が合うと、ニコリと微笑む皇帝陛下の優しい瞳があった。

ああ……殿下によく似ていらっしゃるわ……

その見慣れた瞳の色に、少し安心して緊張が緩む。


皇帝陛下の髪は茶色だが、瞳の色はアルベルトと同じアイスブルーである。

因みにアルベルトのブロンドの髪は皇后陛下ゆずりであった。



「 アルは学園ではどうかね? 」

陛下がニコニコしながら、話し出す。

「 はい、とても立派な生徒会長です 」

「 どんな所が立派なのかな? 」

「 皆から、とても愛されております 」

「 愛される事が立派とは? 」

「 はい、嫌われていては何もかもが上手くいきませんから…… 」

そうか、そうかと皇帝陛下は喜んでいる。


そんなたわいもない話をしながら楽し気に踊る二人を、周りは驚いて見ていた。

皇帝陛下が、彼女と踊る意味……



ダンスが終る頃

「 何か困ってる事は無いか? 」

「 あの……殿下は私を好き過ぎてます、何でこんなに私の事を好きなのかが分からないんです 」

真剣な顔をして言うレティが可笑しくて、皇帝陛下は笑いだした。

周りは驚き、ざわざわとしている。


「 アルは、そなたのそんな所が好きなんだろうね 」

「 ? 」

頭を傾げるレティ。

「 さあ、ダンスが終わった、そなたを好き過ぎるアルがやきもきしているよ 」


「 良い時間だった 」

「 素敵な時間を有り難うございます 」

レティはそう言って、最上級の騎士の礼をしたのだった。

とても綺麗なお辞儀であった。


皇帝陛下とレティは、アルベルトの方に歩いて行く。

「 婚約者殿をお返しするよ、次は二人で楽しく踊っておいで 」


皇帝陛下はそう言って、皇后陛下のいる席まで戻り

「 君だけに、良い所を取られたく無いからね 」

皇帝陛下は皇后陛下にウィンクをし、大臣達にどや顔をした。


皇帝陛下も、レティと踊る事で皇太子の婚約者を認めると言う宣言をしたのである。


「 アルがやきもきしていましたわ 」

皇后陛下がコロコロと笑った。



そしてホールの中央に出た若い二人。

「 私の婚約者殿……独りぼっちの私と踊って頂けますか? 」

「 はい、独りぼっちの皇子様と踊りますわ 」

レティはクスクスと笑い、アルベルトはレティの手の甲にキスをした。


音楽が流れ出す。


レティの腰をグイっと引き寄せ、二人のダンスが始まった。

「 父上とは何を話してたの?」

「 内緒 」

くるっとターンしながら、

「 じゃあ、父上は何をあんなに笑ってたの? 」

「 内緒 」

「 ………言わないとチューするぞー! 」

迫るアルベルトに、キャアキャアと逃げるレティ……

楽しそうに踊る二人に、皆も幸せな気分になるのであった。


二人のダンスが終ると、皆がホールに出て来て、各々のカップルで踊る。

今回、デビュタントのレティの同級生達も、皇子様とレティの幸せをお裾分けして貰い、皆、楽し気に踊っている。



レティは、その後、父とラウルと踊った。

家では、この二人とダンスの練習を何度もしたが、ホールで踊るのは初めてだった。

ルーカスは最愛の娘と踊り、少し涙目になっていた。


ラウルは……

「 お兄様も普通にすればカッコいいのに…… 」

「 俺は何時でもカッコいいぞ! 普通にすればってどう言う意味だよ?」

よく似た兄妹が楽し気に踊る。


アルベルトは、今回は他国の王女も令嬢も居なかった為に、接待公務ダンスをする事も無く、レティの母のローズと踊った。

殿下推しのローズが、大喜びだったのは言うまでも無い。



そして、舞踏会も終わりに近付き、ほろ酔い気分の各々のカップル達がラストダンスを踊る。


アルベルトとレティも、ラストダンスを踊っていた。

「 長い一日御苦労さんだったね 」

「 アルも御苦労様でした 」

「 幸せ? 」

「 うん、幸せ……アルは? 」

「 幸せだよ、ずっとこうしていたい…… 」

「 あら! 駄目よ、私、明日は学園よ! 無遅刻無欠席を目指しているんだから 」

アルベルトは肩を震わせ笑いだした。



「 レティ……大好きだ 」





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