第187話 他国間交流



「 王子殿下、同じクラスの生徒達と交流なさいませ 」

「 うん、同じクラスの子達とは仲良くしてるよ 」

休み時間は、他のクラスの子達と交流をする様にしてるんだよね。


ウィリアム王子は休み時間になると、レティのクラスに来てはレティの前の席に座り、肘を付いてレティの方を見ているのである。


まあ、確かに授業中はA組から、王子の声と、皆がよく笑う声が聞こえるので、仲良くしてはいるんだろう。

……しかし、休み時間毎に、このクラス……それも私の前の席の子を押し退けて、ここに居るのもどうよ?


「 では、C組とD組にも行かれたらどうですか? 」

「 そうだね、でも先ずはB組の生徒達と仲良くなってから行くようにするよ 」

そう言って、女子生徒達にチュッと投げキスをした。

女子生徒達はキャアキャアと顔を赤らめた。


うぇ~

ウィリアム王子は、掴み所が無いと言うか……何も考えて無いと言うか……

爺ちゃん達に言わしたら……阿呆だ。(勿論言わないけどね)



「 ところで、君達の皇太子殿下はかなり強そうだね 」

いつの間にか話しは、強いか強くないかの話しになっていた。


「 うちの皇子様は凄く強いわよ 」

リティエラ様が………うちの皇子様って言った……

レティは、友達の前でアルベルトの話をする事は先ず無かったので、皆は興奮した。


「 はい、ワタクシもかなり強いですわよ」

「 君は騎士クラブに入ってるんだって? 」

「 はい……そうだわ!王子殿下、一度ワタクシとお手合わせして頂けませんか? 」

「 女の子となんか出来ないよ 」

「 あら、ワタクシは騎士クラブの部員ですから、ただの女子と見なさないで頂きたいですわ 」

「 俺はやらないが、こいつらと手合わせしてくれ!こいつらも強いよ 」


ローランド国からの留学生は、王子と男子生徒3人と女子生徒6人が来ていた。

この男子生徒3人は、私に雑巾を絞った後のバケツの水を掛けた奴らである。



「 強いって……私に箒で叩かれ、バケツを頭に被されて、ガンガンされたこいつらが……強いって? 」(←口の悪さはラウルのせい)


キャハハハハ……

もう、私とケイン君は腹を抱えてゲラゲラ笑った。

「 君達、失敬だ! 」

バケツ君達が真っ赤な顔をして怒っている。


「 あの時の決着を付けましょうか? 」

バケツ君達に向かって、レティは立ち上がって剣を抜く構えをした。

うわ~勘弁してくれよ~と、頭を隠すバケツ君に、皆で爆笑した。


そして、バケツ君はあまりにもダメダメなので、結局、王子と手合わせをする事を約束した。





***





「 随分と楽しそうだな 」


レティとケインが、王子達を前にしてケラケラと大笑いしている。

アルベルトとエドガーが、2年B組のクラスの廊下の窓からレティ達を見ていた。

すると……

ケインが気が付き、アルベルトに軽く会釈をする。

─大丈夫です─


「 ケインか……レティの護衛を頼んだのか? 」

「 ああ、それとノアもだ 」

「 良い人選だな…… 」

「 二人共、将来良い騎士になるぞ 」

「 ああ、騎士団に入ったら、俺がみっちり鍛えてやるよ 」


レティから、嫌がらせをされていたと聞いたアルベルトは、時折、こっそりとレティの様子を見に来ていた。

今日はエドガーも付いて来ていたのだった。


それにしても楽しそうだ……

レティは立ち上がり、剣を抜く構えをした。

しまいには王子も周りも笑いだしていた。


16歳か……

もっと早くレティに出会えていれば……

いや、同じ年齢であったなら……

俺の16歳の頃ももっと楽しいものになったのかな……


アルベルトの16歳はローランド国に留学していた時である。

王子や留学生達と楽しそうに笑うレティを見て、少し切なくなるアルベルトだった。


学生の時の2歳違いは、かなり大きな隔たりがあるものである。




***




騎士クラブに王子がやって来た。

皇子と王子が揃うので、グレイの所属する皇宮騎士団を配備させると言う大掛かりな物となり、騎士クラブの部員達は震え上がった。



あちゃ~

こんなおおごとになるとは……

だけど……

誰かと手合わせしたいと言う願望はずっとあった。


レティは騎士であった。

騎士である時代では、何時も誰かと対戦し、何度も試合をした。

勝っても敗けても感じるあの高揚感は、忘れてはいなかった。


訓練を終えて、レティがアルベルトに屈む様に手をちょいちょいとした。

屈んだアルベルトに耳打ちする。

「 殿下……王子と手合わせをしようと約束したの 」

「 !?…… 駄目だ! いくら君でも……王子はそれなりに鍛えてる筈だ 」


「 ねぇ……アル…… 」

良いでしょう! ねっ?ねっ?

レティは首を傾げて、アルベルトを見つめ、目をパチパチして、赤い唇を小さく尖らせた。


クソ~っ!可愛い……

この娘は……いつの間にこんなおねだりを覚えたのか……

レティの可愛らしい顔のおねだりに、アルベルトはメロメロになり、NOを言えなくなってしまった。


「 あ……危なくなったら王子に雷を飛ばすからな! 」

「 それは絶対に駄目です! ローランド国と戦争になったらどうするのですか! 」

皇太子殿下が王子に攻撃をするなどあってはならぬ事。

「 クラウド様! 殿下を見張っていて下さいね 」

そう言い残し、レティは駆けて行った。


王子が騎士クラブに来ると言う事で、クラウドも来ていたのである。

「 しかし……また、何故王子と? 」

「 面白いものが見れますね 」

クラウドが頭を傾げていると、グレイがそばに来て、駆けていくレティの後ろ姿を見ながら目を細めた。



「 王子殿下! 今からワタクシと手合わせして下さい 」

「 ああ…… 」

頬を高揚させて嬉しそうなレティと、憂鬱そうな顔のウィリアム王子に木剣が渡された。



「 王子殿下と公爵令嬢が対戦するぞーっ!! 」

部員達は、円形に広がった。

審判は王子に怪我があってはならないと、グレイがする事になった。


隣国の王子と皇太子殿下の婚約者の手合わせなんか、前代未聞であった。

歓声が上がり、盛り上がるギャラリー達。


「 王子殿下! 宜しくお願いします 」

「 ………… 」


木剣を構える二人

「 始め! 」


視線を外さず睨みあう二人に、まずレティが剣を王子に打ちつけた。

王子はなんなくかわし、レティは右、左と早い攻撃で王子に攻めいる。

王子は後退りしながらも、パンパンとレティの剣をかわして、レティの懐に一撃を食らわす、受けてなるものかと素早くレティは後ろに飛んだ。


やっぱり……

王子だけある……ちゃんと強い。


王子も、レティを見てニヤリと楽しそうな顔をした。

「 王子殿下! 私は弱くは無いので、遠慮無く…… 」

王子が素早く踏み込み、王子の木剣が降り下ろされる。

レティは木剣でそれを受ける………


二人は互角だった。

打ち合いは長い時間続いたが、やがて王子が降り下ろした木剣がレティの喉元に向けられ、レティは膝を付いた。


「 それまで! 」

グレイの声が響いた。

大歓声が湧き上がる。


「 王子殿下、参りました 有り難うございました 」

「 良い手合わせだった 」

はあはあと息の荒い二人。

王子は手を差し伸べレティを立ち上がらせ、歓声の声に手をあげ答えた。


立ち上がったレティは、真っ先に

「 グレイ班長、今の立ち会いはどうでしたか? 」

なんと……グレイに指導を乞うたのだった。


グレイはレティの3度目の人生では、剣と弓の師匠である。

たまにレティから、班長と呼ばれる事にグレイは違和感を感じていたが……

まあ、班長には違いないとレティに良い所と悪い所を丁寧に教えた。

グレイは皇宮騎士団第1部隊の班長であった。



成る程………

殿下がグレイをあんなに気にする理由が分かった。

今も横でグレイとリティエラ様を睨み付けながら、嫉妬の炎を燃やしてる殿下……

これは機嫌が悪くなるぞ……どうしたものか……


すると、レティはアルベルトに向かって駆けて来て、アルベルトの胸に飛び込んだ。

「 楽しかった~ 」

「 怪我は無い? 」

レティを抱き締めるアルベルトは、とたんに優しい顔になる。


「 グレイ班長がね誉めてくれたの 」

「 ……レティ、本当は王子に勝てただろ? 」

「 ……グレイ班長にも言われちゃった……でもね、私が勝つと色々と不味いでしょ? 」

「 そう? あの鼻持ちなら無い奴を、容赦なく叩き潰しても良かったのに 」

王子を見ると、皆の前で木剣を振りかざし偉そうにしていた。


いや……

流石です、リティエラ様……

王子に恥をかかす事は外交上よくありませんから。

クラウドはレティの判断に感嘆するのであった。



騎士クラブの部員達は

皇太子殿下に他国の王子……

その上に憧れの騎士団……

そんな豪華な顔触れの中で、その後も皆で試合をして盛り上がったのであった。









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