第186話 風の魔女




「 格好良い…… 」

黒のローブの魔力使達がズラリと並んでいた。

皆は、ローブのフードを深く被り、他国の王子に顔が見えない様に頭を下げていた。

魔力使い達も勿論シークレットなのだろう。

殿下を別にして……


王子はルーピン所長から簡単な説明を受け、アルベルト達と共に皇宮に引き上げて行った。

残った者達がざわざわとしている。



「 格好良い…… 」

普段は見れない黒のローブの勢揃いが実に格好良い。

あの、小さい小太りの爺様オーラ漂う赤のローブ達とは違って、皆がスラリと背が高く、彼等から感じるエネルギッシュなパワーは、周りを威圧する雰囲気だった。


虎の穴の研究員である赤も青も白も研究する頭脳と言う能力はあるが、黒は自分自身が能力その物なので、彼等にはただならぬオーラが漂っていたのである。



「 格好良い…… 」

今、特に私に関係のある魔力使いは風の魔力使だ。

風の魔力使いは、矢に風の魔力を融合させてくれたのである。

まだ開発途中であるから、完成には至ってはいないけれども……

ずっと会いたいと思っていたのだ。

我が国で只1人の風の魔力使い。


「 あの……すみません、風の魔力使いさんはいらっしゃいますか? 」

このチャンスを逃してなるものかと、私は黒のローブの魔力使い達の側に行った。


私の声に、くるりと振り返った魔力使いがいた。

「 アタシに何か用? 」


風の魔力使いは女の人だった。

それも……

背がスラリと高いとびきりの美人。


驚きと、その圧倒的な美しさに……暫し固まった。

「 美人ですねぇ…… 」

思わず心の声が漏れてしまい、スミマセンと慌てて口に手を充てる。


「 あら! 有り難う 」

「 貴女もそうとう綺麗よ、可愛らしい白の魔女さん 」

彼女から頭を撫でられた。


そこへ、錬金術師の青のローブのシエルがやって来た。

「 イザベラ! ちょうど良い、依頼が入ってるからちょっと来てくれ 」

「 え~、今日はわけあって、集中出来ないだろうから、魔力が上手く出せるかどうかわかんないよ? 」

「 お前は来いと言っても直ぐに来ないだろうが! 」


風の魔女さんはイザベラと言う名前なのね。

仕事だ!と、イライラしながら言うシエルさんと風の魔女さんは随分親しい様だった。

何時も穏やかなシエルさんが、こんな風にイライラするのは凄く新鮮だった。



うわ~!! 今から魔力の融合をするんだわ!

「 シエルさん! 私も見学して良いですか? 」

もう、ワクワクが止まらない。


レティは耳がピンと立ち、目は真ん丸くなり、尻尾をブルンブルン振った。

シエルはそんなレティを見て、クスリと笑いながら

「 良いですよ、では、付いて来て下さい 」

そう言って、風の魔女と共に錬金術の部屋に入って行った。


キャーっ!

レティは、そこらじゅうをキャンキャンと吠えながら、走り回りそうな勢いでシエルに付いていく。


周りを見ると、他の魔力使い達も錬金術師達に捕まり、ぞろぞろと錬金術の部屋に入っていく。

そうよね、私も今まで殿下とルーピン所長にしか魔力使いに会った事が無いんだから………


魔力使い達は気ままである。

皆が他の仕事を持っている事から、ここに来ることが滅多に無いため、魔道具を完成させ様とする錬金術師達は必死だった。



錬金術の部屋は色んな匂いや音がする。

一体どんな魔道具の実験をしてるんだろう……

ここは、いつ来ても楽しさしかない場所であった。


黒の魔力使いが、青の錬金術師に連れられて、次々と各部屋に入っていく。

何を作るんだろうか……

うう……こんなチャンスは滅多に無い。

どの部屋も皆、見学したい!

キョロキョロとしてると

「 リティエラ嬢! こっちですよ 」

シエルさんが扉の前でおいでおいでをして呼んでいる。


「 はぁい! 今行きます 」

しかし……

錬金術の部屋って奥がすごく広いわ……

シエルさんと風の魔女さんが入った部屋に入ると……

そこには色んな桶や箒や梯子などの道具があり、奥の扉を開けると外に出た。

どうやら外に関する魔道具を作る部屋らしかった。




そこには馬と馬車があった。


「 うそ!? 」

私は驚きのあまり口に両手を当てていた。


「 皇宮から乗合馬車の試作を頼まれてね 」

キャーっ!

殿下とお父様が実行してくれたんだわ!

私が帰国してからまだ2週間位しか経って無いのに……

仕事が早いわ~。



乗合馬車は、連結装置を付けて大型馬車2台を繋げていた。

前の馬車と後ろの馬車の車輪の所に、魔石の入った小さな箱があり、そこに風の魔力を注ぐらしい。


風の魔女さんが馬車の前に立った。

両足を肩幅に広げ、両手を前にやり念を込めている。

殿下の開花する時に見た、あの格好良い出で立ちである。


その瞬間に緑の風が巻き起こり、彼女の赤い髪が舞い上がった。

緑の風は、渦を巻きながら彼女の周りを包んでいる。

うわ~綺麗……

あまりにもの美しさに息を呑みながら見とれていると……


「 駄目だ、失敗! 」

シエルさんの声で、緑の風が止まった。

風の魔女はハァハァと肩を揺らし荒い息を吐く……


「 もう1度…… 」

風の魔女がそう言い、両手に念を込める。

緑の風は、彼女の周りを回りながら魔石の箱に吸い込まれていく……


本当に綺麗……

黒のローブを着ていても、そのスタイルの良さが分かる。

彼女のドレス姿はどんなに綺麗だろうか……

そして……苦痛に歪む顔は……凄く色っぽかった。


「 失敗です 」

シエルの無情な声が響く。

「 止めましょう、今日は無理ですね 」

風の魔女はさっきより更にハァハァと肩で息をした。


「 今日はやっぱり駄目だわ、邪念が入ってくる 」

息を整えながらそう言って、風の魔女は颯爽と黒のローブを翻して部屋から出ていった。


格好良い……


でも……

あんなに身体も精神も酷使しないと駄目なんだ。

馬車だーって浮かれていた自分を反省する。



「 リティエラ嬢、出ましょうか? 」

「 はい 」

トボトボとシエルさんの後ろを歩いていると


「 どうしました? 先程までの元気は何処へ行きました? 」

シエルさんがニコニコしながら振り返った。


「 融合させる事が……あんなに身体を酷使するとは…… 」

「 何時もはもっと集中出来てるんですけどね、今日は集中出来なかったみたいですね 」

「 もしかして………私がいたせい? 」

「 それは関係ないと思いますが…… 」


魔道具にするには、魔力の持ち主が魔力を魔石に注入しなければならない。

しかし、この融合が難しいらしく、普段から、一度や二度の挑戦では中々成功する事は無いらしい。

だから、今回の失敗は私のせいじゃ無い事を、シエルさんはショボくれた私をあやす様に優しく説明してくれた。



「 あっ!殿下が来られましたよ 」

「 あっ!? じゃあ、シエルさん、今日は有り難うございました 」

レティは、頭を下げてお礼を述べた後、錬金術室の入り口にいるアルベルトに向かって走って行く。


「 あんなに嬉しそうに…… 」

アルベルトと何か話して、クスクスと笑って二人は錬金術室を出ていった。



「 シエルと何をしてたの? 」

「 あっ!殿下…… 」

「 名前! 」

「 アル……あのね、乗合馬車に、風の魔女さんが魔力を融合させる所を見に行ってたの 」

「 えっ!? もう出来たのか? 」

「 今日は失敗したんだけれども……アル、有り難う、直ぐにやってくれたのね 」

「 まあね、ルーカスが乗り気だったからね、運輸大臣と話したらすんなりゴーサインが出たよ 」


ウフフ……

乗合馬車が運行したら、凄く街に行きやすくなるわ。

馬車が来る時間なんかも決めてくれたら有り難い……

1時間に1回は難しいから……2時間……いや、3時間に1回位は街まで行って欲しいわね。

出来れば我が家に近い道路を走って欲しい。

色んな楽しいことが頭の中を駆け巡る。


「 そんなに嬉しい? 」

「 ええ! もう……お父様にもお礼を言わなくっちゃ 」


レティの変装ライフは盛り上がっていた。




そんなに嬉しいんだ……

確かに、自家用馬車が無いローランド国では苦労したのは分かる。

しかし……

自家用馬車を所有している公爵令嬢が、乗合馬車なんかに乗る時があるのかな?


アルベルトはレティの喜び様を不思議に思ったが、嬉しそうなレティを見てると、それだけで幸せな気分になるのだった。



「 あれ? 良い香りがする……香水を付けた? 」

「 ? 何にも……… 」

アルベルトはレティの頭に顔を近づけ、クンと匂いを嗅ぐ。

「 嫌いな匂い? 」

「 ううん……僕の好きな匂いだ…… 」

そう言ってレティの頭にチュッと唇をおとした。


匂いと言うものは、どんなに素敵な良い匂いでも、人によっては好き嫌いが分かれるものであると言う事を、1度目の人生でお洒落番長だった私は研究済みだ。


そうか……殿下の好きな匂いか……


「 あっ! 風の魔女さんの香りかも……」

彼女に頭を撫でられた事を思い出した。


「 風の魔力使いは、女性なんだ? 」

「 そう! 凄く綺麗な人で、格好良かったのよ 」


レティは両手を突き出し、魔力を込める格好をする。

「 私も、何かの能力が現れないものかしら 」


いや……

その何時も斜め上を行く、その天才ぶりは凄い能力だと思うが……


アルベルトは

未来の皇太子妃が、これ以上凄い者にはならなくて良いと思うのであった。





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